W.A.モーツアルトは「セレナーデ」を最後に書き上げた最もポピュラーな「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」まで全部で13曲を遺している。そのうち巨匠カール・ベーム(Karl Böhm/1894~1981)が生涯に正規録音した作品は今回取り上げる「ポスホルン」を含め5つである。勿論それらはオーケストラ及び抜粋録音等を合わせると延べ十数種になると思われる。この「第9番」にあたる「ニ長調K.320」の「ポストホルン」は、モーツアルトが23歳の頃に書いたもので副題は作曲者自身がつけたものではないが「第6楽章メヌエット」の第2トリオで当時郵便馬車で使用されたラッパ、いわゆる「ポストホルン」が加えれているところからその名の由来がある。因みにベームはこの作品に関してはベルリン・フィルと1970年5月録音(写真LP/DG国内盤MG1215)しか遺していない。彼はこの「7楽章」から構成されるスケールが大きな「セレナーデ」をベルリン・フィルが持つ緻密アンサンブルで上品にしかも雄大に仕上げている。さらにこの録音では当時のベルリン・フィルの管楽器の名手たち、ジェームズ・ゴールウェィ(フルート)、ローター・コッホ(オーボエ)、ホルスト・アイヒラー(ポストホルン)があたっている。
ところでこのレコードの第2面の余白にはベームが「ウィーン・フィル」と1974年10月にレコーディングした「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が収録されているが彼の5種類ある同曲録音でこれが唯一の「ステレオ録音」だったことも付け加えておきたい。