パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

私の、明日はどっちだ!

2006-10-09 16:43:02 | Weblog
 昨日、今日と外はピーカンの青空なのに、事務所に引きこもって鬱々としている。
 というのは、「月光」について、これまで、何度もできたできた、と言いつつ、読み直すたびに、記述の不備に気がついて、それを直したりしていたのだが、それも今度こそなんとか完成した。複数年をまたいで苦労したそのテーマは、「視覚の謎」。触覚、聴覚、味覚、嗅覚等はみな対象との接触が断たれたら成立しないが(聴覚も空気の振動に触れることで得られる)、視覚のみ対象が離れていても成立するのは何故かというもので、答は、視覚も、他の知覚と同じく、「直接知覚」だからだということなのだが……まあ、それは読んでいただくことにして、なんで、書き上がったのに鬱々としているかというと、最後の、いわゆる「パッケージ」で悩んでいるのだ。

 この問題は、実は千駄木のMさんから指摘されたのだが、本当のところ、指摘されるまでもなく、その重要さはとっくにわかってるわい!と言いたいのだが、それがなかなかうまくいかないという点では、「わかっていなかった」とも言えるわけで、こんちくしょーと思いつつ、鬱々としちゃっているわけだ。
 今回は、映画の研究ということで書きはじめたので、その中で、「パッケージ問題」も知った。それは、ハリウッド草創期というか、それ以前の話なのだが、当時、映画館ではフィルム製作会社で作られたフィルムを勝手に上映していた。館主の好みでタイトルをつけ、観客の好みに応じて、クライマックス場面だけを上映したり、フィルムの上映の順番を入れ替えたり、それでもお客さんが退屈した場合にはフィルムを逆回転させたりしていた。
 しかし、これでは安定した顧客を獲得することができないことに気づいたフィルム製作会社は、いろいろ考えた末、フィルムを入れる缶にラベルを貼り、それに作品タイトルと簡単なストーリーを書き込み、それをさらに、「喜劇」「活劇」「悲劇」などに分類した。簡単なことだけれど、これが、ハリウッド映画に特徴的な「ジャンル」の誕生なのだ。(ただし、今回の原稿ではそこまで話が進まなかったが)つまり、「ジャンル」とはそもそも、フィルム製作者と観客の間で両者を取りもっている映画館主に対して、その仕事をやりやすくさせるためのものだったのだが、出版においても同じことで、版元は、読者に本を届ける前に、書店の店員に自分達が作っている本のプレゼンテーションをできるだけ明確に行わなければならない。
  ただし、「月光」の場合は、大半が通販で買ってもらっているということで、「ジャンル」つまり、雑誌の基本性格の曖昧さはなんとなくカバーされていたのだけれど、今回は、取次は通さないけれど、これまでよりは多く書店に置きたいと思っているので、「パッケージング(ジャンル)」の問題を真剣に考えなければならなくなった。「ならなくなった」って……最初からわかっているのだが……でも、それがなかなかうまくいかない……ということで、外は青空、中は鬱々という状態に陥っているのだ。うーん……。

 と、あれこれ悩んでいるうち、ふと、著作権エージェントみたいな仕事をサブででもいいから、やってみたらどうかと思い、ネットでググって調べたら、三浦し○ん(伏せ字になってない……)とかいう女性作家のブログに突き当たった。どうやら、エージェントを介した出版物が今期直木賞をとったらしく、エッセーでも大人気で、「エッセーの達人」とまで言われているらしい。私が見たブログも、過去のものは有料でダウンロードするようになっているのだが、読んで、困惑した。ちーとも、面白くないのだ。もちろん、「私にとっては」ということだが……ある晩、アパートに帰ったら、そのアパートの住人である若い男性とすれちがった。私は、軽く挨拶をしたが、男は黙って私の脇を擦り抜けていった。私は「コンチクショー」と思い、自分の部屋で四股を踏んで、嫌がらせをした。といっても、男は出ていったばかりなので、下の部屋には誰もいないのだが……と、電話が鳴った。○○ちゃんからだ。「何してんの?」「四股踏んでるの」「四股?」「それがね、さっき……」と延々、愚痴を披露する……という話だ。
 要約するとちょっと面白そうにみえるかもしれないが(笑)、実際に読むと、退屈の二文字。何故なら、四股を踏むまでは、本当のことだろうが、電話云々は多分、作り話だ。若い娘が自分の部屋で一人四股を踏んでいるなんて、他人が見たら変だろうなー、そうだ、電話がかかってきたことにすればいいや、と。つまり、「他人が見たら変だろうなー」という客観認識を○○ちゃんとの電話の会話で逃げてしまったため、「深み」が出てこないのだ。
 いや、理屈っぽくなってすみません。要するに、もし私がエージェンシーだったとして、このし○ん先生の文章を出版社に持ち込む気持ちにはなれないなーという話。てことは、つまり、私はエージェンシーには向いてないってことか。
 あ~、私の明日はどっちだ!