パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

ジョーカーとペンギンが…

2008-07-30 21:55:58 | Weblog
 「ロリータ」読了。

 もともと、みのり書房の「アラン」で美少女特集を組んだ時の参考資料として買ったので,小口にみのり書房のゴム印が押してあり、手に取るたびに興ざめする本なのだが、だからこれまで読まなかったわけではない。文芸表現の限りを尽くしたような華麗な文章に、1ページ眺めただけで「こりゃ無理」と読破をあきらめ、必要なところだけ、つまり、ロリータことドロレス・ヘイズのクラスメイトの名簿だけを引用して終ったのだった。

 というわけで、今回の30数年後の「読了」は、私にとっておめでたい限りなのだが、正直言って、もう1回読む必要はあると思う。

 それだけ内容が深いということだが、それはさておき、この「ロリータ」をちゃんと読んだ人はあまりいないと思うので、ストーリーをこの際,紹介しておこう。

 主人公の男やもめ、ハンバート・ハンバートはヨーロッパの貴族の家に生まれたが,没落貴族で、母親を落雷事故で失い、親戚のもとで成長する。その間、ある美少女と恋に落ちるが、その少女は幼くして死に,彼女の面影を求めて「ロリータコンプレックス」になる。

 もちろん、そんな簡単な話ではないが、ともかく、中年に達したハンバートは、生活の糧を求めてアメリカに文学の教師としてやってくるが、下宿先を探しているとき、ある家で自分の趣味にぴったりの美少女、ドロレスを見つけ、そこの下宿人になる。

 ハンバートはインテリでしかも美男子(となっている)だったので、下宿先の女主人,ドロレスの母親は彼に一目惚れし,娘が夏季キャンプでいない間に、結婚を申し込む。

 ハンバートは吃驚するが、熟慮の末,申し込みを受ける。もちろん、目的はロリータだ。

 ロリータのいない家で,二人は甘い新婚生活を送るが、ある日,新妻は夫、ハンバートの日記を見つけてしまう。そこには、娘,ドロレスの様子がびっしり書き込まれていて、時々、自分の目を盗んでいちゃいちゃしていたことも書かれていた。(ロリータも中年男が好きだったのだ)

 大ショックを受けた母親は、直ちに離婚を決意し、キャンプから娘が戻ったら,彼女を連れて家を出るとハンバートに告げ、親戚に事情を説明した手紙を書き始める。

 さあ,困った。困惑しているところに、電話がかかってくる。

 「奥さんが,今、車にひかれました」

 「おーい、お前がひかれたってさ」

 と、つい今しがたまで手紙を書いていた妻に声をかけるが、返事がない。表に出ると,人だかりがしていて、覗くと、妻が3通の手紙を握りしめて倒れていた。手紙をポストに入れようと、家を出たとたん車にはねられたのだ。

 ハンバートはそこに居合わせた子供から、その3通の手紙を渡され、「ありがとう」と言って受け取ると、ポケットの中で引きちぎってしまう。

 こうして、ハンバートは、かつての愛の巣をは借家として貸し出す手続きをとり、夏季キャンプから「母親が急病になった」といって呼び戻したロリータと一緒に車で旅に出る。

 最初にロリータの処女を奪ったのは,「エンチャンテッド・ハンター(魅せられた狩人)」という名前のホテルだったが、ハンバートはここで怪しげな男に声をかけられる。

 「あの女の子をどこで拾ってきた?」

 ハンバートは、彼女は私の娘だ(たしかに、法的にはそうだ)と答えるが、不気味に思い,警戒心を抱く。

 その後、ハンバートはロリータをある女子高校に入れるが、ロリータは演劇に興味を持ち、ある劇作家の創作劇に出演したいという。その劇の名前は、「エンチャンテッド・ハンター(魅せられた狩人)」だった。

 ロリータは、この劇の名前が、なんであるかを知っていた。「あんたがあたしを強姦したところでしょ」と。

 驚愕したハンバートは、なんとかこの芝居をキャンセルするよう、先生に働きかけるが,「お子さんはとても熱心にとりくんでいますよ」とはねのけられてしまう。

 ところが、この劇の上演の数日前になって、ロリータは、「この学校はうんざりだから、やめてまた旅に出たい」と言い出す。

 ハンバートはきっと何かがあったんだと疑いながら、彼女の申し出を受け入れ、旅に出るが、案の定、二人の車は誰かに執拗に追いかけられる。

 そしてある日、ロリータは高熱を発して病院に入院する。心配したハンバートは、病院に泊まりたいと言うが、拒否され、モーテルに戻って待機しているうちに、何者かが入院費を払った上、ロリータを連れ出してしまった。

 その後,ロリータ(ドロレス)の行方は杳として知れず、ハンバートは別の,今度はちゃんとした成人の女性と結婚するが,そこにある日突然、ドロレスから手紙が来る。

 それには、自分はある若い男性と結婚して、妊娠していること、夫も自分も金がないので、少しでいいから援助してくれないか、という内容だった。

 ハンバートは直ちにドロレスのもとを訪ねる。夫は、かつてドロレスを病院から誘拐した男ではなく、平凡な労働者だった。

 ハンバートは、戻ってくる気はないかとロリータに尋ねるが、ロリータはきっぱりと断る。そこで,ハンバートは、彼女を誘拐した男の名前をきく。ロリータは「わかってるでしょ」と言う。ハンバートは、「わかっている」と答える。

 それは、劇「魅せられた狩人」の作者、キルティだった。

 ハンバートは泣きながら高額の小切手を彼女に渡し(ハンバートは、彼女に黙って、彼女の母親の家の家賃を溜めていたのだった)、別れを告げ、そしてキルティを殺す。
 
 …という話。

 最後に、キルティとハンバートの格闘シーンがあるが、これが傑作。二人とも少女趣味だから、その意味では有罪の悪人なのだ。つまり、悪人二人…というかマニアックな教養人二人が、「詩的正義」をめぐって格闘するのだが、読んでいて、『バットマン』の悪役二人、ジョーカーとペンギンが争っているような気がしてならない。

 実際、ハンバート・ハンバートはジャック・ニコルソン以外あり得ないでしょと、ジョーカーのイメージをだぶらせながらずっと読んでいたが,最後にペンギンが出てくるとまでは思わなかった。さすが(!?)

 しかし、実際に映画化されたときは誰がやったのか、調べたら、ハンバート・ハンバートはジェームス・メースン、ロリータの母親はシェリー・ウィンタース、そして、ハンバートのライバルの劇作家、キルティは,何と,ピーター・セラーズだった。(ロリータはスー・リオンとなっていた。名前に聞き覚えはあるが、まあ、ロリータについては、誰がやったとしても限界があるだろう)

 さすが、キューブリック,当時としてはほぼ満点のキャスティングだろう。特に、シェリー・ウィンタースはびったしだ。