ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

草原の実験

2015-09-23 23:32:29 | さ行

衝撃ラストと聞いていたましたが……これは!


「草原の実験」69点★★★★


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草原のなかに、ぽつんとある家で
父と暮らす少女(エレーナ・アン)。

少女は毎朝、どこかに働きに出かける父を見送り
日常の仕事をこなす。

そんなある日、どこかから金髪の少年がやってきて
少女に恋をするが――?


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2014年の東京国際映画祭でW受賞のロシア映画。

衝撃ラストと聞いていましたが、これはぶっ飛びました。


実際、試写終わりもみなさん
言い悪いとかより、とにかく無言というか
「ぼーぜん」という感じだった(笑)


荒涼とした草原のなかに
ぽつんとある家で男と暮らす少女が主人公。

そこに人がときどき訪ねてくる様は
ものすごくタル・ベーラ監督の
「ニーチェの馬」っぽい。



そもそも美少女と
つるんと若くもみえるモンゴル人系の顔立ちの男の関係が
親子だってことも知らずに見たので

最初は
「歳の離れた妻なのか?」「囚われてるのか?」とか
全然違うところで「衝撃?!」を予想して
かなり一人でモヤりました(笑)

ほとんどセリフもなく
説明もなく

でも
引きつけられるシーンが多い。


しかしムズカシイのは
「なんの話なんだろう?」のまま
断片だけを見ていくと
どうしても何処か見たようなイメージに重なってしまう。

SFなのか?な終末観は
タルコフスキー×タル・ベーラ、

少女のリリカルなイメージは
チャン・イーモウ×岩井俊二……とかね。


予備知識ナシで観たほうが
絶対に衝撃度を味わえるんだけど
その衝撃に比べて
そこまでの積み重ねが弱いかなあとかね。

でも、見終わって思い返すと
やっぱりけっこう凄い映画かも、と思える。


ラストに関しては言わないけれど
タイトルの意味が「そうか!」とわかる瞬間に
ゾッとするのと

この話が
実際の事件を基にしていると知ると
映画の意味が確実に違ってみえるはず。

とりあえず、お試しいただいて、イケると思います。


★9/26(土)から渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「草原の実験」公式サイト
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ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~

2015-09-17 21:26:51 | さ行

この吸血鬼の描き方は
単純に、カッコいい。


「ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~」72点★★★★


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ドラッグが蔓延し、娼婦が闊歩する
闇の町“バッド・シティ”。

そこに暮らす
青年アラシュ(アラシュ・マランディ)は
猫を愛し、善悪の区別のつく青年。

だが、彼の父親はドラッグに溺れ、
アラシュは借金返済のため、闇に足を踏み入れてしまう。

そんなとき、彼は
黒いチャドルをまとった
美しい少女(シェイラ・ヴァンド)と出会うのだが――?!


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イラン人の両親のもと
イギリスで生まれたアナ・リリ・アミリブール監督による
ネオ・ヴァンパイアホラー。

これが実にセンスよく、
残酷すぎず、クールで美しいんですわ。

アメリカでは
「デヴィット・リンチやジャームッシュの初期を思わせる」と評判で
ロッテン・トマトでも95%が「フレッシュ!」の高評価。

なるほど納得っす。


冒頭から、普通にパンしていく風景の後ろの川に
「なに?死体の山?」とか
サラッと流してくんだけど「え?」的な仕掛けがあって

終始鳴り響く、地響きのような、耳鳴りのような、
不快で不穏な音響も、ムードを盛り上げる。


主人公の青年が猫を可愛がってる設定で
「猫と吸血鬼は天敵だから、絶対、猫がヤバイかも……」と思うと
これが
猫もぜーんぜん平気なヴァンパイアだったり(笑)。

チャドルの下の彼女は
ボーダーTのショートカットだったり

常識をかるく飛び越えてくるんですよ。


オチにはもうひとひねり欲しい感じだけど、
十分ハラハラしたし、かなり満足でした。

怖がりさんにもイケまっせ。


★9/19(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~」公式サイト
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ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏

2015-09-16 23:47:05 | は行

この事件、ニュースで知ったときは衝撃だったよなあ……。

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「ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏」69点★★★☆


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2013年1月。

ボリショイ・バレエ団の元スター・ダンサーで
芸術監督を務めるセルゲイ・フィーリン氏が
何者かに顔に硫酸をかけられる、という事件が発生。

その事件の顛末をイギリス人監督×BBC製作で
ボリショイ内部に潜入して撮影したドキュメンタリーです。


この事件が世界中のメディアを騒がせたことは
記憶に新しいし、

ワシもさすがにこの事件を聞いたとき
「バレエに美青年に顔に硫酸……!少女マンガの世界じゃあるまいし!」と
衝撃を受けました。

なので、かなーり期待大のドキュメンタリー。

で、実際ほぼ期待どおりに、いやそれ以上に
このセンセーショナルな事件を
事件当時のニュース映像、団員たちや、関係者のインタビューを交えて
かなりサスペンスフルに
ある意味、過剰なまでに盛り上げていく作品でした。


事件がきっちりまとめられていて
わかりやすいのもいい。

でも、ワシがまず驚いたのは
劇中で紹介されるボリショイ・バレエの舞台。

けっこう様々なバレエドキュメンタリーを見てきたんですが、
ボリショイの映像を映画で見るのは初めてで

なんとまあ
華美な衣装や舞台装置だろう!って。と。

すごくお金がかかっていて
あけすけに言うと
サーカスのように、きらびやか。

さらに
団員たちが平気で不平や不満を口にしたり
けっこう赤裸々に事件を語る様子にもびっくり。(どこまで素だか、わかんないけどね)
時に

あと
トップクラスのバレエダンサーである女性たちに娘がいたり
息子のいるシングルマザーだったりするのにもびっくり。

ファースト・ソリストの
団地住まいっぽい庶民さにもびっくり。


そうして、ボリショイの内外事情を知りながら
次第に興味は主題のショッキングな事件から、
もっと大きな意味での“ロシアの闇”に向いていく――んですねえ。


団員が「頑張っても評価されない、報われない」と言うのが
けっこう衝撃だったし

奇跡的に復活するフィーリン氏だって
復帰後の舞台で
「仕事の成功は嬉しいが、感謝もされない」的なことを言うんですよ。


これだけ芸術を庇護しているようにみえて
そのフロントにいる人々がけっこう不満タラタラ、という
ロシアの現実が写っているのが、この映画のミソではないでしょうか。

ロシアの闇は深そうです。


★9/19(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏」公式サイト
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シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人

2015-09-15 23:49:38 | さ行

アメリカの不都合な部分が
いろいろバッチリ写っちゃってるドキュメンタリー。

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「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」69点★★★☆


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アメリカ・シアトルの小さな町に住む
シャーリー(92歳)とヒンダ(86歳)。

二人は30年来の親友で
いつもお茶を飲みながら、いろいろ語り合う仲。

いま二人のトピックは
「アメリカの不況」の状況。

サブプライム問題で家を失ったとおぼしき人々が
公園でテント生活を行っている様子を見つつ、

それでもテレビは
「経済成長!」「消費拡大!」を訴える。

なーんか違和感を感じた二人は
「経済成長をなぜしなくてはならないの?」の素朴な疑問を持ち、

大学教授や経済アナリストなど
いろいろな専門家に話を聞いていく……というドキュメンタリー。

92歳と86歳?!のコンビには驚くけれど
二人はGoogleもYouTubeも使いこなすわ、
(孫娘、いやひ孫か?の手も借りてるけどね)

電動車椅子でどこでも行くは
かなりアクティブ(笑)。

そして彼女たちの突撃はあまりに非力すぎて
別の意味でハラハラしどおし。


さらに、二人が聴講した大学の授業のあきれた実態や
ウォール街でシャーリーを罵るSPなど
(92歳のお年寄りに、だよ?

アメリカの不都合な部分が
思い掛けずバッチリ写っちゃってるのが
この映画のミソ。

「経済問題」の答えだけでなく
彼女たちの行動自体が

成長神話を信じて疑わず走ってきた
アメリカ人の問題の根深さを考えさせる、という

なかなかできた映画だと思いました。

ただ、結論は
「経済成長」に乗るのをやめたワシみたいな人間から見ると
割とフツーに思えるものではある。

あと見ると
「監督はどうやってこの二人を見つけたの?」が
すごく気になると思うんですが

資料によると
そもそも二人は、いろんな活動をしている人らしい。

映画にそこが描かれず
「街のおばあさんが、こんなことしちゃった!」的なノリに
やや意図的にしている感じが
頭の堅いワシにはちょっと残念だったかな。

でも、おもしろいっすよ。


★9/19(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」公式サイト
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進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンドオブザワールド

2015-09-14 23:16:33 | さ行

漫画とは話、全然違うんですってね。


「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンドオブザワールド」61点★★★


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百年以上前、突如現れた巨人たちに
人類の大半が喰われた地球。

百年後。再び現れた巨人に
人類はまたも危機に陥る。

戦いのなか
巨人に喰われてしまったエレン(三浦春馬)は
しかし、奇跡的に生還する。

それには、ある秘密があった――。

彼は、人類存亡の鍵となるのか?!
そして巨人の謎は解けるのか――?!


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「前編」から
1カ月半ほどで、後編公開。

冒頭からいきなり秘密を明かしてくれたり
主要人物が死んだり、

サービスがいいと思う。

二部構成のストレスを軽減させようという思いがあるのかな
ともに尺は1時間半ほどだし
これなら前後編もいいかな、と思わせます。


前編は巨人のインパクト
後編は謎解きのおもしろさを押し出し、

超絶に、生理的にヤだった中型(?)巨人よりも
赤い“デカ巨人”の出番が多いのも
ビジュアル的には助かる(笑)

謎もろもろも
意外にスッキリ(あっさり?)解けたけど、

この話、漫画とは違うそうなんで
そういうものだとして、観るのがよいんでしょうね。

いや、でも、まだあの秘密が残ってるか――。


★9/19(土)から全国で公開。

「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンドオブザワールド」公式サイト
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