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ギュスターブ・モロー展(2)

2005年10月17日 15時38分53秒 | 読書


「一角獣」
 わーい、一角獣だ。クリュニー美術館にかかっているタピスリーがもとになった作品。赤が基調なのも、クリュニーの影響だろう(クリュニー美術館、すごく好きなんです、実は)。
 一角獣といる女性たちのどこかけだるいところが、ボードレールの詩の一節を思い出す。「旅への誘い」。
 「そこではすべてが秩序と美と
  豪奢と悦楽と静けさと。」
 まさにモローの「一角獣」の雰囲気だ。モローはボードレールの詩を愛し、彼の母親から詩集をもらったこともある。

「アラビアの歌手、あるいはペルシャの詩人」
 もう1作「インドの詩人」とともに当時の東洋趣味をあらわした作品。中世、高度なアラビア文化に触れてヨーロッパは文明化されたようなものである。アラビアとヨーロッパ、イスラムとキリスト教というと水と油のような感じがするが、それはある一面だけのこと。フランス人最初の教皇シルヴェステル2世など、スペインに留学してアラビア文化を研究していた。ヨーロッパ中世に大きな影響を与えたアリストテレスの著作も最初はアラビア語訳で読まれていたのだ。日本語にもアルカリだのアルコールだの、アラビア語起源の科学用語は数多く存在している。
 アラビアはヨーロッパ人のあこがれだったのだ。
 だからここに出てくる詩人や歌手はみな瀟洒な衣装を身にまとい、馬をたずさえている(中世以来の吟遊詩人だね)。
 またわざわざペルシアとしているのも、古典的アラビア詩歌の枠を越えたマスナウィーという二行連句の叙事詩を生み出し、それがスペインのムワッシャシャハなどの叙情詩とともにヨーロッパの文学に大きな影響を与えた経緯もあるからだろう。中世期騎士の理想とされたプラトニック・ラブもアラビア起源と言ってもいいだろう。
 そんな中世期のあこがれを再現したような、小品ながら素晴らしい作品だった。

「洗礼者ヨハネの斬首」
 左上からヨハネに斜めに向かう光、ヨハネが祈りを捧げる右側の垂直な光、この形の違う左右の光の中心に祈るヨハネと処刑人がいる。今にも振り上げんとする処刑人の動きのない動きが画面全体を引き締めてる。震えがきちゃいましたね。
 ここらへん一連の「サロメ」はどれもすばらしい。頭の中をR.シュトラウスの「サロメ」がなりっぱなし。「7つのヴェールの踊り」が有名だけれど、白眉はなんと言ってもそのあと。ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の最後さながら、18歳未満禁止のいやらしさ。ところがこのいやらしさがつきつめられていくと、何か聖なるものへと変容する。要するに半端なすけべが一番たちが悪い、と。

 他にもこってりとした色遣いや豪華な衣装と対照的に簡素な夕べの風景が印象的な「サッフォーの死」、ファム・ファタルな「メッサリーナ」、その美しさにくらくらきちゃった「オデュッセウスとセイレーン」や「ヘシオドスとムーサたち」など、見所の満載の展覧会でありました。
 10/23までなので、未見の方はお早めに。
コメント
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