ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

天国にちがいない

2021-02-01 23:26:07 | た行

うん、ちょっとジャック・タチっぽいなと感じました。

 

「天国にちがいない」71点★★★★

 

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イスラエルのナザレ。

映画監督のエリア・スレイマン(本人)は

自宅で物思いにふけっている。

 

ふと庭を見下ろすと、レモンの木から果実をもぎ取っている男がいる。

「隣人よ。泥棒ではないぞ。ドアはノックしたんだ。誰も出てこなかった」

 

いろいろな出来事に遭遇しながら

それを静かに見つめる監督。

 

やがて監督は、映画の企画を売り込みに

パリへ、そしてニューヨークへと

旅をしていく。

 

そこで、またさまざまな

「ん?」に出会っていく――。

 

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2002年に「D.I.」で

カンヌ国際映画祭審査員賞ほかを受賞した

エリア・スレイマン監督、10年ぶりの新作です。

 

パレスチナ系イスラエル人である監督自身が主人公となり

映画の企画を携えて

故郷ナザレ、そしてパリ、NYを旅する――という展開。

 

監督自身が、行く先々で出会う出来後を

「傍観してる」というシチュエーションで

 

例えば

ナザレのレストランで

隣の席のワルな男たちがウエイターにクレームを出していたり、

パリのカフェでオープンテラスに座っていると

いきなり測量技師に囲まれたり

 

大きな事件はないけれど、

クスッと笑えてときどきトホホ(笑)

ナンセンスで、しかし不思議に見入るシーンが連なっていく。

 

そのなかで、

パナマ帽やメガネをトレードマークに

「きょとん」とすべてを客観的にみている監督は

たしかに、そのたたずまいが、ジャック・タチを思わせる。

 

パレスチナ系イスラエル人という

自身の立場の複雑さ、も内包しているからであろう

どこにいっても所在なげで、異邦人な視線があり

 

それを映すのか

どの風景も、もの哀しさをたたえていて

どこか

アキ・カウリスマキ監督やロイ・アンダーソン監督の作品に通じる気もします。

 

 

そして、どの国、どの都市にも共通する

空港での検問の厳しさや

町中にあるカメラ、監視の状況、統制されたムードに

「世界は、いまはパレスチナになってるんじゃないか?」と

監督は、静かにシニカルに提示しているようです。

 

 

冒頭シーンの意味は?

小鳥のシーンはどうやって撮ったの?!

 

と、

いろいろ聞きたいこともあり

監督にインタビューさせていただいているので

ちょろっと、ここで公開。

 

映画は、自身の「旅路」で

なにかしら、現実にあったこととリンクしているそう。

冒頭の教会でのやりとりは

まるでギャグのようだけど、25年前に実際に起こったことなんだって。

 

あと、パリのシーンでの

すごく印象的な小鳥のシーン。

あれも実際に起きた出来事がベースで

撮影ではあの小鳥、

実物とCGとをうまく組み合わせて描いたそうです。

 

ちなみに

パナマ帽&メガネトレードマーク的扮装も

ジャック・タチを意識してるのかなーと思ったのですが

それは単に「歳を取って必須になったから」だそうです(笑)

 

 

★1/29(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。

「天国にちがいない」公式サイト


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