ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

抱擁のかけら

2009-11-23 11:25:44 | は行
これは期待が高すぎたパターンかもしれません。


「抱擁のかけら」60点★★


「オール・アバウト・マイ・マーザー」「ボルベール<帰郷>」の
ペドロ・アルモドバル監督×ペネロペ・クルスの
黄金コンビによる最新作――なんだけど

今回は話が冴えないのだー。



主人公は盲目の脚本家ハリー・ケイン(ルイス・オマール)。
彼はあるニュースを聞き、14年前の出来事を回想する。

当時、彼は映画監督をしており
美しい女優レナ(ペネロペ・クルス)と運命的な恋をした。
しかしレナは権力ある実業家の愛人だった…・・・


ペネロペの美しさは本当に画面から溢れんばかりで
その存在だけで事件を予感させるんだけど

そのキャラクター造形が中途半端。


女性の底力や母性をくっきりしたラインで描いてきた監督にしては
すごくぼやけた印象だ。


劇中でペネロペが主演する映画が
監督自身の映画「神経衰弱ぎりぎりの女たち」に似ているなど
全体的に自分を投影したような作りなのがイマイチな理由かも。


映画って、主人公が映画監督だったり、小説家だったり
監督自身の分身のようなキャラだと
客観性を欠き自己完結しがちというか、空回りしがちなんですよね。


カメラテスト用にペネロペが
ヘプバーンふうになったり、モンローふうになったり
七変化するシーンも趣味炸裂、という感じ。


ま、ペネロペの美しさはたんまり楽しめるし
衣装やセットなど目の覚めるような原色の色遣いはさすが。


目には楽しいんです、ハイ。


★2010年2/6から新宿ピカデリー、TOHOシネマズ六本木ほか全国で公開。

「抱擁のかけら」公式サイト

コメント (5)
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ウディ・アレンの夢と犯罪

2009-11-22 02:16:14 | あ行



「ウディ・アレンの夢と犯罪」84点★★★


傑作「マッチポイント」以来、
ずっと女(スカーレット・ヨハンソンね)と
コメディに寄りすぎて不発だったウディが
ついにやってくれました!





パンフレットのビジュアルも
最高じゃないですか?


ユアン・マクレガー×コリン・ファレルという
二大スターを兄弟役にして

犯罪におけるギリギリの心理劇を
シリアスに描ききってます。


舞台は労働者階級が暮らすロンドン南部。

投資ビジネスでの成功を夢見る兄(ユアン・マクレガー)と
自動車修理工の弟(コリン・ファレル)。
地道に生きてきた2人が
一艘の小型クルーザーを手に入れたことで
運命の歯車を狂わせていく……という話。


まずは主演二人の
絶妙なアンサンブル演技に拍手。


ごくシンプルな犯罪劇を
人間の内面に迫って描くいわば古典的犯罪モノですが
そこは老獪なウディ・アレン節が炸裂で、


会話の妙にユーモアも交えて
決して古くさくなく
かなりスリリングなドラマになってます。


シーンのハラハラを盛り上げる
フィリップ・グラスの音楽もグッド。


重要な舞台となるヨットといい
野望と若さゆえに転がり落ちる若者といい
「太陽がいっぱい」へのオマージュを感じさせる
“映画らしい映画”です。


このところ70点~80点台の高得点が続いてて番長ホクホク。

番長の採点は70点以上が「お金を払って観たい」ライン。
この調子でいきたいものです。


★来年春、恵比寿ガーデンシネマほかで公開。

「ウディ・アレンの夢と犯罪」公式サイト
コメント (6)
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(500)日のサマー

2009-11-21 13:11:51 | か行
この写真をみて「彼、割とタイプ」という人にはおすすめ。


「(500)日のサマー)」77点★★★


サンダンス映画祭で大ウケし、
全米でじわじわと大ヒットしたという
ちょっと話題のラブストーリー。


主人公の青年(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が
エキセントリックでキュートな女の子サマー(ズーイー・デシャネル)に
一目惚れし、彼女に振り回される500日間のおはなし。


2人の出会いから時間を行きつ戻りつしながら進む
構成もなかなかユニークだし

主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットがカワイイ。
彼は「セントアンナの奇跡」の最初に出てきた、あの記者役の男の子か?

華奢でくしゃ顔、おとなしげで
日本人好みの草食系だと思う。


本当はサマーを演じるズーイーが
全米では個性派として熱烈に支持されてるそうなんですが
日本ではあまり知られてないし
正直、番長も「べつにー」って感じでしたな。
ま、これは好みの問題で


なにより恋愛モノは女子目線が多いけど
これは完全に男子目線で
かつ女子も共感できるっていうところがミソ。


会社で出会って、カラオケ大会でいいムードになって
IKEAでデートしちゃって…なんて
ホラ、みなさんやってません?(笑)


特に大事件が起こるわけでもなく
なんとなーくうまくいかなくなったりする男女の顛末が
実に日常的でリアリティーがあるんですよ。


男と女のことなんて
永遠に繰り返される戯れ言か、と
ちょっと冷めた目線もおもしろかったです。


★来年1月からTOHOシネマズほか全国で公開。

「(500)日のサマー」公式サイト
コメント (4)
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ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

2009-11-19 19:52:58 | ま行
この宣伝チラシ、ビジュアルセンスが悪いよ~
あやうく食わずギライするところでした。


「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」80点★★★


今年の「このミス」「文春」のトップ3にも入選確実とされている
話題のスウェーデン発ミステリー小説の映画化です。


なんたって人口900万人のスウェーデンで
360万部(!)売れたっていうんですから
え?どんだけのベストセラーなの?って。


映画は原作のテイストそのまんまだそうで
2時間半もあるのに、ぜんぜん飽きず
しっかり引きつけられました。


主人公は雑誌記者のミカエル。
彼は大企業の重鎮から
40年前に失踪した少女の行方を捜して欲しいと頼まれる。

彼は鼻ピアスにパンクファッションだけどめちゃくちゃ頭のキレる
謎の女性リスベットの協力を得て
恐るべき真実に迫っていく・・・・・・というお話。


孤島に集まって暮らす大富豪一族、という舞台からして
アガサ・クリスティーの小説のような古典的おもしろさがあります。

主人公記者が事件のしっぽを丹念にさぐり
ひとつひとつベールをはいでいく
謎解きのおもしろさも上級。

「ダヴィンチ・コード」よりも巧妙ですよ。

ただし性的虐待などちょっとキワいシーンもあるので
そういうの苦手な人にはキツイかも。

しかし原作者も主人公同様にジャーナリスト出身で
小説のなかでそうしたスウェーデンの暗部を
告発しているのです。

IKEAなどオシャレなデザインや牧歌的イメージのある国なのにね~

しかも原作者は出版前に50歳の若さで急逝したそうで
これもまたドラマチックというかミステリアス。

小説は未完を含め5巻まであって
映画もすでに続編が制作されてるそう。

こりゃ楽しみざんす。


★2010年正月第2弾(1月中旬位でしょう)シネマライズほか全国順次公開。


昨日、これまた「週刊朝日」の「ツウの一見」で
レイモンド・チャンドラーの翻訳で知られる
翻訳家・田口俊樹さんに本作の魅力をたっぷり伺いました。

映画はもちろん原作も相当におもしろいんですってよ。
こりゃ読むしかない!

記事掲載は1月かな。またお知らせしますデス。
コメント (4)
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ベジャール、そしてバレエはつづく

2009-11-18 23:09:22 | は行
観ようと思ってた
「あなたは私の婿になる」
あっという間に終わっちゃってましたよ・・・トホホ~

公開後、どのくらいロングランしたかの
統計ってあるのかな・・・やろうかな。

ま、それはそれで。


「ベジャール、そしてバレエはつづく」70点★★☆


2007年11月に亡くなった
20世紀最高の振付家モーリス・ベジャール。

彼の率いたバレエ団が、
その存続をかけて没後初公演をするまでの
舞台裏を描いたドキュメンタリーです。


最近「パリ・オペラ座のすべて」(10/10から公開中)といい
バレエ団の裏側を描いた作品が続きまして
これがなかなか楽しい。


しかも監督が「ファイティング・シェフ~美食オリンピックへの道~」の
監督夫人というから、びっくり!
すごいクリエイティブ夫婦ですなあ。


ベジャールさんとは本当に偉大な人で
男性ばかりのパワフルなダンスを作ったり
ヒラヒラ衣装ではなく、アースカラーのシンプルな衣装を採用したりして
バレエの歴史を変えた人。


しかしその舞台裏では
新米ダンサーが「こんなに練習するバレエ団は初めて・・・」とこぼすほど
練習の鬼だった!


「過去を振り返るな」
「前進あるのみ」
「疲れ果てたときにこそ、最高のものができる」
といった珠玉の言葉と
それに答えるダンサーたちの
勤勉と誠実が生む芸術に感動しました。


ワーカーホリック、万歳!!


でもねーこれ、いいところで終わっちゃうんですよ。
いざ本番の公演!というところで。

上映時間は80分。
映画は90分が最良!をモットーとする番長ですが
これはあと20分、見せて欲しかったと思いました。

ま、あとは実際の公演をご覧ください・・・ということなんでしょうが


★12/19からBunkamura ル シネマほかで公開。

「ベジャール、そしてバレエはつづく」公式サイト

今日はおなじみ「週刊朝日」の「ツウの一見」取材で
6年前までベジャールバレエ団に在籍していらした
小林十市さんにお話を伺ってきました。

内部をよーく知るかたならではの
複雑な思いと視点が、強烈なインパクトでした。

掲載は12/21発売号予定。お楽しみに!
コメント (4)
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