私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 110 吉備津は得体のしれない不思議な処でおますなー

2008-09-01 11:50:28 | Weblog
 「町奉行所の中野与力が何者かによって殺害された日に、偶然、真承さんに地雷福の絵文字を描いていただいたのでおます。あてはひょっとしてこれでおせんの恨みを果してやれるのではないかと考えておりましのや。真承さんはわての思いとは裏腹に、人を恨み殺すなんてとんでもないと言う風に、おせんの封に現れた地雷福の絵を悠然と無心に赴くままに絵筆を動かしていやはりました。なんだかわけの分らない絵を彼独特の筆でを描いてくれはりました。でも、その時の辺りの気配には何かものすごいものが漂っているようにわての神経までが今までに経験のないようなぴりぴりした緊張感の中に浸かっていましたのや。それは、その場に帰ってきていたお園さんやおせんにもにも分ったと思いますが。・・・・その日です。将にその時にです。偶然かどうかは分りしまへんけど、一時にせよ、できもせんくせにあだ討ちまでしたい、恨み殺したいと思っていたおせんの思い、いやわいの思いだったのかも知れへんが、天にも通じたのでしょうか、思い通りことが進みましたのや。どこかの読み本にでもあるような作り話が本当にこの世の中に起きてしもうたのどす。吉備津様の霊力というもんでしゃろか。なんか恐ろしゅうなってきましたのや。そんなことが本当のこの世の中にあってもいいもんでしゃろか」
 「それから、・・・・あの銀児親分も何処にもおらんようになってしもうたのですね。不思議な話です。・・・でも、山神様には昔からそんな言い伝えがあったということは確かな事です。でも、目の前で、今、実際にあったと聞くと、私も、なんだか怖いように思われます。あの、偶然に起きた事だとは思いますが。・・・吉備津様のお膝元にはこんなおどろおどろしたお話がほかにまだいっぱ転がるように散らばっています。私の祖母がまた好きでして・・・・でも、大旦那様、この中野様や銀児親分の事件をおせんさんにお話したのですか」
 「うん、どうしようかと迷っておるのじゃが。どうしたもんでしゃろ・・・・」
 「私にはよく分らないのですが、政之輔さまがお亡くなりになってからおせんさんはよくこれまで頑張ってこられました。恋しいお人と、生まれて始めて出逢った愛しいお方と明日会おうという矢先に、聞くところによりますと、無残に殺されたといういうじゃありませんか。おせんさんの心は、いかばかりでありましょう。計り知れない悲しさだけではないと思います。乙女にしか分らないどうしようもない張り裂けんばかりの情けなさがあったと思います。でも、よくおせんさんはその苦しみにお耐えになられました。そして、今は、政之輔さまと無理やりに引き裂かれたあの時から、段々と生きる目当てみたいなものが少しずつ出来てきているのではないかと思います。大旦那様。おせんさんもいつかほっといてもあの中野という与力の方や銀児親分の事件は、きっとお知りになると思もいます。それまでそっとしてあげていただいたらと、わたしは思います。よくは分らないのですが、何か、身内の人から教えてもらうより、誰かは分らないのですが、大旦那様でなく、全くの見も知らずの人から聞いて知るほうがよけいにそのことが素直に自分の心の中にすーと、入ってくるのじゃないかと思います」
 「さようか。お園さんもそう思われまっか。笑って話せるまでにはならないかも知れへんが、そっとしておくのがええのかもしれへんな。でも吉備津さんの御陰かどうか知りしまへんねんけど、お園さんの宮内というところは何やけったいな得体のしれへんところでおますな。どう考えても不思議な所でおます。」
 「またおせんの顔みてやってな」というなり、ひょいとお立ちになられましたす。