Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

金子三勇士 リサイタル試験 10/8 2010

2010-10-09 00:01:19 | ピアニスト 金子三勇士
東京音大にて、金子三勇士のリサイタル試験が行われると聞いた。
そもそもリサイタル試験とは。
特待生がそれに相応しいだけの才能があり、努力を重ねているかというチェックを先生方がなさるそうだ。
それを聞いただけでこちらは緊張してしまった。

ご本人からも、一度どんなものか観てみれば、とコメント、メッセージも頂く。
勝手が分からないので大学に問い合わせたところ、3時開演、2時半より入場可、
A館、100周年記念ホールにおいて行われるという。
それを聞いて少し安心した。
会議室のような個室で先生方が並ばれているところなら、
こちらの粗相で金子三勇士のペナルティーにでもなってはと気が抜けない。

早めに大学に着き、入口の守衛室で場所を確認する。
守衛さんも「金子三勇士君のリサイタル試験ですね。」としっかり把握されていて、
親切に場所を教えてくれる。

メールを見ながら、学内のカフェテリアを横切り、ホールへと続く階段へ向かおうとした時、
「Aさん!」と声を掛けられる。
金子三勇士、本番40分前に先生方とお茶を飲んでいた。
びっくりして「こんなところにいていいの?」と思わず口から出る。
チェックのダンガリーシャツにジーンズ、「着替えなくてもいいの?」
「もう少ししたら行きますよ。」とにっこり。
その落ち着いた様子にこちらも和む。

会場、どの席にしようかと物色。
ピアノコンサートは本来、真ん中から若干左手寄り、鍵盤と指使いが見える席が好まれるようだ。
しかしながら、私はいつも顔が見える位置、比較的、右手を選んできた。
今回はあえて左右の列の中からステージに向かって左手、前から7列目ほどだろうか、
を選択。

プログラムはオールリスト。
先ほどとはうってかわって黒のシャツに黒のタキシードパンツで登場。
いきなり、「ハンガリー狂詩曲第2番」
斜め後方から初めて金子三勇士のリサイタルを観る。
正面と違い背中には心の内がそのまま現れる。
ピアノの指使い、手の使い方にも目を奪われる。

ハンガリーラプソディー、ここのところ、彼のCDで聴き込んできたが、
勇壮さと静かに進む部分とのコントラストが生だとより鮮やかに感じる。
そしてあらためて金子三勇士の演奏が、
いかに繊細で隅々まで丁寧に神経が行き届いているかを視覚的にも体感した。
終わった瞬間、掛け声と共に拍手しそうになる。
会場は静まり返っている。
コンサートではなく、公開されていても審査される試験であったことを我に返り思い出す。

三勇士はその後、しばらく呼吸を整えていた。
椅子の高さを変えたり、遠くを見つめたり。
目をつぶって切り替え集中力を高めているのがわかる。
ステージの上のソリストは孤独だ。
いったん壇上に上がったら何が起きても一人で解決し演奏を続けなければならない。

「愛の夢第3番」
トリッキーなハンガリー狂詩曲から、全く曲種の異なるこの曲へと来たか。
男女の愛ではなく人類愛を説く詩にリストが曲をつけたと聞く。
ゆったりとした中にも荘厳さを秘めたこの曲。
柔らかな調べだが弾く方はその曲に優しさや暖かさを乗せるためにどれだけの努力が必要かということ、
この日に鍵盤に運ばれる三勇士の手と揺れる背中を見ながら思い知らされた。

巡礼の年より「オーベルマンの谷」
私は今日、自分が泣くとは思っていなかった。
しかし、この曲の中盤、涙が流れ始めた。

「あなたはいつも困難な道をあえて選んで生きてきた。
そうやって安易な道を取らずに頑張ってきたことは一つも無駄になってはいない。
今までの体験が聴く人の心に響く演奏ができるピアニストへと確実に導いている。」
と三勇士の背に向かい私は心の中で想っていた。

「オーベルマンの谷」が終わったところで金子三勇士は楽屋へと下がった。
その間に私は席を左手から右手へと移動する。
今度は右の中ほど角の席へ。

客席は後方を中心に埋まっている。
先生方も後列に並んで着座されている。
ほとんど若い女性、同じ大学の学生達もたくさんいることと思う。
年配の女性も多い。そういう中で若い男性が二人、かなり前方の位置に座っていた。

リスト「ピアノソナタ」
右手中央後方は音のバランスが良いが、
やはり先ほどの席の方が息使いや心の内が感じられた。
しかしペダル使いを含めてこちらだと全体像として捉える事が出来る。
コンサートでは中々できない二つの位置から観て聴く、という贅沢な体験をさせて頂いた。
この曲は何度聴いても素晴らしい。彼の定番として定着しつつある。
もちろん演奏もその都度変わってはいるが、自分のその時の心理状態によっても違って聴こえる。

演奏の余韻に浸りながら、コンサートホールの外に出ると、
金子三勇士も楽屋からこちらへと回り、訪れた観客達と対話していた。

今日は試験ではあっても自分のテリトリー、学内でしかもソロの演奏。
リラックスしてのびのびと演奏していたように思えたのだが、
後ほど本人から聞くところによると学内においてはあくまでも生徒の立場になり、
演奏会とは違った意味で、実はとても緊張していたことを知った。
東京音大の100周年記念ホールの音響、ピアノ、スタインウェイDも完璧に整えられている。
ピアノと演奏者がぴったりと寄り添い一つになっていた。

終わった後、しばし談笑。
横で辛抱強く待っていられた年上の女性二人がいらした。
前方中央でご覧になっていられた方達だ。
最後に三勇士にサインをお願いされていた。
その控えめで上品な様子が見ていて微笑ましい。

別れ際「では17日のサイン会でね。」と言うと思わぬ言葉が返ってきた。
「サイン会、6人位しか来てくれなかったらどうしましょう?」
もちろん冗談で言っているんでしょうけど。
「だいじょうぶよ。今日だってこんなに大勢の方がいらしたんだし。」
と言いつつ、心配になった。

そういうわけですので、皆さま、どうぞ、10/17(日)17:00より渋谷タワーレコードにての、
30分のミニコンサートとサイン会、こぞっておいで頂けるとありがたいです。
いらして下さったファンの方達とサイン会でお会いできるのを
金子三勇士君も心待ちにしていますので。

ミニコンサート&サイン会
『Miyuji plays Liszt』CD発売記念イベント
日時:2010年10月17日(日)17:00~
タワーレコード渋谷店6F
お問合せ:03-3496-3661
http://tower.jp/store/event/2870