Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

番外編284. 模写と作品

2017年05月09日 | Design&3DCG
 私の大学研究室のHPがまだ残っていた。そんな画像をみながら大学で行ってきた3年生の3DCG実習のことを考えていた。
 それは3年生前期では、パリの建築物の3DCG化である。最初にオルセー美術館、ルーブル美術館、パリオペラ座、最後にポンピドーセンターである。毎年違う課題を用意したのは先輩データの拝借を警戒したためである。図面や資料を用意し不足があればGoogleのサイトが活躍してくれた。結果は教員を超す技量を持った学生も登場し、彼らの得意とするところ力が顕著に引き出された。
 だがこれは絵画の分野でいえば、模写である。どんなに模写が巧みでも、それだけでは作家にはなれない。当時自分の作品を描けることが重要だと私は考えていた。
 そこで3年生後期の授業では、ヴァーチャルアイランドブログラムを行った。コンセプトクリエイション、マーチャンダイジング、スケマティックデザインを従来から教えているマスタープランとに集大成したもので、これまで日本の建築教育では扱うことがなかった方法で環境をデザインしようというものである。だから私が制作した参考作品をつけている。というのも従来からの建築的方法に依存しない全く新しい方法論なのだから。
 でっ、学生達にこのブログラムをやらせてみた。参考作品があるので全体のストーリーは大きな流れにのっており第一関門突破である。ついで各デザインをみてみると、ここが千差万別である。つまり自分の絵が描けない。それでは画家ならぬデザイナーにはなれない。そこには三つの学生達の勘違いが存在している。
 第一は、3DCGができればデザインができるという勘違い。3DCGはドローイング画材がコンピュータに変わっただけであり、つまり画材の一つである。デザインは、本来創造力を発揮しなければ作品はできない。その創造力は個人の頭の中にある。私が教えられるものではない。私ができることは創造力を形成する方法だけだ。要は学生達の創造力の資質がなかったということである。
 第二は知識量の実態を読み違えたこと。私には勉強してきた建築の知識が存分にある。そのうえでの参考作品であり、ソフトウェアの攻略本で取り上げられる粗末な参考作品ではない。参考作品には、この水準まで到達せよという命題がふくまれているのである。そうした知識量の差も大きい、そのことを学生達は考えていなかったのだろうか。だから学生達は図書館にこもって学び、私に追いつくことをあまりしなかった。
 第三はこれが簡単にできると思い込んだ。まあ実習の授業と終わった時間をつかい、あとはバイトの隙間でやればよいか。それがとんでもない勘違いである。私は賞味一ヶ月半のほとんどを丸一日中この作業に没頭し、移動中の新幹線の中でもアイデアを考えデザインを煮詰める作業に没頭し、そして3DCG化していったのである。だから制作にかけている時間が全く違うことを学生達は理解できなかったようだ。実はみたほどに簡単ではなかったのであった。
 つまり創造力の欠落、知識量の欠落、制作時間の読み違え、この三つの要素が重なると、どんなもデザインもできない。多くの受講学生達は見事にこの三つの要素に欠落していたのである。つまり模写はできたが自分の作品が描けなかったということになる。そう3DCGができるだけではアカンのである。それ以前の個人が頭の中にある自分の世界観、こんなのをつくりたいというイメージが必要なのであり、それは画家やデザイナーがみんな兼ね備えているものである。
 これまで教えてきてことに対して、個人のイメージや世界観を加えて表現しきった学生はこれまでに1人だけ。大方は全体に手をつけているプロセスを理解したから良しとするか、イタリア教会のデータを貼付けただけですか、あんたの創造力じゃしょうがないよね、という極めて緩い評価で送り出した。
 今世の中、特にWEBの世界は、そうした緩い評価のメジャー的なデザインであふれかえっている。本物のデザイナーではないが社員でありながらデザインもできますというコンビニエンスなところに芸術工学の意図の一つがあったのだろう。それはそれで社会から大いに重宝されているようにも思われる。卒業生達は天才デザイナーとして新しい表現を見せてくれたわけでないが、少なくとも社会のメジャー層のデザインの質を、コンピュータを駆使して少しばかり向上させてきたことは確かだろう。
 私自身、美術系大学の教育を受けているからデッサンもできるけど、デッサンを勉強しない工学系でデザインを教えると、そんな違いが顕著に見てとれた。それはそれで面白い現象だったといえる。
 それにしても模写と作品だって。なんとも古くさいタイトルだな、自分で笑っちゃうよ。さてこの3DCGのリゾートを実際につくるとしたら、いくらかかるだろうか。城壁があったとしてこれを利用し2,000億円位でできるかなぁ。

再掲載:Virtual Island ver2,2009年5月21日
コメント
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