先日、『ジェーン・エア』と『嵐が丘』の文庫版を古本屋で購入し、さて、どちらから読もうかと思ったが、予備知識が全然ないので、行き当りばったりで、とりあえず『嵐が丘』に手を出したのだが、最初の30ページくらいで人間関係がわからなくなり、いったん放棄して、『ジェーン・エア』に移った。
その『ジェーン・エア』の感想は少し前に当ブログにアップしたので、お暇な方はちょっと目を通していただけると有り難いのだが、それはともかく、そういうわけで、『ジェーン・エア』読了後、再度『嵐が丘』に挑戦し、一昨日読了したのだが、読後感想は、「驚嘆」の二文字に尽きる。
まず、第一に、『ジェーン・エア』と全然似ていないことに驚いた。
第二に、こんな言い方は変かもしれないが、「なんでこんな小説が書かれなければならないのだ!」という驚きである。「存在することそのものが奇跡」などと書いては陳腐過ぎる。「最上のもの」は、最上であることについて、理由を持たないことを知った驚き、というか……。
『ジェーン・エア』と違い、『嵐が丘』は実に多様な理解をされる作品だそうだが、それに甘えて勝手を言うと、『嵐が丘』は、日本で言えば、『四谷怪談』だと思う。(もちろん、民谷伊衛門がヒースクリフだ)少なくとも、『嵐が丘』が「怪談」であることは確かだ。
1801年、都会育ちながら、人付き合いの苦手な青年ロックウッドは、田舎の一軒家で「人間嫌い」として孤独に過ごそうと、スラシュクロス邸と名づけられた家を借りる。
スラシュクロス邸の家主はヒースクリフといい、スラシュクロス邸から四マイルほど離れた荒野の一軒家、通称「嵐が丘」に住んでいるが、ロックウッドは彼に会って、そのあまりの無愛想さに驚く。ヒースクリフだけではない。「嵐が丘」には、ヒースクリフ以外に若い男女が二人、歳とった下男、女中らがいたが、ロックウッドの目には、皆、異常にしか見えなかった。
ロックウッドは、その日、荒天だったため、「嵐が丘」の一室に泊まることになったが、そこで若い女性の霊らしきものに襲われる。霊はキャサリン・リントンと名乗り、窓の外から中へ入れてくれと訴える。
ロックウッドは本を重ねて窓を押さえたが、キャサリンは、外からじりじりとその本を押し退けてでも入ろうとする意志を見せる。
ロックウッドの悲鳴を聞いて様子を見にやってきたヒースクリフは、ロックウッドから「キャサリン」の名前を聞くと、窓を大きく開け、「愛しい人、入ってくれ」と懇願するが、今度は、入ってくるのは雪と風ばかりであった。
翌日、スラシュクロス邸に戻ったロックウッドは、スラシュクロス邸付きの家政婦ディーン夫人に「嵐が丘」での奇妙な経験を話すと、驚いたことに、ディーン夫人はもともと「嵐が丘」の住み込み家政婦として長いこと「嵐が丘」に居住していたのだが、その「嵐が丘」の新しい主人、すなわちヒースクリフがスラシュクロス邸の主人を兼ねることになった時、ヒースクリフにスラシュクロス邸の管理をまかされてやってきたので、「嵐が丘」の事情については悉く知悉しているのであった。(以下、『嵐が丘』はディーン夫人の「語り」として展開する)
「嵐が丘」にいた若い男女二人のうち、男はヘアトン・アーンショーといい、実は「嵐が丘」の前の持ち主、ヒンドリー・アーンショーの息子だが、父の死後、相続権をヒースクリフに奪われ、「嵐が丘」の使用人のような立場にある。
女性はキャサリン・リントンといい、ロックウッドが「嵐が丘」で見た霊と同じ名前だが、スラシュクロス邸の前の持ち主だったエドガー・リントンとキャサリン・リントンのリントン夫妻の一人娘で、母親の名前をそのまま貰ったので母娘で同姓同名なのだ。つまり、ロックウッドの前に霊として現れたキャサリン・リントンは、母親のほうなのである。
その母親のほうのキャサリン・リントンの旧姓は、キャサリン・アーンショーといい(ロックウッドの前に現れた霊は、結婚前ではなく、結婚後の名を名乗ったことになる)、ヒンドリー・アーンショーの妹である。
ここで、ヒースクリフの素性を述べておくと、ヒースクリフは、ヒンドリー、キャサリン兄妹の父、老アーンショーが仕事先のリバプールで拾ってきた孤児で、作中では「ジプシー」と形容されているが、黒い髪、黒い瞳、黒い肌が強調されている。もっとも、「黒い肌」といっても純粋な北方白人と比べればということで、要するにエキゾチックな容貌の持ち主と想像できる。
老アーンショーは、この「ジプシー」に、赤ん坊で早世した息子の名前《ヒースクリフ》を与え、とても可愛がったが、ヒンドリー、キャサリン兄妹は彼を嫌った。それでもキャサリンはその後、親しく思うようになるが、ヒンドリーはヒースクリフに対する警戒心を解かない。
やがて、老アーンショーが死ぬと、その葬式に、大学に遊学していたヒンドリーは都会生まれの女性フランセスを連れて現れた。そのフランセスが生んだのが、ヘアトンである。(フランセスはヘアトンを産んだ直後、病死する)
ヒンドリーが「嵐が丘」の主人になると、ヒンドリーは、ヒースクリフを下男格に格下げする。ヒースクリフはヒンドリーによって格下げされたことを怒り、恨むが、この段階ではいまだその「恨み」は人並みであった。決定的となったのは、キャサリンが本当は自分のことが好きなのに、隣家の嫡男、エドガー・リントンと結婚してしまったことだった。それも、キャサリンが家政婦のディーンに相談しているところを、たまたま同じ部屋のソファーに寝ていたために、キャサリンの本心を聞いてしまったことにあった。キャサリンは、「ヒースクリフと結婚することは私が落ちぶれること」と言ったのである。
ディーンは影でヒースクリフがキャサリンの告白を聞いてしまったことを知り、キモを冷やすが、キャサリンはそのことに気づかない。ヒースクリフは、キャサリンに気づかれぬようにその場を逃れ、姿を消す。
翌朝、キャサリンはヒースクリフの失踪を知ると、必死にその行方を探すがわからず、日を経ずしてエドガー・リントンと結婚する。
ところがヒースクリフはその3年後、どこでどうしたかわからないが、かなりの金をためて、再び「嵐が丘」に舞い戻る。失踪は復讐の準備だったのだ。
ヒースクリフは、エドガー・リントンの妹イザべラが自分に気があることを知ると、彼女を誘惑し、エドガーとキャサリンの猛反対を押し切って結婚してしまう。その後、キャサリンは、ヒースクリフの出現、義妹のスキャンダル等の心労が重なって病の床につき、娘キャサリンを産んで間もなく死ぬ。一方、「嵐が丘」にヒースクリフと遁走したイザべラは、ヒースクリフの真意を知って「嵐が丘」を脱走、南イングランドの某所で息子、リントン・ヒースクリフを産む。
一方、ヒースクリフは、妻を失って酒と賭博に溺れるヒンドリーにさらに金を与えて破産に追い込み、「嵐が丘」を手に入れてしまう。ヒンドリーは憤激のうちに死ぬ。(「嵐が丘」を脱走したイザべラが、ヒンドリーと二人で外出から戻ってきたヒースクリフを閉め出し、ピストルとナイフで殺そうとするが――状況的に圧倒的に有利であるはずなのに――扉を破って入ってきたヒースクリフに武器をもぎりとられて屈服してしまう次第をディーン夫人に物語る場面があるが、まさにヒースクリフは「悪」のスーパーマン、「悪」のカリスマなので、誰も抵抗できないのである。)
その後、キャサリン、ヒースクリフの娘、息子たちの成長を待って12年ほど平穏な時を過ごした後、ドラマは第二幕に入る。
イザべラは、息子リントン・ヒースクリフが13歳になった時、病で死に、リントンはイザべラの兄、エドガー・リントンに引き取られるが、すぐにヒースクリフが現れ、「嵐が丘」に連れていってしまう。
そして、その3年後、ヒースクリフは、思春期に達した息子リントンと、キャサリン・リントンが意を通じ合うように策を巡らせ、キャサリンを「嵐が丘」に閉じ込めてリントンと結婚させてしまう。(息子のリントンは、二十歳を越えて生きる可能性はないと医者に言われるほど病弱だが、その「病弱」を楯に、キャサリンに結婚を迫るところなど、明らかに父親であるヒースクリフの命令で動いている傀儡に過ぎないのだが、ヒースクリフにはない、「傀儡故の無気味さ」を大いに発散させている。)
キャサリンが結婚を承諾したのは、父親(エドガー)がその時瀕死の床にあり、どうしても死に目に会いたかったからだった。その望みは、結婚を承諾したことでかなったが、結婚で父親から受け継いだ遺産が、自分から夫に移ってしまうことには気づかなかった。
もちろん、エドガーはそのことを心得ていたが、リントン・ヒースクリフが明日をもしれぬ命であることは知らなかったのである。
ヒースクリフの策略を知ったエドガーは、急遽、弁護士を呼んで遺書を書き換えようとしたが、間に合わない(ヒースクリフが手を回していたので)。
かくして、「姓」すら持たぬ孤児だったヒースクリフは、「嵐が丘」と「スラシュクロス邸」の両方を手に入れ、「スラシュクロス邸」を借家にした。その借り手がロックウッドだったというわけである。
ディーン夫人の語る物語はほぼこれで終わるが、その一年後、ヒースクリフとの契約を解消するため、「嵐が丘」を訪れたロックウッドは、意外なことを知る。ヒースクリフが死んだというのだ。
それは、ロックウッドが「嵐が丘」でキャサリンの霊を見てから3ヶ月ほど後のことで、ヒースクリフは突如「2ヤード以内の距離にある何か」を凝視したり、一晩中外を歩いたりした上、食事をまったくとらなくなった。そしてそれが四日続いた後、ロックウッドがキャサリンの霊に襲われた部屋で、キャサリンが手を突き出した窓に片手を突っ込んだまま、息を引き取っていた。
……という物語だが、ヒースクリフの死に前後して、ヘアトンとキャサリンが仲良くなって、いずれ結婚することを予感させている。ヘアトンとキャサリンが、各々アーンショー家とリントン家の唯一の跡継ぎであることを考えれば、物語は大団円で幕を閉じ、ヒースクリフの死は異端の終焉を意味するのかもしれない。
その『ジェーン・エア』の感想は少し前に当ブログにアップしたので、お暇な方はちょっと目を通していただけると有り難いのだが、それはともかく、そういうわけで、『ジェーン・エア』読了後、再度『嵐が丘』に挑戦し、一昨日読了したのだが、読後感想は、「驚嘆」の二文字に尽きる。
まず、第一に、『ジェーン・エア』と全然似ていないことに驚いた。
第二に、こんな言い方は変かもしれないが、「なんでこんな小説が書かれなければならないのだ!」という驚きである。「存在することそのものが奇跡」などと書いては陳腐過ぎる。「最上のもの」は、最上であることについて、理由を持たないことを知った驚き、というか……。
『ジェーン・エア』と違い、『嵐が丘』は実に多様な理解をされる作品だそうだが、それに甘えて勝手を言うと、『嵐が丘』は、日本で言えば、『四谷怪談』だと思う。(もちろん、民谷伊衛門がヒースクリフだ)少なくとも、『嵐が丘』が「怪談」であることは確かだ。
1801年、都会育ちながら、人付き合いの苦手な青年ロックウッドは、田舎の一軒家で「人間嫌い」として孤独に過ごそうと、スラシュクロス邸と名づけられた家を借りる。
スラシュクロス邸の家主はヒースクリフといい、スラシュクロス邸から四マイルほど離れた荒野の一軒家、通称「嵐が丘」に住んでいるが、ロックウッドは彼に会って、そのあまりの無愛想さに驚く。ヒースクリフだけではない。「嵐が丘」には、ヒースクリフ以外に若い男女が二人、歳とった下男、女中らがいたが、ロックウッドの目には、皆、異常にしか見えなかった。
ロックウッドは、その日、荒天だったため、「嵐が丘」の一室に泊まることになったが、そこで若い女性の霊らしきものに襲われる。霊はキャサリン・リントンと名乗り、窓の外から中へ入れてくれと訴える。
ロックウッドは本を重ねて窓を押さえたが、キャサリンは、外からじりじりとその本を押し退けてでも入ろうとする意志を見せる。
ロックウッドの悲鳴を聞いて様子を見にやってきたヒースクリフは、ロックウッドから「キャサリン」の名前を聞くと、窓を大きく開け、「愛しい人、入ってくれ」と懇願するが、今度は、入ってくるのは雪と風ばかりであった。
翌日、スラシュクロス邸に戻ったロックウッドは、スラシュクロス邸付きの家政婦ディーン夫人に「嵐が丘」での奇妙な経験を話すと、驚いたことに、ディーン夫人はもともと「嵐が丘」の住み込み家政婦として長いこと「嵐が丘」に居住していたのだが、その「嵐が丘」の新しい主人、すなわちヒースクリフがスラシュクロス邸の主人を兼ねることになった時、ヒースクリフにスラシュクロス邸の管理をまかされてやってきたので、「嵐が丘」の事情については悉く知悉しているのであった。(以下、『嵐が丘』はディーン夫人の「語り」として展開する)
「嵐が丘」にいた若い男女二人のうち、男はヘアトン・アーンショーといい、実は「嵐が丘」の前の持ち主、ヒンドリー・アーンショーの息子だが、父の死後、相続権をヒースクリフに奪われ、「嵐が丘」の使用人のような立場にある。
女性はキャサリン・リントンといい、ロックウッドが「嵐が丘」で見た霊と同じ名前だが、スラシュクロス邸の前の持ち主だったエドガー・リントンとキャサリン・リントンのリントン夫妻の一人娘で、母親の名前をそのまま貰ったので母娘で同姓同名なのだ。つまり、ロックウッドの前に霊として現れたキャサリン・リントンは、母親のほうなのである。
その母親のほうのキャサリン・リントンの旧姓は、キャサリン・アーンショーといい(ロックウッドの前に現れた霊は、結婚前ではなく、結婚後の名を名乗ったことになる)、ヒンドリー・アーンショーの妹である。
ここで、ヒースクリフの素性を述べておくと、ヒースクリフは、ヒンドリー、キャサリン兄妹の父、老アーンショーが仕事先のリバプールで拾ってきた孤児で、作中では「ジプシー」と形容されているが、黒い髪、黒い瞳、黒い肌が強調されている。もっとも、「黒い肌」といっても純粋な北方白人と比べればということで、要するにエキゾチックな容貌の持ち主と想像できる。
老アーンショーは、この「ジプシー」に、赤ん坊で早世した息子の名前《ヒースクリフ》を与え、とても可愛がったが、ヒンドリー、キャサリン兄妹は彼を嫌った。それでもキャサリンはその後、親しく思うようになるが、ヒンドリーはヒースクリフに対する警戒心を解かない。
やがて、老アーンショーが死ぬと、その葬式に、大学に遊学していたヒンドリーは都会生まれの女性フランセスを連れて現れた。そのフランセスが生んだのが、ヘアトンである。(フランセスはヘアトンを産んだ直後、病死する)
ヒンドリーが「嵐が丘」の主人になると、ヒンドリーは、ヒースクリフを下男格に格下げする。ヒースクリフはヒンドリーによって格下げされたことを怒り、恨むが、この段階ではいまだその「恨み」は人並みであった。決定的となったのは、キャサリンが本当は自分のことが好きなのに、隣家の嫡男、エドガー・リントンと結婚してしまったことだった。それも、キャサリンが家政婦のディーンに相談しているところを、たまたま同じ部屋のソファーに寝ていたために、キャサリンの本心を聞いてしまったことにあった。キャサリンは、「ヒースクリフと結婚することは私が落ちぶれること」と言ったのである。
ディーンは影でヒースクリフがキャサリンの告白を聞いてしまったことを知り、キモを冷やすが、キャサリンはそのことに気づかない。ヒースクリフは、キャサリンに気づかれぬようにその場を逃れ、姿を消す。
翌朝、キャサリンはヒースクリフの失踪を知ると、必死にその行方を探すがわからず、日を経ずしてエドガー・リントンと結婚する。
ところがヒースクリフはその3年後、どこでどうしたかわからないが、かなりの金をためて、再び「嵐が丘」に舞い戻る。失踪は復讐の準備だったのだ。
ヒースクリフは、エドガー・リントンの妹イザべラが自分に気があることを知ると、彼女を誘惑し、エドガーとキャサリンの猛反対を押し切って結婚してしまう。その後、キャサリンは、ヒースクリフの出現、義妹のスキャンダル等の心労が重なって病の床につき、娘キャサリンを産んで間もなく死ぬ。一方、「嵐が丘」にヒースクリフと遁走したイザべラは、ヒースクリフの真意を知って「嵐が丘」を脱走、南イングランドの某所で息子、リントン・ヒースクリフを産む。
一方、ヒースクリフは、妻を失って酒と賭博に溺れるヒンドリーにさらに金を与えて破産に追い込み、「嵐が丘」を手に入れてしまう。ヒンドリーは憤激のうちに死ぬ。(「嵐が丘」を脱走したイザべラが、ヒンドリーと二人で外出から戻ってきたヒースクリフを閉め出し、ピストルとナイフで殺そうとするが――状況的に圧倒的に有利であるはずなのに――扉を破って入ってきたヒースクリフに武器をもぎりとられて屈服してしまう次第をディーン夫人に物語る場面があるが、まさにヒースクリフは「悪」のスーパーマン、「悪」のカリスマなので、誰も抵抗できないのである。)
その後、キャサリン、ヒースクリフの娘、息子たちの成長を待って12年ほど平穏な時を過ごした後、ドラマは第二幕に入る。
イザべラは、息子リントン・ヒースクリフが13歳になった時、病で死に、リントンはイザべラの兄、エドガー・リントンに引き取られるが、すぐにヒースクリフが現れ、「嵐が丘」に連れていってしまう。
そして、その3年後、ヒースクリフは、思春期に達した息子リントンと、キャサリン・リントンが意を通じ合うように策を巡らせ、キャサリンを「嵐が丘」に閉じ込めてリントンと結婚させてしまう。(息子のリントンは、二十歳を越えて生きる可能性はないと医者に言われるほど病弱だが、その「病弱」を楯に、キャサリンに結婚を迫るところなど、明らかに父親であるヒースクリフの命令で動いている傀儡に過ぎないのだが、ヒースクリフにはない、「傀儡故の無気味さ」を大いに発散させている。)
キャサリンが結婚を承諾したのは、父親(エドガー)がその時瀕死の床にあり、どうしても死に目に会いたかったからだった。その望みは、結婚を承諾したことでかなったが、結婚で父親から受け継いだ遺産が、自分から夫に移ってしまうことには気づかなかった。
もちろん、エドガーはそのことを心得ていたが、リントン・ヒースクリフが明日をもしれぬ命であることは知らなかったのである。
ヒースクリフの策略を知ったエドガーは、急遽、弁護士を呼んで遺書を書き換えようとしたが、間に合わない(ヒースクリフが手を回していたので)。
かくして、「姓」すら持たぬ孤児だったヒースクリフは、「嵐が丘」と「スラシュクロス邸」の両方を手に入れ、「スラシュクロス邸」を借家にした。その借り手がロックウッドだったというわけである。
ディーン夫人の語る物語はほぼこれで終わるが、その一年後、ヒースクリフとの契約を解消するため、「嵐が丘」を訪れたロックウッドは、意外なことを知る。ヒースクリフが死んだというのだ。
それは、ロックウッドが「嵐が丘」でキャサリンの霊を見てから3ヶ月ほど後のことで、ヒースクリフは突如「2ヤード以内の距離にある何か」を凝視したり、一晩中外を歩いたりした上、食事をまったくとらなくなった。そしてそれが四日続いた後、ロックウッドがキャサリンの霊に襲われた部屋で、キャサリンが手を突き出した窓に片手を突っ込んだまま、息を引き取っていた。
……という物語だが、ヒースクリフの死に前後して、ヘアトンとキャサリンが仲良くなって、いずれ結婚することを予感させている。ヘアトンとキャサリンが、各々アーンショー家とリントン家の唯一の跡継ぎであることを考えれば、物語は大団円で幕を閉じ、ヒースクリフの死は異端の終焉を意味するのかもしれない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます