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Brugge Style
メッセージ
先日のイングリッシュ・ナショナル・バレエの公演では、思い出すたびにやにや笑いしてしまう出来事もあった。
今回の白鳥の湖は3幕構成だったのだが、最後の幕間になった時に3歳くらいの男の子を連れた女性がわたしの隣に現れた。
男の子はお行儀よく足を揃えて座り、早速おやつの生のにんじんを食べ初めた。母親である女性は彼に「ティナが白鳥を踊るよ」「マミーも昔は白鳥だったのよね」「暗くなったら静かにして、みんなが拍手をしたらあなたも拍手してね」などと話しかけていた。
元バレリーナなのだろう。おそらく息子と他の観客への気遣いから最後の幕だけ見に来たのだろう。わたしもおむつをした娘をマチネで劇場デビューさせた頃を思い出す。
単行本から目を離すと、先ほどからわたしの方をうかがっていた男の子と目が合った。「にんじん、おいしい?」と話しかけようとしたら、彼から先制で、「あなたもバレリーナ?」とためらいもなく言われた。出た、マダム・キラー。
彼は3歳児でありながら「相手をある状態から違う状態へ変化し難くさせる」技を使ったのだ。
わたしは「バレリーナだったことはないわ。白鳥が踊れたらどんなに素敵でしょう」と答えた。うん、もしかしたら「いや...わしの正体は...ロットバルトじゃあ!!」と脅かせば気が利いてたかもしれない。
お母さんである女性は「ごめんなさい、ちょっとうるさくなるかもしれないけれど」と言った。
しかしどこの誰が「あなたバレリーナ?」と言ってくれた男の子をうるさいと叱ることができよう。
実際その子は拍手を真似、誰かが咳払いをしたら真似(<かわいい)、時々「死んだの?死んだの?!」と小声でお母さんに聞くくらいで最終幕30分間ほどはとてもいい子にしていた。
昔はアメリカでバレエ鑑賞に行くと、ロビーやバアで集っているおばあさんたちに「あなた、あなた自身、バレリーナ?」とよく聞かれていたのだが...あの頃は細くて身軽だったのです。
この男の子がわたしの雰囲気がバレリーナのように優雅だと判断したのかどうかは大した問題ではない。たぶん、母親やティナがバレリーナであるように、周りの女もそうなのかと思っただけだ(なんとラッキーな男子だろう)。彼は隣の女が肥満した猪首の持ち主であっても同じようにあなたはバレリーナなのか、と聞いたかもしれない。
何はともあれ、わたしはこの男の子のおかげで、おばあさんになってもバレリーナのように優雅な動作を意識して行おう、と決心(1000回目くらいの決心)。
こういう魔法のようなメッセージって実際あると思う。
あなたの一日をごきげんにするような誰かからの言葉。
友達が「天使のタロットカード」に夢中になっていたのを思い出す。決断を迫られた時、あるいはその日一日を過ごす心構えとしてタロットカードを引き、そこに隠された意味を解釈し、天使からの重要なメッセージとして指針にするのだった。占い全般に冷笑的なわたしは「そんなんバーナム効果の一種やんか」と思いながら見ていたが、今は「天使のメッセージ」はある、と思う。そしてそれはカードを通して受け取るよりも、隣にたまたま居合わせた人から通して受け取る方がずっと幸せだ。
わたしも「天使からのメッセージ」を通過させて誰かを一日にこにこさせる、そんな媒体になりたい。
このブログがうざったいだけでなく、せめて時々はそういう役目を果たしてくれているといいのだけれど...
写真は Tim Walker 。
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