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80年代Cafe

80年代を中心に、70年代後半~90年代位の懐かしいもの置いてます。
あなたにとって80年代はどんな時代でしたか。

ゲームブック・モンスター誕生・社会思想社

2007-09-17 23:26:23 | ゲームブック

 『モンスター誕生』は、日本では社会思想社より1988年に発表されたソーサリーシリーズの第24番目の作品にあたります。著者はS・ジャクソンで、(現時点では)彼のファイティング・ファンタジー最後の作品となると共に、『ソーサリー』と並んで最高傑作と呼ばれています。これまでにも様々な趣向や、新しいルールに挑戦してきたS・ジャクソンらしく、非常に凝った(変わった)作品になっています。また、最初に物語の背景が語られるのですが、舞台となるアランシアの3悪人“ザゴール”(火吹き山)、“バルサス・ダイア”(バルサスの要塞)と、本作の敵である“ザラダン・マー”の関係にもふれられており、シリーズ世界をリンクさせ物語世界をより深めるという役割も果たしています。

 物語の背景は、アランシアを支配しようと企む妖術師『ザラダン・マー』が、それを可能とするエルフの魔法を盗み出そうとしているところより始まります。彼は、ドリーの魔女達の手により育てられ、“ザゴール”、“バルサス・ダイア”とともに、高名な魔術師“ダークストーム”に師事して黒魔術を学びます。それと同時に魔女達より伝わった、マランハと呼ばれる異形の合成生物をつくりだす魔術にも精通しています。ある時、森エルフの村に特殊な力を持つ“煙”が存在することを知り、その秘密を追うこととなります。ただし森エルフの村は巧妙に隠されており、地上からの探索では見つけることができません。彼は、探索のためにガレーキープと呼ばれる飛行艇を乗っ取り、空よりの探索を行っていきます・・・。このような感じで、まず冒頭に長い背景の解説があります。この中で、ザラダンの部下である魔術師や、ゾンビの軍隊指揮官のことなども詳細に語られるのですが、実は物語の主人公であるプレイヤーには、それらはそれほど意味を持ちません。なぜなら主人公は、暗い地下通路の袋小路で、頭痛と体の痛みとともに目覚めるのですが、自分が何者で、いったい何をすればよいのかを一切知りません。それどころか、知性を持たない(鋭い鉤爪と緑色の鱗を持つ)怪物になっていますので、プレイヤーの意思(選んだ選択肢)すら、無視して行動を始めることになります。傷付いたドワーフを助けようとして、(体は意図に反して)食べるために襲い掛かかってしまいます。本能による肉体の行動に意図は大した影響を与えることができず、右左どちらに行くかをサイコロで決めるなど、(ゲームブックとしては)かなり異色の展開になっています。


 この後、アイテムの力を借りて理性を取り戻し、言葉を理解し文字を判読できるようになっていきます。徐々に自分が何処にいるのか、何をすべきなのかを分かってくるようになっています。このように失われた記憶(アイデンティティ)を取り戻す物語なのですが、そのための仕掛けも非常に巧妙です。この作品は、文字だけでなく出合った相手の言葉すら意味の無い文字列で書かれていますので、初めはプレイヤーにもそれが理解できません。しかし冒険の途中で言語の能力を手に入れると、文字列(暗号になってる)の謎が解けてそれらの意味がわかるようになります。この当時『レリクス』(86)という、記憶を持たない意識体として、失われた記憶と自分の本当の体を探索するゲームがありましたが、雰囲気はそれにもちょっと似ていますね。またプレイヤーが、敵であるワードナーに扮して蘇り失われた記憶と力を取りもどす、『Wiz4』とも共通する部分があるように感じます(FF7も本当の記憶を取りもどす物語でした)。このような展開のためか物語性も高く(単なるゲームブックの添え物ではなく)、怪奇・ファンタジー小説としても十分楽しめるものになっています。前半は『ザラダン・マー』の地下研究施設、後半は地上でガレーキープを探す旅になっています。暗く湿った地下から外へ、そうしてガレーキープ船上での展開になっていますので、記憶が戻ってくる過程にあわせて開放感が感じられ、最後に天空のもとで自分が何者なのかを取り戻すクライマックスでは、けっこうな爽快感を味わえると思います。また理性を取り戻し、謎が解明されてゆくにつれ冒頭の物語背景ともリンクするようになっており、数々の伏線も生かされています。ただし、S・ジャクソンにとってのシリーズ最終作(集大成)であるためか、難易度も半端でなく高く、パラグラフの使い方(トリック)も凝りに凝ったものになっていて難しいです。


 ゲームブックをネタとして取り上げる場合、プレイしたのは20年以上前のことですから記憶が曖昧で、もう一度読み直したりネットで調べたりするのですが、この作品は現在読んでみても楽しめました。ストーリーが、(ゲームブックにありがちな)単なる冒険のためのものに終わっておらず、また仕掛けも非常に凝っているなど完成度の高さをあらためて感じました(また、そのため非常に時間がかかりました)。この作品はゲームブック中期ものにあたると思いますが、(ある程度ヒットしたためか)この時期のものとしては意外に見つけやすい気がします。もし100円コーナーで見かけられたら、ぜひ手にとってみられることをお勧めしたいと思います。

ゲームブック・タイタン—ファイティング・ファンタジーの世界/モンスター事典・社会教養社

2007-09-02 20:19:13 | ゲームブック



 これは、ファイティング・ファンタジーシリーズの副読本(資料集)として1986年に発表されたモンスター事典と、タイタン—ファイティング・ファンタジーの世界(日本では90年発表)です。著者は、I・リビングストン&S・ジャクソン監修、M・ガスコイン編となっています。ゲームブックの大ヒットを受けて、1986年に社会思想社よりゲームブック専門誌ウォーロックが創刊されます。1984年には“ファイティング・ファンタジー”シリーズの世界観に基づいたTRPGとしてファイティング・ファンタジー(日本では東京創元社が出版)が発表、続けて1989年には、2番目のTRPGアドバンスト・ファイティング・ファンタジーが発表されています。そのような世界的なゲームブック人気の高まりを受けて、より詳細にその世界観を確立しようという意味合いで、これら2冊は登場してきたのだろうと思います。


 ゲームブックより派生したTRPGファイティングファンタジー。なぜか社会思想社ではなく、東京創元社より出てました。
 

 こちらは、2番目のTRPGアドバンスト・ファイティング・ファンタジー。D&Dを意識したっぽいイラストがかっこいいです。


 ファイティングファンタジーTRPGシナリオ、謎かけ盗賊。ゲームブックではないので、一人では遊べません。

 まず86年に最初に登場したモンスター事典ですが、ファイティング・ファンタジーに登場した200以上のモンスター・データと生態が解説されています。この86年という年(ドラクエが発表された年)は、RPG熱が高まってきていた頃で、PC誌などでも(日本人に不慣れな)ファンタジー世界のモンスターを解説した記事が盛んに書かれていました。(有名なところでは、Beep誌に連載されていて書籍化された『RPG幻想事典』など)。それらと少し異なる点として、(“ファイティング・ファンタジー”シリーズに登場してきたモンスターの事典ですから)技術点・体力点・などが記されています。また、オークやトロール、ゴブリン、スケルトン等といった一般的なモンスターに混じって、赤目、肥喰らい(スライムイーター)、ゴンチョン(トカゲ王の寄生生物)、ガンジー(バルサスの要塞にいた難敵)など、この世界独特の生物も多数登場します。それでも、一つ一つにイラストの付いた200以上のモンスターの解説は圧巻の一言で、例えばエルフの項目では、黒エルフ・森エルフ・山エルフ・闇エルフ、トロールの項目では、海トロール・丘トロール・洞窟トロール・本トロールなどと、細かく分類された上に詳細な解説がついており、RPGやファンタジー世界を知るための読み物として非常に楽しいものでした。当時は、これを読みながら世界観を膨らませて、ゲームを楽しんでいたような記憶があります。


 タイタンには、舞台となるタイタンの地図が付属。


 このような小物が、雰囲気を盛り上げてくれます。


 続いて(日本では)90年に出版されたタイタン—ファイティング・ファンタジーの世界ですが、こちらはファイティング・ファンタジーの舞台となる異世界“タイタン”についての解説書となります。タイタンは、物語の主要な舞台であるアランシア大陸、ソーサリーの舞台となった旧世界、混沌の地クールの3つの世界からなっています。まずはそれぞれの世界の神話と伝説から始まって、善の勢力、中立の勢力、悪の勢力と住人たちの解説、暦、祝日・祝祭、通貨や経済・流通、ポート・ブラックサンドを例に取っての冒険者の町での生活風景などが、事細かに解説されています。善の勢力には、ドワーフ、エルフ、ノームなどの種族が紹介され、ドワーフの使用するルーン文字までが規定されています。またニカデマス(盗賊都市)、ヤズトロモ(運命の森)などのお馴染みの善の魔法使いたちが、その関係や経緯など詳細に解説されています。悪の勢力としては、オークやゴブリンたちの生態が(オークの部族や軍隊の組織図まで)図解入りで事細かに述べられています。また代表的な悪の勢力として名高い3悪人、ザゴール(火吹き山)、バルサス(バルサスの要塞)、ザラダン・マー(モンスター誕生)の生い立ちやお互いの関係までが、ここで初めて明かされています。TRPGのルールブックなどには、その背景世界の法律や通貨、職業などといったことが、決め細やかに規定されていることが多いのですが、それらにも劣らないほどの膨大な情報が詰め込まれています。ゲーム世界の補完という意味合いを離れて、一つの仮想空間を作り出そうというゲームデザイナーの情熱のようなものを感じてしまいます。


 何度か書いたことがあるのですが、日本製のRPGはイベントや感動的な物語で繋いでみせるエンターティメント型のものが多く、海外のものは徹底的に世界観を作りこんで、その中を自由に冒険させるタイプのものが多いような気がします。ただ海外製のものは、自由度が高い反面、突然世界に放り出されて何をすればよいのか分かり難かったりして、日本ではあまり歓迎はされないようです。どちらが優れているかという問題ではなく、単に文化の違いといったものだとは思いますが、こういう徹底的に作りこまれた仮想世界というのは、役割を演じ自分の行動が冒険(物語)を作るRPGの原点のようにも思えてきますね。これらの書籍に書かれている情報は、今となってはあんまり意味を持ちませんが、ファイティング・ファンタジーの世界をより深く楽しむためには必須のものだと思います。それほど見かけるものではありませんので、100円コーナーでもし見かけられたら確保されることをお勧めしておきたいと思います。

T&Tソロアドベンチャー・カザンの闘技場・社会思想社

2007-08-16 13:58:53 | ゲームブック

『カザンの闘技場』は、T&Tのソロアドベンチャーシナリオの第二弾として、社会思想社より1988年に出版されました。今作は、表題にもなっている戦闘オンリーの『カザンの闘技場』と、低レベル魔法使い向けの『ソーサラー・ソリテア』の2本が収録されています。どちらも通常のシナリオからするとちょっと異質な作品になっており、特に『カザンの闘技場』は、闘技場にてひたすらバトルを繰り返すというかなり特殊なシナリオです。またこの作品は、ゲームブック(TRPG)ブームの全盛期に発売されたためか、そこそこ売れたようで、今でも古本屋でよく見つけることができます。


 『ソーサラー・ソリテア』は、T&Tソロシナリオの中でも珍しい低レベルの魔術師専用となっています。直接戦うという選択枝があまりないため、魔術師以外のキャラクターでは生き抜くことができません(そもそも迷宮の入り口自体が、魔法でないと開きませんが)。前作の『傭兵剣士』が、どちらかというと低レベルの戦士向けのシナリオでしたので、プレイヤーに魔術師の冒険を体験させる(魔術師のキャラを育てさせる)、という意味合いで用意されたものなのでしょう。舞台設定は、深夜の巨大な大邸宅となっているのですが、蝙蝠や幽霊などの大邸宅(幽霊屋敷)らしいものだけでなく、魔女やトロール、ドラゴン、囚われの王女、サーベルタイガー、暗闇の悪魔、果てはSFっぽい実験室から暴走をはじめる“大喰らい”など、(ホラー、ファンタジー、SFと)世界観がごちゃまぜになっています。それ以外にも指示されていない番号を読むと、いきなりDM(ダンジョンマスター、この場合は作者)に怒られたり、倒せる筈のない悪魔(MRが2000以上ある、他のMRは10~30程度)を倒した場合、DMにシナリオ外に摘み出されるなどのジョークっぽいノリもあります。このように変わったシナリオですが、結構面白く一度遊んだら印象に残る作品になっています。


 『カザンの闘技場』は、闘技場での戦闘のみに特化したかなり異色のシナリオで、プレイヤーは死の都市としてしられるカザンの闘技場で戦うことになります。基本的にストーリーなどはなく、カザンの謎を解き明かすとか、カザンの支配者レロトラーを倒すなどの展開にはなりません。プレイヤーは腕自慢の自由人として、或いは奴隷としてひたすら戦闘のみを行なうことになります。基本的にどんな職業、どんなレベルのキャラでも参加できるように作られており、また何度でも戦いを繰り返すことができるなど、(矛盾が生じないよう)非常に緻密に組み立てられたシナリオになっています。グレムリン、ドワーフ、オークなどの小型の相手から、大猿、象、巨人、果てはマンティコア、ユニコーン、バルログなど空想上の強力なモンスターまでが相手になります。戦うことによって冒険点がもらえたり、強力な魔法の武器(自動小銃のようなものまである!)が手に入るなど、自分のキャラクターを強力に育てるためのシナリオとしても機能するようになっています。また他のシナリオにて奴隷船に囚われた後で、ここに送られるというシナリオを横断する展開もあって、より世界観を拡げるような役割も果たしていました。


 パソコン版トンネルズ&トロールズ カザンの戦士たち。カザンの謎を解き明かし、レロトラーを倒すという、カザンの闘技場の拡張型のようなシナリオになっています。ただし、解き終えることが困難というとんでもなく難しい作品のため、ここでもレロトラーは結局倒せそうもない。


 国産初のCRPG“ザ・ブラックオニキス”にはアリーナという施設があって、シリーズ第4弾として闘技場でひたすらバトルをする作品が予定されていたそうです(実際には2作目までしか発売されていない)。またドラゴンクエストでも、モンスター同士を戦わせる闘技場が用意されていました。これら闘技場という設定は、ある意味ではRPGにはお約束でもあり、世界観をより深める意味も担っていましたね。もちろんT&Tの場合、戦闘の計算は手動で自分で行なう必要がありますので、ひたすら戦闘を繰り返すこのシナリオを楽しめるかどうかは、今となっては微妙ですが。まあ良く見かける作品ですので、世界観を楽しむというような意味でしたら、手に入れてみられてもよいと思います。

ゲームブック・雪の魔女の洞窟・社会思想社

2007-07-15 16:34:06 | ゲームブック

 これは、ファイティングファンタジー第9作目『雪の魔女の洞窟』(Caverns of the Snow Witch)です。著者はI・リビングストンで、彼の作品らしくタイタン世界(中世風の剣と魔法の世界)を舞台とした、オーソドックスなルールのものになっています。この作品の特徴としては、もともと『ウォーロック(WarLock)』誌(社会思想社)に掲載された短編に後半部分を加筆して、出版されたものだということです。そのため前半部分は『雪の魔女』の洞窟に潜入して魔女を倒す戦い、後半部分は魔女にかけられた呪いを解くための旅となっています。

 物語は、氷指山脈の水晶の洞窟の奥に潜む『雪の魔女』が、世界を支配すべくこの世に氷河期をもたらそうと企んでいる。隊商の護衛であった君は、前哨砦を襲った怪物を退治した時に、怪物の手にかかった猟師よりこの事実を告げられる。美しくも邪悪な魔女を倒すために君は洞窟に向かうことになる・・。おなじみの剣と魔法のタイタン世界が舞台とはいっても、雪の山岳地帯が舞台となるため、これまでの作品にはない雰囲気をもっています。登場してくる怪物も、雪狼、マンモス、雪男(yeti)、霜の巨人(Frost Giant)、結晶戦士(Crystal Warrior)、とそれらしいです。この『雪の魔女』は、アンデルセンの童話『雪の女王』(The Snow Queen)から着想を得ていると思いますが、そのためか一面が雪と静寂に覆われた、どこか清潔で、どこかロマンチックな世界観になっています。ちなみに『雪の魔王』で検索すると、マイクロキャビンのAVG『は~りぃふぉっくす・雪の魔王編』が多くヒットします。

 雪の魔女を倒すのがこの冒険の目的ではあるのですが、短編に後半部分を加筆して成立したという経緯を持つため、後半部分は魔女の洞窟を出て魔女にかけられた“死の呪文”を打ち破る展開へと変わります。冒険の途中で魔女の奴隷だった、エルフの(赤速)とドワーフの(スタブ)が仲間になります。このドワーフはストーンブリッジの住人であり、一行がストーンブリッジに到着するとドワーフ達の“伝説的なハンマー”が奪われる事件(運命の森)に遭遇することになります。それ以外にも“迷宮探険競技”の行なわれる『ファング』という街の話が出てきたり(死の罠の地下迷宮)、呪いを解く癒し手は『ニコデマス』という魔法使い(盗賊都市)の呪いを解いたために、自分が疫病に罹ってしまったという設定になっています。そして主人公が最終的に呪いを解く場所は、あの『火吹山』です(火吹き山の魔法使い)。このようにファイティングファンタジーのこれまでの舞台が登場して、それらが一つの世界として結び付けられています。この後に『モンスター事典』、『タイタン』といった、タイタン世界の設定集が発売されていますが、ゲームブックの世界的な好評を受けてゲームブック誌(ウォーロック)が創刊されたこともあり、この辺りからだんだんと一つの物語世界が構築され始めたことがわかります。

 このように書いてくると結構面白そうですが、個人的には印象が薄い作品となっています。確かに遊んだ記憶はあるのですが、前回の『地獄の館』を鮮明に覚えていたのとは対照的に、内容はほどんど残っていませんでした。初期の『火吹き山』、『バルサス』などに感じた衝撃がこの頃になると薄れてきていて、新鮮味を感じなかったのかもしれません。この後、世紀末バイオレンス『フリーウェイの戦士』、日本風の世界が舞台の『サムライの剣』、アメコミヒーロー路線『サイボーグを倒せ』といった多彩な設定の作品が登場してきますので、そちらの方に目がいっていたのかもしれませんね。

ゲームブック・地獄の館・社会思想社

2007-07-10 22:17:20 | ゲームブック

 これは、ファイティングファンタジーの第10作目『地獄の館』(House of Hell)です。著者はS・ジャクソンで、単独作品としては、『バルサスの要塞』、『さまよえる宇宙船』に続く第3作目にあたります。日本では社会思想社より1986年に発表されました。これまでのタイタン世界(中世風ファンタジー世界)を舞台にしたものとは異なり、現代(80年代)を舞台にしたホラー作品になっています。ホラーRPG『クトゥルフの叫び声』の影響を濃く受けており、ある意味斬新な世界観や、新しいルール作りにこだわったS・ジャクソンらしい作品だといえるでしょう。




 物語は、暗い嵐の夜に主人公の乗った車が、山道で事故に遭って動かなくなったところより始まります。土砂降りで稲妻の光る中、遠くに洋館の窓灯りが浮かび、救助の電話を借りるためにそこへ向かうこととなります。しかしそこは夜な夜な怪しげな儀式が執り行われる、悪名高い呪われた『地獄の館』だった・・・。この作品で最も特徴的なのは、基本ルールに“恐怖点”という新しいパラメーターが加えられていることです。これは恐怖を感じた場合に加算されてゆき、恐怖の限界を超えてしまうとショック死してしまうというルールです。このため通常のRPGのようにあちらこちらを探索するために、不用意に扉などを開けられないようになっており、より緊迫度が増しています。もう一つの特徴として、情報を得た場合や鍵などのアイテムを手に入れた場合、番号○○へ飛べとか、現在の番号より××を差し引いた番号へゆけなど、(実際に)情報を知らなければ行き詰まるようになっており、ズルが出来ないようになっています。恐怖点は情報を得るためには避けられず、情報がないと先へ進めないようになっていますのでジレンマが生じ、結果的に非常に難易度の高い作品になっています。


 屋敷の中は、2階が客室になっており、ここではゾンビや亡霊などと相対しながら脱出の情報を収集することになります。地下は牢獄や拷問部屋、儀式の間になっていて、こちらでは拷問吏や邪教集団などの人間が相手になります。ゴブリンやコボルトではなく、人間相手の方が(より狡猾でより残酷なため)非常にリアルで、より恐怖感を感じるような気がします。また主人公は、冒険者ではなく一般人ですから、武器などを持っておらず技術点より3点差し引いた状態でプレイしなければなりません。そのため戦うことよりも、逃げることや隠れることを、まず優先しなければなりません(そもそもプレイヤーの目標は、ラスボスを倒すことではなく屋敷より逃げ延びること)。屋敷の主は伯爵ケルナー卿で、彼を倒すためにはある“特殊な武器”と、ある“決まった場所”で戦うことが必要になります。これらは幾つもの情報を得て“合言葉”や“鍵”を見つけなければ到達できませんので、そう簡単には解けないようになっています。このように恐怖感(臨場感)も、難易度もFF最高の水準であり、S・ジャクソン作品としても特に評価の高い作品になっています。


 影響を受けたと思われるホラーRPGクトゥルフの叫び声。特徴的な点としてSAN値というパラメーターがあり、これを元に恐怖点が考えられたと思われる。


 地獄の館のあとがきでも安田均氏がクトゥルフの叫び声について言及し、同時期の他のテーブルトークRPGについても解説をしている。


 文章で説明するだけでは、知らない方にはいまいち伝わりづらいかと思いますが、雰囲気的には同時期の『スプラッターハウス』(88/ナムコ)、少し後の『バイオハザード』(96/カプコン)を連想してもらえば、ある程度は想像できるかも知れません。嵐の中を洋館に逃げ込み、屋敷内のゾンビや死霊などに脅かされながら、地下で行なわれている実験(儀式)の謎を解き明かす・・・。当時これらのゲームをプレイしながら、この作品の影響(や影)を感じたりもしました。(時期的に考えて、実際に多少は影響を与えているかもしれません)。また訳者の安田均氏は、同時期にラプラスの魔という、これもクトゥルフの叫び声に影響を受けたRPGをコンピュータゲームとして発表していました。こちらはゲームブックであることを置いておいても、かなり良く出来た作品だと思います。もし100円コーナーなどで見かけられたら、手にとってみることをお勧めします。※実際に臨場感を味わいたい方には、こちらに素晴らしいリプレイがあります(リンクフリーのようなので無断リンク)