「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

ユングの連想実験(2)

2006年01月30日 20時10分46秒 | 心理
 
 反応の乱れが起こるのは、その単語に対して被験者が何か特別な感情(それも抑圧された否定的な感情)を抱いているからではないか? 

 その感情を刺激されるために反応が乱される、そうユングは考えたのです。

 例えば「父親」という単語を示されたとき、父親を憎いと思っている人だと、混乱して何と答えていいかうろたえたり、「憎い」という言葉をなかなか言えずに黙ってしまったりするのです。

 そう言われてみれば確かに当たり前のことなのですが、これはコロンブスの卵的な着眼でした。

 そしてユングは連想実験によって、その人が抑圧しているものを知ることができると見抜いたのです。

 それは、単なる知能検査だった連想実験に対する、ユングの天才的な発想の転換でした。
 

 さらにユングは、「再生実験」というものを行ないました。

 最初の100個の刺激語と同じ単語をもう一度被験者に示し、さっきと同じ答を言ってもらうものです。

 意外に思われるかもしれませんが、普通の人は1回目の答を99%覚えていて、すぐに答えられるそうです。

 ところが、反応の乱れがあった単語に対してはほとんど覚えていないのです。

 一見逆に思われるかもしれません。

 時間をかけたから印象に残るのではないかという気がしますが、実際には思い出せなかったり、非常に時間がかかったりします。

 人間は感情的になったときのことをよく覚えていないからです。

 冷静なときのことは覚えていても、感情が乱れると記憶に残りにくいのです。

 人間の心の不思議さですね。

(続く)