LE REGARD D'ALAIN DELON

アラン・ドロンさんの魅力を探ります。

太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL(2)

2015-06-24 | THE 60'S CINEMA
【画像リニューアルの為、2005年7月26日の記事の再投稿】

30年ぐらい前の『キネマ旬報』誌に撮影のアンリ・ドカエのインタビュー記事がありました。
それによりますと、ヨット上の撮影中、ドロンさんは船酔いが激しく、全く立っていられなかった状態でしたが、いったんキャメラが回りだすとそれまでの姿とは別人のように演技に集中して見事に撮影を乗り切ったそうです。
ドロンさんの仕事に取り組む真摯な姿勢を感じさせるエピソードです。


ドロンさん演じるトム・リプレイに船上でフィリップがナイフで刺されるシーンは、短いカットを積み重ねたスタイリッシュな演出が特徴的ですが、フィリップの口から発せられた最後の言葉はトムへの怒りの言葉ではなく、自分のわがままで傍若無人な振る舞いで去っていった恋人の名前「マルジュ」。
このフィリップという男は自ら定職につこうともせず資産家の父親の財産を自由に使いながら贅沢三昧に外国で放蕩生活を続けているという、観客からは全く共感をもたれないキャラクターですが、最後に叫ぶこの一言の台詞でさえも、彼の愚かな人間性を象徴しており、よく練られた脚本だなあと感心させられます。

リプレイがフィリップをヨットの上で刺し殺した際に、一瞬海の上に浮かぶ大きな帆船が映し出されますが、ヨーロッパでは海上で事故が起こる際には「さまよえるオランダ船」が現れるという伝説があり、この帆船の映像はこの言い伝えを観客に思い起こさせる効果をもたらした、とのことです。
そしてこの映画での帆船は、撮影当日にたまたま近くを通りかかったデンマーク王室が所有するもので、偶然にアンリ・ドカエのキャメラが捉えたものでしたが、クレマン監督はその船は幻だと信じていたそうです。
(映画評論家の山田宏一著『山田宏一のフランス映画誌』(ワイズ出版)における『太陽がいっぱい』についての批評文より)

フィリップの遺体を海中に放った後、船室に戻り果物を貪り食う描写は、リプレイのそれまで抑えていた激情が一気に噴出したことを表す名場面ですが、このシーンをまるで再現したかのような場面を、1985年のドロンさんの作品“PAROLE DE FLIC”の中で見ることが出来ます。
警官たちに追い詰められたドロンさん扮する元刑事が車ごと川の中に飛び込み、その後車から脱出して、川に浮かぶ他人の船に泳いでたどり着いた直後のシーンがそれです。
窓を蹴破って船に侵入したドロンさんは、雄叫びを上げながら服を着替え、そこにあったスープのようなものを勝手に飲んでしまいます。
とてもクールなドロンさんらしからぬ演技と当時は思いましたが、こうやって『太陽がいっぱい』で既にこのような演技を見せてくれていました。

故淀川長治氏は、ラストシーンで一人椅子に座るドロンさんのバックの海上に浮かぶ小さな漁船には、リプレイを迎えに来たフィリップの霊の姿が見える、と語ったそうです。
ちょっと不気味なエピソードですね。
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