ダウンワード・パラダイス

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広瀬章人 八段 vs. 藤井聡太 竜王 第35期竜王戦 七番勝負第5局

2022-11-27 | 雑(youtube/パソコン/将棋。ほか)
 この記事は、自分のための覚え書きなので、将棋に興味のない方は、かまわず素通りしてください。
 11月25・26日の両日にわたり、福岡県福津市の宮地嶽(みやじだけ)神社にて開催された第35期竜王戦(読売新聞社主催、特別協賛・野村ホールディングス)七番勝負の第5局は、挑戦者の広瀬章人八段(先手番)が133手で勝ち、シリーズ対戦成績を2勝3敗とした。
 藤井竜王(ほか王位・叡王・王将・棋聖と併せて現在は五冠)が、タイトル戦の七番勝負で二敗を喫するのはこれが初めて(つまりこれまでは、4―0のストレートか、悪くとも4―1で勝ってきたということ)。


 2日目が土曜だったので、ぼくは作業をしながらアベマTVの将棋チャンネルで観戦していた。
 この対局、藤井竜王は例によってほぼアベマAIの示す最善手を指し続け、形勢判断は、午後の時点で72%くらい後手有利。いわゆる「藤井曲線」というやつで、いつもなら、ここから優位を保ったまま押し切って勝つ。相撲でいうところの「寄り切り」だ。こちらとしては、その強さに痺れたい一心で、ついつい藤井将棋を観てしまうわけだが……。

   
第1図

 ところが90手目、竜王はこの局面から、AIの表示する△4八角成を指さず、△3五角と飛車のほうを取った。そこでAIの評価値が大きく揺れて、(正確な数値は覚えてないが)後手の藤井側が50%をいくらか切った。一気に逆転したわけである。
 逆転とはいえ微差なので、まだまだ勝負はこれからだったが、1日目でかなり時間を消費していて余裕がなく、かつ、このあとの攻撃に対する広瀬八段の受けが正確無比であったため、見る見る敗勢になっていき、いいところなく負けてしまった。
 ぼくはてっきり図の局面から△4八角成▲同玉に△4七金と上から押さえて勝つものだとばかり思っていたので、△3五角には思わず「えーっ。」と声が出た。いちおう投了までは見届けたものの、正直面白くなかったので、感想戦も見ずに中継を切ってしまった。
 今朝になってから、いわゆる「将棋系youtuber」諸氏の解説を聞くと、たしかに△4八角成で後手勝ちだし、いうまでもなく藤井竜王もその手順を読んではいたのだけれど、この先の寄せがあまりにも難解を極めるために、さしもの竜王も読み切れなかったらしいとのことだ。
 △4七金のあと、先手玉が左に逃げればわかりやすいが、すっと右側に躱されてみると、いかにも手駒が少なく、切れ筋にみえる。しかも▲3四角の王手から▲2五桂と角道を遮断する筋もあり(ぼくはそれをまったく思いつかなかったので、かんたんに後手勝ちと判断していた)、なるほどたしかに、攻めが続くとは思えない。双方が最善手を指し続けると、下の局面になるらしい。先手がうまく受け切っていて、一見すると、後手の攻めは完全に切れている。




第2図

 しかし、信頼すべき複数の将棋系youtuber氏らの意見によれば、ここで△1六歩と突き出す鬼手があり、それで後手の攻めが繋がって、どうやっても先手は振りほどくことができず、詰みを免れないという。
 その手順はたいへん複雑なので、ここには書ききれないが、「一歩千金」という格言どおりの順だった。
 ともあれ、重要なのは、第1図における藤井サイド72%の優位というのは、この「△1六歩」までをも含めて……ということなのだ。
 もし仮に、第2図の局面を目の前にすれば、藤井竜王ならばあるいは、さほど時間を要さず1六歩を発見するかもしれない。しかし十数手も前から枝葉を含むすべての変化を読み切って、ここに踏み込むのはやはり人間業では無理かと思われる。△4八角成を決行できなかったのもやむなし……という話だ。
 今回は、事前研究によって一日目から藤井竜王の持ち時間をごっそり削り、かつ、優位に立ってからは一手も緩むことのなかった広瀬八段を褒めるべきだろう。
 そのように考えて、昨日から波立っていた心持ちがようやく治まったのだった。
 


 
 
 




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