goo

床の穴







「最近、わたしのエイジェント(キジ猫)を見かけないんだけど。ごはんもぜんぜんやってないし...(まさか死んでないよね?)」
と、わたしは夫に少し似た人に言った。

その人はクロゼットのドアを開け、カーペットをはがした。羽目板に大きな穴があいている。

そこからキジ猫のエイジェントが顔を出した。わたしは丸々と肥えたエイジェントをぎゅっと抱いた。

その穴をのぞくと、小学生の頃かわいがっていたインコや、白ウサギ、シーズーのボジョレがいた。もちろん黒猫のチャコールも。祖父が飼っていたコリーもいたし、栗毛の馬もいた。

夫に似た人は、この穴が入り口でガレージの穴に繋がっており、彼らは床下で帝国を築いて幸せに暮らしている、と言った。
たしかに我楽多(ガラクタ。いい漢字!)のようなものがぎっしりと入っていて(もしかしたらわたしの持ち物だった?)、居心地はよさそうだった。



わたしは毎夜鮮やかな夢をたくさん見る(例えば前々夜は真っ赤なヴァレンティノのドレスを着て、これ以上の喜びはないだろうと感じながらワルツを踊っていた。夫によるとわたしはしきりに足を動かしていたそうである・笑)。

昨夜はもうこの世からはいなくなってしまった愛しいひとたちが、わたしの心の中でこのように生き続けているのを知った。記憶や無意識というものは床下に広がる「帝国」として可視化されるのか...と思うとおかしかった。

わたしはこの床下を、今後どこに住むにしても床上の引っ越し荷物と一緒に持って行こうと思う。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )