出版仲間のM君が死んだ。会社は違えど、若いうちからいろいろ語りあかした仲間だ。
ぼくは今の会社はコネ入社だ。前の会社の出版営業部のS部長が去年亡くなった前社長の弟の副社長と懇意にしていて(副社長は1998年に亡くなられたが)、ぼくが無鉄砲に前社を辞めたあと副社長を紹介してくれたのだ。一般の人と同じ日に面接があったので(呑み会面接!)、もしかしたら受からなかったかもしれないけど一応コネ入社だ。
1996年に専門出版社で組織している某団体のなんかの委員長にその副社長が就任し、その副委員長にぼくを紹介してくれた前の会社のS部長が就任した。毎年秋にその団体主催の営業研修的な旅行が開催される。実に昭和的なノリで、うちの会社はそんなのには一切出席していなかったのだが、委員長が副社長ということもあり、誰かを出席させようということになった。目的は書店回りだったりするので、営業が行くべきだが、委員長と副委員長両方知っているぼくが選ばれてしまった。要は小間使い要員だ。結構気を遣う旅行だった。かなりの偉いさんも参加の30名ほどの旅行。粗相があっては困るということで、28歳のぼくはほとんど添乗員的な感じだった。
今でも飲み歩いているHさんと出会ったのはこの旅行だった。一次会が終わった後、やっと散会になったのだが、気遣いに疲弊したぼくをHさんが慰労しようと外に連れ出してくれた。そしてその時に一緒に外出した中にM君がいた。失恋したばっかの同い年のSさん、組合活動に専念しているひとつ上のWさんや酔っぱらったら訳のわからない状態になるO君、イケメンのS君もいた。M君はぼくより若く、斜に構えていて、ジッポーのライターで気取って煙草を吸っている姿が気に喰わなかった。ヤキを入れてやろうと思っていたんだけど、意外にいい奴で、その後次第にぼくの子分的な立場になった。その旅行の後、東京で再びみんなで会うようになり、いつしか「例の会」と呼ぶようになり、取次さんや書店さんを呼んで、今でも呑んでは情報交換している。
昨日の夕方、日本橋の某会社での企画の打ち合わせの最中にHさんから電話があった。「折り返しまーす」と言って切ったのだが、打ち合わせ後にメールが届いた。「昨日、NK社のMくんが亡くなりました」、えっ! って感じで速攻でHさんに掛け直した。死因は不明だが遺体は今警察にあるらしい、とのこと。それって、不審死だからじゃん! 殺人、自殺、事故……。
M君は鬱病になっていて、2年ほどNK社を休職していた。ぼくらの呑み会にもここ数年参加することはなく、ぼくが会ったのは1年半前の夏だ。Hさんは先月中旬にM君と書店員であるM君の彼女と3人で呑んだらしい。そのときも薬のせいかかなりおかしい状態だったという。
今日の金曜日、14:00から葛飾区のお花茶屋にある葬儀場でお別れの会をやるというので、午後早退し向かった。死因は恐らく事故だと思う。警察も断定はしていないらしいが、1日の明け方、アパートの踊り場で倒れている姿を郵便局員に発見されたとのこと。雪が降った日だ。その日も彼女と呑んでいたらしい。ほろ酔い気分で階段を歩いていた時に躓いたかなんかして倒れ、そのまま意識を失って息を引き取ったものと思われる。凍死の可能性もある。どちらにしても鬱病のことは知っていたので、自殺でなかったことには少し安堵した。
宗教上のこともあり、一般的な葬儀は行わず、今日行ったのは遺体を焼いただけ。明後日、遺骨を実家に持ち帰り、その宗教に則った葬儀が行われるらしい。焼く前の顔を見ることができた。階段から転げ落ちたと思われる傷が顔面の所々にあったが、酔っぱらって寝ているようにも見えた。享年40歳。働き盛りの男の最期とは思えないほど寂しい会だった。ご両親や妹夫婦など親類が8名ほど、こっちは「例の会」のメンバー8名ほど。M君の最期をこんな人数で見送っていいのか、いささか残念だった。あろうことか彼が所属していたNK社の人間が誰も来ていない。お荷物の人間だったかもしれない、社内でも嫌われていたかもしれない、でも18歳から20年も勤めた人間の最期を看取ろうとしないNK社人間の姿勢は許しがたいものがある。最後の妹さんの挨拶には思わず号泣してまった。
M君とは「バカ!」「タコ!」と言い合える仲だった。ぼくに感化され読み始めた司馬遼太郎について真剣に語り合うこともあったり、ぼくの十八番のミスチルを密かに練習していたり、どうしょうもなく年上の女性が好きなんだと告白てきたり、彼とはその仲間内でも兄弟のような間柄だった。もしかしたら会社の後輩よりかわいがっていたかもしれない。彼はぼくのことを慕ってくれていて、「斎藤のアニキなんかに負けられないですよ!」というような言葉を吐いたりして、いつもの喧嘩が始まるのだが、周りの人たちはいつもの風物詩として愉しんでいた。そういった面でも悔しくてしょうがない。彼が鬱になった時から少し避けていた面は否めない。ぼくがM君と正面から向き合っていればなんとかなったかもしれないと思うとやりきれない。
Mの馬鹿野郎! ────合掌!