「将来を見据えた投資の必要性に気付け」
樫本 和奏
講義内で登場した深良用水について、周辺地域では米が増収となったにも関わらず、請負人は投資として見込み違いだったとして失望したという点が興味深かった。これは用水整備によってストック効果は十分に得られたものの、フロー効果が十分得られなかったということである。これまでインフラ整備・計画に関して学んできた中で、「フロー効果とストック効果」という観点は、土木において大きなテーマの一つであることが分かってきた。そして一般的に、土木施設整備の中心的な目標は主にストック効果を期待したものが多く、フロー効果はそれに「付随してくる」という意識が強いように思える。土木の社会基盤という側面から見るとこの認識は至極当然のようにも思えるのだが、土木についてあまり専門ではない人々はどうしても短期的かつ即時性のあるフロー効果に目がいってしまいがちである。どうしても人間は「よく分からない未来の持続性が高い恩恵」より「単純明快な現在の一時的な恩恵」を享受したくなる性質を持っているため、ある程度仕方のないことだと思う。
しかしそれならば、「よく分からない未来の恩恵」を「分かりやすい恩恵」にしてしまえばよいのではないだろうか。土木施設整備の実施に「フロー効果の不十分さ」を理由として反対する人間は、その長期的な恩恵を知らない、または信用していないのではないか、という仮説が私の中に浮上したのである。たとえば一定数の人々が「損害保険」と称した現状何の恩恵もないサービスに金を払い続けるのは、保険というもののシステムを理解し、かつそれらのサービスを信用しているからであろう。学校教育の一環としてストック効果の考え方についての理解を深めさせたり、土木設備の恩恵を計画時に説明したりすることで理解と信用を勝ち得れば、土木計画とそれに対する住民の協力獲得はよりスムーズになるのではないかと私は考えた。
しかし同時に、それは特に日本において大変難しいことなのではないかとも思う。そしてその理由は「将来的効果の恩恵と、それに対する投資の必要性を感じる機会の少なさ」にあると私は考えた。たとえばアメリカにおいて、公的医療保険は高齢者や障害者、低所得者が対象で、その他の人々は民間の医療保険に加入する「自己責任型」が一般的である。中には医療保険に加入していないために高額な医療費を請求され、困窮する国民もいる。将来について自分で考えて投資しなければ破滅する社会なのだ。しかし日本では国民皆保険制度があるため、ほとんどの場合は充実した医療を少額で享受できる。「もしもの時」や「将来」に備えたサービスが国から当たり前に提供されているのだ。公的に供給される基盤サービスが充実しすぎていたために、「将来を見据えたサービス」に投資するという考え方が希薄なのである。私達の社会基盤改革は、当たり前にそこにあるサービスの存在に気付くところから始まるのかもしれない。
【参考文献】
『日本医師会 世界に誇れる日本の医療保険制度』(2022/10/15閲覧)
https://www.med.or.jp/people/info/kaifo/
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