ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

平成最後のスタジオジブリ

2019-04-16 | ジブリ






 ジブリ作品が「金曜ロードSHOW!」のメイン・コンテンツになったのはいつ頃からかな。平成に入ってからってのは間違いないけど、それでも10年やそこらの話じゃないよね。
 ともあれその平成を締めくくる2本が、高畑勲さんの『平成狸合戦ぽんぽこ』と宮崎駿さんの『風立ちぬ』だったというね……。これがまた切ないんだわ2本とも。今回もまあ、泣いた泣いた。「ぽんぽこ」は4回くらい観てるんだけど、見るたびにナミダの量が増えてく感じでね。齢をくうにつれ切なさがいや増す作品ですよあれは。
 『風立ちぬ』は6年前(2013=平成25)かな、劇場まで行って観たんですよね。『もののけ姫』いこうの宮崎作品はぜんぶ構成が破綻してるんだけど、あれもやっぱりそうなんだ。宮崎さんって作家はひょっとしたら作品を収束できないんじゃないか、とすら最近ぼくは思いはじめてるくらいでね。もともと職人じゃなく、天才肌のアーティストなんだろうね。
 『風立ちぬ』もラスト付近がばたばたでしょ。菜穂子の死と日本の敗戦とが二郎の中で綯い交ぜになってるんだよね。
 あと、全体のバランスも異様でしょう。二郎チームの作った零戦は、けっきょく本編中では一度もまともに空を飛ばない。回想シーンのみ。それもほぼ残骸ばかり。それなのに、カプローニとの夢のくだりはやたらと尺を取っててね。
 作中では「カストルプ」と名乗っていた、ゾルゲと思しき人物も何だかよくわからなかったしね。ふしぎなアニメだと思う。あれがそのまま宮崎監督における「日中~太平洋戦争」観だとは思わないけど、面妖なアニメですね。庵野秀明氏の棒読みがいっそうその面妖さを増幅していて、その点は好配役だったんだろうね。
 いっぽう、「ぽんぽこ」は巧すぎるくらい巧緻に組み立てられた作品で、そこは好対照ですね。高畑さんはあくまでも手練れの職人だから……。むろん、それだけで済むような方でないのは言うまでもないですが。あ、いや、主役が棒読みだったのはこちらも同じか。あれだけの顔ぶれを揃えておいて、なんで正吉役が野々村真さんになったのだろうか。
 いずれにせよ、「ぽんぽこ」も『風立ちぬ』も敗北を描いた話なんだ。敗れ去った者たちを悼むお話ですよ。挽歌といってもいいかなあ。それが平成の〆に2本まとめて来ちゃったわけですよ。なんとも象徴的だなあと。
 「ぽんぽこ」は多摩ニュータウンの造成が背景だから、じっさいは昭和の出来事なんだよね。戦後の高度成長期。いっぽう「風」は大正末期から戦前~戦中~敗戦直後まで。どっちも平成が舞台ってわけじゃない。それでもすごくリアルなんだよね。
 劇場でみた6年前にはさほど思わなかったけど、いまのニホンっていよいよ『風立ちぬ』の感じに似てきてますね。「戦前」って感じがすごくしますよ。「どこと戦争するつもりなんだろう」と、ぼくも言いたい気分ですけども。
 「ぽんぽこ」にしてもね、科学信仰の行きつく果て、みたいなことを考えたら、どうしてもフクシマのことが頭をよぎるし、狸たちが幻術でもって「百鬼夜行」を繰り広げるシーンで、住宅街を大津波が襲う場面があるでしょう。あそこは今回、やはりドキッとしましたね。優れた芸術ってのは、おしなべて予見的なんだなあと。
 じつはぼくにとっての「ベストワン・ジブリ」は「ぽんぽこ」なんですよ。シンプルに好きだし、作品としても卓越していると思う。『風の谷のナウシカ』は、アニメ史どころか映画史に残る傑作だけど、あれはジブリ作品じゃないから……。当時はまだスタジオジブリはなかった。「ナウシカ」が大方の予想を超えてヒットしたことで、ジブリという会社ができたわけですね。それも結局、平成のうちに事実上の解体となりましたが。
 だから『平成狸合戦ぽんぽこ』がぼくにとっての「ベストワン・ジブリ」なんだけど、若い人なんかはあれ、「説教くさい」と敬遠したりするみたいだね。「説教くさい」って言い回しはよくわかんないんで、たぶん「メッセージ色が強すぎる」って意味かなあって思うんだけど、まあねえ、みんな齢とりゃ自ずと分かるよ。
 あの作品って、完敗に終わった政治闘争の話にもみえるし、自然破壊を難詰する寓話にもみえるし、人間中心主義へのこっぴどい批判のようもみえるんだけど、ぼくは今回、あの狸たちがそのままぼくたち一般ピープルに重なってみえましたね。「近代(モダン)」の目まぐるしさに疲れて「前近代」を夢見る気持ちは誰しもが心の底に抱いていると思うけど、やっぱりそれでもぼくたちは、この「現代社会」でしか生きられない。生きていくしかない。そういってるようにも見えたなあ。
 あの作品が上映された時分は、まだスマホもネットも普及してなかった。ちょうどその前夜でした。ハイテク社会がこれからどこまで行くのかは見当もつかないけれど、節目節目に思い起こされ、繰り返し参照される一作であると思いますね、「ぽんぽこ」は。