パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

時間をさかのぼって映すカメラ

2006-10-17 14:11:20 | Weblog
 たしか、一昨日だと思うが、NHKで、「アシカをくわえながら空中でジャンプするサメ」の超スローモーション画像を見た。海面近くを回遊する、すばしこく、用心深いアシカを、サメが海中から不意打ちするのだが、そのとき、勢いあまって空中にまで飛び出してしまうのだ。潜水艦から発射されるミサイルみたいだ。

 しかし、こんなシーンはそう簡単にはお目にかかれないはずだが、それを、「超スローモーション」で捉えるなんて、どうやったのだろう。サメの空中ジャンプは、おそらく一秒の数分の一にも満たない。普通のカメラだったら、ずっと回しっぱなしでチャンスを待つ、ということもできるだろうが、一秒あたり数千コマを費やす超スローモーションカメラではとてもそんなことはできない。

 不思議に思っていたら、番組の最後で種明かしをしてくれた。なんと!サメがあっという間に海中に姿を消してから、シャッターを押すのだそうだ。そうすると、五秒前にさかのぼった画像が撮れると。

 「不思議の国のアリス」の、罪を犯す前に牢屋に入れられちゃう「気狂い帽子屋」、マッド・ハッターの話みたいだが、つまり、そのカメラは常に超スピードで回っていて、それを五秒間に限り、メモリーとして記憶する。五秒を過ぎたら、メモリーはいったん廃棄される。これを始終繰り替えしていて、これぞ、というときにシャッターを押すと、メモリーは廃棄されずに記録される、というわけだ。つまり、通常のシャッターとは、ある瞬間に情報を取り込む機能のことを言うが、このカメラは、逆で、シャッターを押すことで情報の流入をカットするわけだ。

 したがって、いったんシャッターを押したら、カメラの機能は一旦停止し、すぐにパソコンにデータを移さなければならないし、また、サメがジャンプしたときに、レンズがそれを捉えていなければならないことに変わりはないわけで、「ジャンプするサメ」を撮ったクルーは、撮影に二、三週間を費やしているが、それにしても、すごい、というか、不思議というか、贅沢な機械だ。

 ところで、「マッド・ハッター」の話は「虚無への供物」に出ていたもの。(実は、「アリス……は読んだことがない。トホホである。)「虚無への供物」は、シャンソン好きのお嬢さん、奈々村久生が、殺人が起こる前にそれをずばずば予言するという趣向の探偵小説なのだった。目黒だの目白だの、「地名」しか覚えていなかったが……やはり、面白そうだ。