2歳になった英王室・ジョージ王子の写真が新聞に載っていました。
お父さまに抱っこされた可愛らしい姿です。
「お幸せに」と、こちらも微笑んでしまいます。
父親の腕に抱かれている幼な子の姿は、母親とは異なった安堵感に包まれていて、
身分や貧富の差はなく、観る側にも幸せ感を呼び起こしてくれるものです。
親と子の「かたち」と言えば
『父(ちゃん)と呼べ』という藤沢周平の短編小説を思い出します。
「親と子」というより、「亭主と女房」、家族の持つ恩愛の機微が綴られているのかもしれません。
私の好きな作品の一つです。
〔あらすじ〕
五十を過ぎても棟梁になるあてもない大工の徳五郎は、裏店に住んでいます。
徳五郎夫婦には、一人息子の徳治がいましたが、博奕で身を持ち崩し行方知れず。
そうした事情もあっての淋しさから、夫婦の間には口げんかが絶えません。
徳五郎は、ある夜、親子が強盗をしかけるのを目撃、父はその場で捕まってしまい、
逃げた子どもを、徳五郎は家に連れ帰りますが、口うるさい女房の お吉は、
家に置くのを嫌がります。
子どもの名前は寅太。
寅太の父親は「追い落とし」の咎で島送りになり、子どもを哀れに思った徳五郎夫婦は、
寅太を家に置くことにしました。
しかし、寅太は、なかなか心を開こうとはしなかったのです。
ある日、大勢の子ども達にいじめられていた寅太を見て、止めに入った徳五郎に、
寅太はしがみついて泣きました。
そして、
『父(ちゃん)と呼んでみな』
と、徳五郎に言われた寅太の泣き声は、号泣にかわります。
どしゃ降りで、凍えるような風が吹き荒れる ある夕方のこと、徳五郎が家に帰ってみますと、
お吉は、灯りも付けずに家にいました。
お吉は、〈寅太を連れにきた母親に、寅太は自分から付いて行ったと〉、徳五郎に告げるのです。
その夜、徳五郎は、へべれけに酔っぱらいました。
『みんな行っちまったなあ、お吉』
『お前よく飯を喰う気になれるなあ』
「お前さんだって酒呑んでんじゃないか」
『行っちまいやがった。徳の野郎も、坊主も。俺は婆ぁと二人っきりだ』
「婆ぁで悪かった。ほんと いい加減にして寝なさいよ、あんた」
そして、徳五郎は、
『よう、お吉。一ぺん父(ちゃん)と呼んでみろ。寅太みてえによ』
と、お吉に頼みます。
“ばかばかしい”と口では言いながらも お吉は、
「あいよ」
「こうかい。父(ちゃん)」
『おう』
『もう一度やってくれ』
お吉は、“あほらしくって”と言いながらも、声を作ります。
「父(ちゃん)よ」
『おう』
徳五郎は、ぽろぽろと涙をこぼした。
「ほんとにばかばかしいよ」
お吉は呟やきますが、不意に自分も掌で顔を覆ってしまいます≫
徳五郎夫婦の、心に沁み入る会話です。
朗読をしますと、ついつい感情移入が過ぎてしまう作品です。
〈ゴマメのばーば〉
お父さまに抱っこされた可愛らしい姿です。
「お幸せに」と、こちらも微笑んでしまいます。
父親の腕に抱かれている幼な子の姿は、母親とは異なった安堵感に包まれていて、
身分や貧富の差はなく、観る側にも幸せ感を呼び起こしてくれるものです。
親と子の「かたち」と言えば
『父(ちゃん)と呼べ』という藤沢周平の短編小説を思い出します。
「親と子」というより、「亭主と女房」、家族の持つ恩愛の機微が綴られているのかもしれません。
私の好きな作品の一つです。
〔あらすじ〕
五十を過ぎても棟梁になるあてもない大工の徳五郎は、裏店に住んでいます。
徳五郎夫婦には、一人息子の徳治がいましたが、博奕で身を持ち崩し行方知れず。
そうした事情もあっての淋しさから、夫婦の間には口げんかが絶えません。
徳五郎は、ある夜、親子が強盗をしかけるのを目撃、父はその場で捕まってしまい、
逃げた子どもを、徳五郎は家に連れ帰りますが、口うるさい女房の お吉は、
家に置くのを嫌がります。
子どもの名前は寅太。
寅太の父親は「追い落とし」の咎で島送りになり、子どもを哀れに思った徳五郎夫婦は、
寅太を家に置くことにしました。
しかし、寅太は、なかなか心を開こうとはしなかったのです。
ある日、大勢の子ども達にいじめられていた寅太を見て、止めに入った徳五郎に、
寅太はしがみついて泣きました。
そして、
『父(ちゃん)と呼んでみな』
と、徳五郎に言われた寅太の泣き声は、号泣にかわります。
どしゃ降りで、凍えるような風が吹き荒れる ある夕方のこと、徳五郎が家に帰ってみますと、
お吉は、灯りも付けずに家にいました。
お吉は、〈寅太を連れにきた母親に、寅太は自分から付いて行ったと〉、徳五郎に告げるのです。
その夜、徳五郎は、へべれけに酔っぱらいました。
『みんな行っちまったなあ、お吉』
『お前よく飯を喰う気になれるなあ』
「お前さんだって酒呑んでんじゃないか」
『行っちまいやがった。徳の野郎も、坊主も。俺は婆ぁと二人っきりだ』
「婆ぁで悪かった。ほんと いい加減にして寝なさいよ、あんた」
そして、徳五郎は、
『よう、お吉。一ぺん父(ちゃん)と呼んでみろ。寅太みてえによ』
と、お吉に頼みます。
“ばかばかしい”と口では言いながらも お吉は、
「あいよ」
「こうかい。父(ちゃん)」
『おう』
『もう一度やってくれ』
お吉は、“あほらしくって”と言いながらも、声を作ります。
「父(ちゃん)よ」
『おう』
徳五郎は、ぽろぽろと涙をこぼした。
「ほんとにばかばかしいよ」
お吉は呟やきますが、不意に自分も掌で顔を覆ってしまいます≫
徳五郎夫婦の、心に沁み入る会話です。
朗読をしますと、ついつい感情移入が過ぎてしまう作品です。
〈ゴマメのばーば〉