Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

金子三勇士 7/26 @津田ホール

2012-07-28 10:51:36 | ピアニスト 金子三勇士
3月中旬、都内近郊都市での金子三勇士のリサイタル、
演奏もしっかりしていたし、その後のサイン会でもにこやかな表情をしていたが、
私には心なしか三勇士が少し痩せて疲れているようにみえた。

国内、海外ともにスケジュールが立て込んでいて、
その日もリサイタルの後にも別の場所でもう一度演奏する、
翌日からは地方の演奏会へと向かう、その月の終わりには海外、
と聞き、余りの彼の忙しさに複雑な思いに駆られながら会場を後にした。

それ以来、約4か月ぶりの金子三勇士のリサイタル。
会場に早めに着くとちょうどマネージャーがやって来たところで、
楽屋に案内していただくことになる。
開演一時間前を切る頃には、演奏へと向けて集中に入っているはずだし、
遠慮したいと伝えたが、全く問題はないとのことで演奏前に挨拶をすることができた。
元気溌剌、これから演奏することが楽しみで堪らないという様子が見て取れる。

今回の演奏会の主催は(株)ヒューマンビーイング。
私自身も感じたことだが、いらしていた方からも、
電話した時の応対がとても親しみがあって感じが良かった、
振込用紙やチケットが郵送されてきた封書がきちんとしていて、
その上、綺麗な切手が貼られていた、と。
演奏会へと向けて携わる人たちの一つ一つの丁寧な作業から、
その日にやってくる観客の期待感はウォームアップされていく。

リスト:ハンガリー狂詩曲 第2番
いきなり出だしから演奏者、ピアノ、観客とのコネクトは完璧だ。
最初はピアノとしっくりこない、あるいは観客との距離感を感じる、
そんな会場もある。
グルーヴ感たっぷりの勢いのある曲で滑り出す。
思わず掛け声を上げたくなるが気持ちを抑えた。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」
この曲にここのところ、ずっと取り組んでいる金子三勇士。
完成度がどんどん高くなってきているのがわかる。
この曲の第二楽章、一般的に演奏されている曲は実際にベートーヴェンが
起こした譜面とはテンポがかなり違っているそうだ。
その原曲を一度聴かせてもらったが、それはもっと朴訥で
メッセージがよりストレートに伝わってくる、そんな粗削りさに心が揺さぶられた。
しかし何の前触れもなくこの曲を弾いたら彼がつっかえながら演奏している、
そんな風に思われるかも、と言った人もいた。
いつか彼がこのオリジナル版を演奏会で披露することもあるかと思っている。
この原曲を弾きこんだことで「悲愴」には更に深みが加わり、情感がいっそう豊かになる。

ドゥビッシー:子供の領分
この曲を聴いたのは4年前。
あたり前かもしれないが、その時とは全く印象が異なる。
曲の間に取られる間の間も観客を惹きつけて離さない。
この4か月、大変忙しいスケジュールを送ったこと、
そして4年間の彼の努力が職人芸に達する演奏へと導いたことは間違いない。

第二部
バルトーク:6つのルーマニア民族舞曲
コダーイ:セーケイ民族の歌
バルトーク:オスティナート

この三曲は先日のラジオ放送でも聴いているが、
やはり生で聴くと迫力と三勇士のハンガリーのDNA、かの地で培ってきた底力が、
炸裂する。

リスト:ピアノソナタロ短調
初めて彼がこの曲を披露したのはシャネルのピグマリオンに選ばれた2009年だった。
あれから試行錯誤、様々な解釈を取り入れながらこの曲を三勇士は演奏してきた。
今、それが彼の中で固まって一つのスタイルを作り上げたように思う。

アンコール
この日は暑い日の続く中でも記録的な高温の日だった。
久しぶりに東京へと戻ってきて再び演奏会ができたこと、
自分も楽しんで演奏することができたと語った後、
「熱中症には水分を。」とショパン「雨だれ」
「水分補給だけでなく適度な運動も。」とリスト「ラカンパネラ」

終了後、お誘いした初めて金子三勇士の演奏を聴く友人から、
「どの曲が一番、気に入った?」と聴かれた。
それぞれが私にとって愛着のある曲なので考え込んでいると、
彼女は「悲愴」、そして「ラカンパネラ」」はフジコ・ヘミングの演奏も聴いているので、
それとの対照が興味深かったこと、ハンガリー狂詩曲やリスト・ソナタの力強さが
感動的だったと話していた。

コンサートに行った後、その印象が薄れる前に、
なるべく早くリキャップを書こうと心掛けているが、
今回は二日置いてしまった。
しかしそのことで自分の中で未だに輪郭がはっきりと刻まれ、
頭の中で聴こえ続いている曲が何曲か残った。
それは後半のすべての曲とベートーヴェンのソナタだった。

終了後のサイン会、長い列ができている。
金子三勇士の人気がどんどんと高まってきていることがわかる。
そしてこの日はたいへんな暑さだったのにもかかわらず、
涼しげで身綺麗に装った方がたくさんいらしていた。
こういうのはずっと応援してきたファンとしてはとても嬉しい。

金子三勇士、三月に会った時には過密したスケジュールに心配な気持ちになったが、
4か月振りに姿を見て演奏を聴き、この忙しさが彼を鍛え上げ、
一回りも二回りも大きくなって東京へ戻ってきたことに感慨深い思いだった。
終了後一緒に写真に収まりながら「三勇士君、良く頑張ったね。」と心の中で呟いた。