80年代Cafe

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ゲームブック・地獄の館・社会思想社

2007-07-10 22:17:20 | ゲームブック

 これは、ファイティングファンタジーの第10作目『地獄の館』(House of Hell)です。著者はS・ジャクソンで、単独作品としては、『バルサスの要塞』、『さまよえる宇宙船』に続く第3作目にあたります。日本では社会思想社より1986年に発表されました。これまでのタイタン世界(中世風ファンタジー世界)を舞台にしたものとは異なり、現代(80年代)を舞台にしたホラー作品になっています。ホラーRPG『クトゥルフの叫び声』の影響を濃く受けており、ある意味斬新な世界観や、新しいルール作りにこだわったS・ジャクソンらしい作品だといえるでしょう。




 物語は、暗い嵐の夜に主人公の乗った車が、山道で事故に遭って動かなくなったところより始まります。土砂降りで稲妻の光る中、遠くに洋館の窓灯りが浮かび、救助の電話を借りるためにそこへ向かうこととなります。しかしそこは夜な夜な怪しげな儀式が執り行われる、悪名高い呪われた『地獄の館』だった・・・。この作品で最も特徴的なのは、基本ルールに“恐怖点”という新しいパラメーターが加えられていることです。これは恐怖を感じた場合に加算されてゆき、恐怖の限界を超えてしまうとショック死してしまうというルールです。このため通常のRPGのようにあちらこちらを探索するために、不用意に扉などを開けられないようになっており、より緊迫度が増しています。もう一つの特徴として、情報を得た場合や鍵などのアイテムを手に入れた場合、番号○○へ飛べとか、現在の番号より××を差し引いた番号へゆけなど、(実際に)情報を知らなければ行き詰まるようになっており、ズルが出来ないようになっています。恐怖点は情報を得るためには避けられず、情報がないと先へ進めないようになっていますのでジレンマが生じ、結果的に非常に難易度の高い作品になっています。


 屋敷の中は、2階が客室になっており、ここではゾンビや亡霊などと相対しながら脱出の情報を収集することになります。地下は牢獄や拷問部屋、儀式の間になっていて、こちらでは拷問吏や邪教集団などの人間が相手になります。ゴブリンやコボルトではなく、人間相手の方が(より狡猾でより残酷なため)非常にリアルで、より恐怖感を感じるような気がします。また主人公は、冒険者ではなく一般人ですから、武器などを持っておらず技術点より3点差し引いた状態でプレイしなければなりません。そのため戦うことよりも、逃げることや隠れることを、まず優先しなければなりません(そもそもプレイヤーの目標は、ラスボスを倒すことではなく屋敷より逃げ延びること)。屋敷の主は伯爵ケルナー卿で、彼を倒すためにはある“特殊な武器”と、ある“決まった場所”で戦うことが必要になります。これらは幾つもの情報を得て“合言葉”や“鍵”を見つけなければ到達できませんので、そう簡単には解けないようになっています。このように恐怖感(臨場感)も、難易度もFF最高の水準であり、S・ジャクソン作品としても特に評価の高い作品になっています。


 影響を受けたと思われるホラーRPGクトゥルフの叫び声。特徴的な点としてSAN値というパラメーターがあり、これを元に恐怖点が考えられたと思われる。


 地獄の館のあとがきでも安田均氏がクトゥルフの叫び声について言及し、同時期の他のテーブルトークRPGについても解説をしている。


 文章で説明するだけでは、知らない方にはいまいち伝わりづらいかと思いますが、雰囲気的には同時期の『スプラッターハウス』(88/ナムコ)、少し後の『バイオハザード』(96/カプコン)を連想してもらえば、ある程度は想像できるかも知れません。嵐の中を洋館に逃げ込み、屋敷内のゾンビや死霊などに脅かされながら、地下で行なわれている実験(儀式)の謎を解き明かす・・・。当時これらのゲームをプレイしながら、この作品の影響(や影)を感じたりもしました。(時期的に考えて、実際に多少は影響を与えているかもしれません)。また訳者の安田均氏は、同時期にラプラスの魔という、これもクトゥルフの叫び声に影響を受けたRPGをコンピュータゲームとして発表していました。こちらはゲームブックであることを置いておいても、かなり良く出来た作品だと思います。もし100円コーナーなどで見かけられたら、手にとってみることをお勧めします。※実際に臨場感を味わいたい方には、こちらに素晴らしいリプレイがあります(リンクフリーのようなので無断リンク)




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7 コメント

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今更ですが、コメントを。 (ストーブ・ジャクソン)
2011-08-19 17:52:55
初めまして。
この「地獄の館」は数あるFFシリーズの中でも傑作のひとつです。
惜しむらくは、

秘密の扉を開ける合言葉のヒントがわかりづらい(英版ならば、アルファベットを並べ替えることでひとつの単語が出来るが、日本語版であの言葉を思いつくのはヤマ感以外に無いでしょう。

恐怖点は最短ルートでも○まで達するので、キャラクターを作った時点で恐怖限界点が○以下だとクリア不可能。

といった点でしょうか。
このゲームは全400項目で構成されていますが、クリアする為に通る項目は全体の三分の一ぐらいです。下手に寄り道をするとデッドエンドブロックに入り込んでしまうんですよね。
魅力的(?)なイベントもあるのですが、正規ルートではそれらのイベントに関わらないようにしなければならないというジレンマが・・・

この「地獄の館」と「モンスター誕生」は、ソーサリーと互角、もしくはそれ以上の傑作です。日本人作家の作品には、ここまで意地悪な仕組みのゲームブックは無かったですからね。
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こんばんは (80-cafe)
2011-08-19 23:00:49
コメントありがとうございます。

ゲームブックの性質上、解けなかったらずるをして戦闘に勝ったことにして進んだり、最後は普通に読んで正しいルートを探してしまうのですが、それでも分岐が巧妙に隠されていて、なかなか正解がわからなかった覚えがあります。普通にやっていたら、これはまず無理だったでしょう。

当時は勉強するふりをして、夜に遊んだと思うのですが、ゲームとはいえけっこう恐怖感(臨場感)を感じて、没頭していたような記憶もあります。この時代は、PCでもアドベンチャーゲームなどがたくさん出されていましたが、それらに全く引けを取らないぐらい良くできていた作品だったですね。

ひとつの作品、エンターテイメントとしてみても、かなり上質の部類に入るものだと思います。
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ブログ拝見しました (レナード・ローレンス)
2011-10-03 00:03:59
「地獄の館」をキーワードに辿り付き、ゲームブック、ゲーム、プラモを中心にブログを拝見しました。

とても楽しく読ませていただきました。

特にゲームは紹介されているものの半分近く(たとえば、Wiz、ハイドライド、イース、ラストハルマゲドン)をプレイしてました。

紹介されているゲームブックの大半を所持していたのですが、数年前に部屋の大掃除をした際に捨ててしまいました。ちょっと勿体なかったかなとブログを拝見しながら後悔しております。
その際に地獄の館も処分。現代アレンジ版は購入したのですが、萌えと館の雰囲気が合わないのですよ~。

楽しいブログを読めてとても満足してます。ありがとうございました。
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こんばんは (80-cafe)
2011-10-03 20:50:02
コメントありがとうございます。

ゲームブックは2000年前後頃までは、ブックオフなどの100円コーナーに行くとわりと置いてあったのですが、今では見かけなくなりましたね。オークションなどを使えば、それほど入手困難というわけでもないですが。

現代アレンジ版は実際には見たことがないのですが、素直に復刻してくれればよいのにとは思います。
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難解 (MOSSAN)
2015-08-09 00:14:32
ソーサリーやモンスター誕生と同様にこの作品にも、
『クリア不可能が確定しているのに、延々と彷徨』という構造がありますね。
クリア不可能なルートに入ってもしばらくは死なないので、
どこで道を間違えたのか非常にわかりにくいです。
個人的には、ソーサリーより難易度は高いと思います。
しかし、何度ゲームオーバーになってもプレイしたくなる作品でしたね。
難しいけど正解ルートを探さずにはいられないという、
絶妙なゲームブックですね。
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Unknown (80-cafe)
2015-08-10 08:49:51
ある人物から情報を得て、ある場所に入り、あるアイテムを入手した後、特定の場所で戦う必要があるなど、それまでのものから比べると、凝りまくりでした。

地獄の館、モンスター誕生、ソーサーリーは、sジャクソン3部作とでもいうべき傑作だったと思います。もうちょっと、たくさん作品を書いていてくれていれば、あるいはゲームブックの寿命も延びたのかも。
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遅筆のスティーブ・ジャクソン (MOSSAN)
2015-08-10 20:17:27
>もうちょっと、たくさん作品を
イアン・リビングストンが次々とリリースするのに対して、
スティーブ・ジャクソンの作品は意外にも少ないですよね。
理由は、「同じような作品は書きたくない」だそうです。
その証拠に、スティーブ・ジャクソンの作品は、
毎回何かしらの新システムが導入されていましたね。
“地獄の館”なら恐怖点、“サイボーグを倒せ”なら様々な超能力という具合に。
当時は、「ソーサリー2は書きたいが、いつになるかはわからない」
と、あるゲームブックの巻末でコメントしていたそうですが…
ゲームブックより小説を書きたい気持ちが強かったんでしょうね。
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