シンプルな伝記じゃないところに
北欧の成熟を感じますねえ。
「TOVE/トーベ」74点★★★★
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第二次大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。
画家の卵であるトーベ・ヤンソン(アルマ・ポウスティ)は
爆撃のなか
落書きのように「ムーミントロール」を描き始める。
戦争が終わると
トーベは廃墟と化したアトリエを借り、
本業である絵画制作に励む。
トーベの父は著名な彫刻家(ロバート・エンケル)で
母(カイサ・エルンスト)は挿絵画家。
サラブレッドな彼女だが
しかし保守的でまだまだ男社会な美術界で
自分の作風を見い出すことができず、葛藤を抱えていた。
そんななか、トーベは
舞台演出家のヴィヴィカ(クリスタ・コソネン)と出会い
恋に落ちるのだが――。
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あのムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの半生を描いた作品です。
ムーミンの作画シーンは所々に出てくるものの、
決してシンプルな伝記ではなく、
悩み、葛藤のただ中にいた、若き日にスポットをあて
「その人」に迫り切った感じ。
トーベ・ヤンソン好きなので
女性パートナーと生涯暮らしたことは知っていたけれど
本作は、関係各所がよく許したな、と思うほど
ある意味、赤裸々に
ある意味、自由に描かれている。
監督が好きに解釈して、描いてよし!とされている感じ。
こういう作品を見るたびに、
北欧社会の成熟度を感じてしまいますねえ。
有名な彫刻家を父に持ち、母もアーティストという
サラブレッドなトーベ。
しかし
まだまだ保守的な美術界で、二世としてもうまく泳ぐことを拒否し
ひたすら自分の「芸術」を生み出そうともがく。
彼女がノートに落書きのように描くムーミンの絵や、イラスト画は
めちゃくちゃ味があって「いい!」のだけど
本人はそれをアートと認めていないふしがあり
ひたすらキャンバスに向かって、苦戦している。
そうそう、自分のいいところって
自分ではなかなかわかんなかったりするんですよね。
で、そんな彼女のイラストに目をとめたのが
裕福な夫を持つ舞台演出家のヴィヴィカ。
もちろん実在の人物ですが
彼女を愛するようになったトーベは
彼女の後押しで現在につながるムーミンの物語を描きだすんです。
型にはまることをよしとせず、
率直にエネルギッシュに
自由に芸術を、人を愛するトーベ。
そんな彼女だからこそ
まだまだ性的マイノリティへの理解がないこの時代
(というか、当時、同性愛は重罪だったらしい)
男性と結婚しつつ「そんなの体裁よ」と言い放ち、自分を愛してくれる
ヴィヴィカの自由さに共鳴したのでしょう。
が、そこで
ヴィヴィカへの愛でいっぱいになり、
かつ、よき理解者で、しかし既婚者でもある男性アトスにも
寄りかかってしまう。
(このアトスさんは、スナフキンのモデルになった方らしいですよ)
自由でまっすぐな心を持つがゆえに
結局、愛に縛られてしまうトーベの姿が切ない。
なんといっても、あのムーミンの生みの親が、
厳格な父に悩み、自らの才能に悩み、愛に苦しんだこと。
そのことを率直に描いた本作に
勇気づけられる少年少女が
どれだけいることだろうと思うのです。
ムーミンがおばけ話として始まっていたことも興味深いし
ファブリックや小道具に
狙い過ぎない自然なかわいさがある点も、さすが北欧、と思うのでした。
★10/1(金)から全国で公開。
とても感動しました。
銀座の写真展まで行ってしまいました。
(=^・^=)
https://chokobostallions.hatenablog.com/entry/2021/10/10/082240
そしてなんと
写真展、本日10/17(日)までですね!
YOSEIDO銀座店
https://yoseidojp.com/news/tove/