毎日が観光

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銚子 その一

2010年11月08日 23時03分44秒 | 観光
 暑くて、あまりにも暑くて自転車に乗れなかった夏。急に寒くなって自転車に乗ろうとしなかった秋。寂しげ目でぼくを眺めてため息をつく愛馬ロシナンテに、ごめんよとつぶやきながら家を出る毎日でした。
 ごめんよ、ロシナンテ。この週末はきみに付き合おう。「どこ行きたい?」「海に行きたいです、ご主人」
 よろしい、ただいつもの海じゃあつまんない。葛西も九十九里も夏に行った。銚子まで走ってこうぜ、ロシナンテ。
 6km走っていつもの荒川サイクリングロード。「久しぶりじゃないですか、今日はどちらまで?」あ、いかん、ここにも久しぶりの友人が。いや、今日はきみを走るんじゃなくて、どっちかってえと利根川メインで。「利根川っすか? じゃあ、北鴻巣までの60km、あるいは熊谷までの80kmお付き合いしますよ」
 尻尾振ってニコニコしてる荒川に、ごめん、またね、とつぶやきながら、そして自分にはどうしてこんなに非実在の友人が多いのか、人生間違えてないか、どんな幻影見えちゃってるんだよ、と、いろんな疑念を自ら打ち消しながら、荒川から国道6号線、そして江戸川サイクリングロード。ここから北風を受けつつ北上、流山の先から江戸川・利根川運河に乗って、いよいよ利根川、ここは茨城県取手市。ここまで80km。


 ここで遅い朝ごはん+プレ昼ごはん。ウォークマンでブルックナーの7番聴きながら、おにぎり食べてるだけで体の内側からどしどし幸福感が湧いてくる。幸せも不幸も、ものすごく近いところにあって、というか、むしろ自分の体の中にあるくらい近いところにあって、というか、だから、自分自身とそれは同一のものであって、ただそれをいちいち感じていたら日常生活が送れないから、当たり前のような感じで受け流しているけれど、でも、自分の体の中にほんといろんなものがあるってことを、自転車によってぼくは知った。
 走りだしてもしばらく両手放しでエア指揮者。
 サイクリングロードでのんびりと日向ぼっこしてるバッタを驚かせ、ごめんよごめんよ言いながら走ってく内に、何を思ったのか、ぼくの靴に張り付いて「いやいや、わたしは動きませんよ」って感じでしがみついてるバッタが一匹。こいつをお供に愛馬ロシナンテと三位一体、利根川を下ります。


 千葉側は整備が全然進んでいないので、茨城側を走ります。ここはJR鹿島線の鉄橋。手を伸ばせば触れそうなところを電車が走ります。実際走るとこ見たら迫力あるんだろうけれど、ダイヤが薄いので待っていられません。
 すべてのものはつかの間の存在です。ぼくと茨城側サイクリングロードとの良好な関係もやがては終りを迎えます。海まで19kmに至って、茨城側のサイクリングロードは消滅してしまいます。しかし、誰がそれを責めることができましょう。なぜなら、北から流入してくる常陸利根川によって、それまでのサイクリングロードを支え続けた陸地は中洲のような状態になり、2つの川の合流地点で水没してしまうのです。その運命をともに嘆くことはあっても、決して責める気にはなれません。
 わかりました。今までありがとう。千葉に渡りましょう。ええ、あなたもお体大切に。


 怖いっす。ロードバイクって、サドル高いんすよ。だもんで、右側の手すり、ほとんど役に立たないんです。お尻から上、ほぼアウト・オブ手すり。右によろけると転落死します。で、左はバンバン車が向かってくる。左によろけると轢死します。そしてその左右の余裕は、ほぼありません。遊びのない真剣勝負のような橋です。この橋はこれによってぼくに何を伝えようとしているのでしょう。人生の失敗できない際どさ? 厳しさ? 何やら、重いメタファーと恐怖に全身包まれながら、「怖いよー、冗談じゃねえよ、無理だってこんなの、いやいや、とにかく前だけ見るんだ、前だけ見るんだ、おー、トラック厳しいよお」などと、だれもいないことをこれ幸いに大声で怒鳴り、少しでも恐怖を忘れようとしつつ橋を渡ります。千葉に着いたときには、何か、何というのでしょう、少し大人になったような気さえしました。
 しかし、千葉も案外冷たい仕打ちを見舞います。
 残り19kmで仕方なく茨城側が消滅したのに対して、千葉側はまるで、まったくそれらしい理由を示すことなく、淡々と残り14kmで終了を言い渡してきたのです。


 終点標識。
 このあと、別に水没するわけでもなく、河川敷は延々続いているにも関わらず、ただ標識を立てて終了宣言。どうでしょう、それ。どこか努力不足を感じさせます。
 さて、そんなわけで、残り14kmで消滅してしまった利根川サイクリングロードですが、もちろん、ここで帰りはしません。愛馬ロシナンテも「ここまで来て海を見ないなんてことありませんよ、ご主人」とぼくを見上げてる。「でも、ご主人、ぼくのこと愛馬って呼んでくださるのは嬉しいのですが、ドン・キホーテに出てくるロシナンテってロバっす」
コメント
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