80年代周辺の“あの頃”を題材とした漫画3作品。8ビット年代記/ゾルゲ市蔵・マイクロマガジン社は、2009年9月にマイクロマガジン社よりGameSide Booksとして発売された一冊です。著者は、謎のゲーム魔境のゾルゲ市蔵氏。雑誌GAMESIDE誌に連載されたものから15話までを収録して、プロローグとエピローグを加えた構成になっています。氏の自叙伝的な体裁をとりながらインベーダー、電子ゲームから、中古ファミコンショップが大流行りだった辺りまでの、80年代のゲーム史の流れを追いかけるという内容になっています。
この本で取り上げられた80年代のゲーム史周辺のトピックを、時系列順に挙げてみると、駄菓子屋での10円インベーダーに始まって、デパートのゲームコーナーでのギャラクシアン、電子ゲーム、電子ライターなどを使った裏技や20円ゲーム、パチものゲーム、補導員などのゲーセンネタ、シャープMZ-700、ゼビウスの衝撃、シャープX1など8ビットPCネタ、ゲーセンでのかつあげと続き、ゾルゲ氏が高校に入学した辺りから、アニメ製作編へと続きます。アニメ製作編にもスペースハリアーの衝撃が挟み込まれ、大学へと進学した後は、その頃乱立していたファミコンショップネタまでが描かれています。
帯の推薦文は、ゼビウスの遠藤雅伸氏。この本に関しては、氏はブログのほうでわりと醒めたコメント(電子ライターなどのネタがお気に召さなかったよう)をしていたりもするのですが、それでもお茶目な写真と推薦文がこの本に一定の重みを与えてます。
単行本以降も連載は続き、ゾルゲ氏の学生生活と共にアフターバーナーの衝撃なども取り上げられているのですが、残念ながらGAMESIDE誌自体が2010年8月号を持って休刊となってしまいました。単行本に収録されている部分でも、ゾルゲ氏が高校に入学した1984年辺りからは氏がアニメ製作に熱中していた関係で、ファミコン部分がすっぽり抜け落ちているなど、必ずしも80年代頃のゲーム史を忠実に追っているというわけではありません。ただあの頃は、宮崎駿氏が一般にも知られ始め、アニメブームの方も盛り上がっていましたので、あの頃全体を覆う空気感のようなものは、逆に伝わってくるような気がします。
ということで、従来のゾルゲ節は抑えられ、現時点では氏の代表作と言ってよいできかも。インベーダーの熱狂から始まって、電子ゲーム、駄菓子屋の20円ゲーム、ゼビウス、8ビットPCゲーム、かつあげ&補導、ファミコンショップの乱立の時代まで、あの頃を体験したものにとっては、とてもよく出来た一冊だと思います。
ピコピコ少年/押切蓮介・太田出版は、2007年8月より2009年8月にかけて、雑誌CONTINUE誌に掲載された連載漫画を単行本化したもの。作者の押切蓮介氏は、ホラー&不条理系を得意とする作家さんのようです。そのためか、単にノスタルジアだけにとどまらず、あの時代(少年時代)特有のえぐさや、やるせなさなどの、リアリティまでを含んだ内容になっています。
こちらは、ゲーム&ウォッチのドンキーコングより始まって、ファミコン、ディスクシステム、PC-エンジン&ゲームギア、駄菓子屋、補導&かつあげ、秘密基地&ゲームボーイ、女っけのない高校生活等が取り上げられており、大人になった時点より振り返ったエピローグで構成されています。ゾルゲ氏の8ビット年代記と、扱うネタや構成的には近いのですが、作家さんがゾルゲ氏より10歳ほど下の世代ということもあって、取り上げられるネタも80年代後半のPC-エンジン、ゲームボーイ辺りががメインとなっている感じです。このあたりは、読む方の世代によって、ゾルゲ氏のものとどちらに共感するかが、わかれるように思います。
ゾルゲ氏は80年代前半の少年で、こちらは80年代後半の少年といった感じですが、こちらでも駄菓子屋ネタは健在で、駄菓子屋や文房具店などが中古ファミコンソフトを扱い始めたりして、駄菓子屋兼中古ソフト屋の前に小学生の自転車が大量に置かれていた頃を思い出させてくれます。
バブル期の頃で公共工事なども活発におこなわれていた頃だと思いますが、その環境下でも秘密基地を作ってゲームボーイをしたエピソードがクライマックスに置かれています。秘密基地というのは、少年時代の普遍的なテーマなのかもしれません。
こちらの方は、ゲームに関するマニアックなネタ&情報はあまり入っておらず、ゲーム業界の人であるゾルゲ氏とはまた違った切り口であの頃が切り取られていて、読む人の世代、育った環境などにより、感じ方は異なると思います。ただ、こちらも80年代後半にかけて少年時代を送った方には、とても共感できる一冊だと思います。
アーケードゲーマーふぶき/吉崎観音・アスペクト(アスキー)は、1998年9月号~2000年3月号まで月刊ファミ通Wave、ファミ通ブロス(エンターブレイン)誌上で連載された作品。2002年から2003年にかけてOVA化もされています。写真のものは、アスペクトより発売されたものですが、2002年にはアーケードゲーマーふぶきORIGINALとして、エンターブレインからも出版されています。
こちらは、“ケロロ軍曹”の吉崎観音氏による80年代のゲーム(ゲーセン文化)に対してのオマージュで、作者公認のゲームセンターあらしオマージュ漫画でもあります。単行本の巻末には、吉崎氏とすがや氏の対談も収録されています。物語は、ふぶきを見守る謎の男“謎の人さん”よりPP(パックマン・パンティ)を送られた主人公ふぶきが、そのPPの力を解放することにより超人的なゲーム能力を身に付け、世界制服をたくらむギャラクシ団とゲーム勝負を繰り広げるというもの。ストーリーの方は、何かわけがわかりませんが、設定は舞台を(連載時の)現代である90年代の後半にした少女版ゲームセンターあらしという非常にわかりやすい作品となっています。
単行本には、ふぶきのコスプレをしたモデルさんによるイメージ写真も入っていますが、ルーズソッスクが微妙に懐かしい感じで、今となっては逆に郷愁を誘います。ネタバレになるため書きませんが、クライマックスではゲームセンターあらし世代の人にも感涙ものの展開となっており、この世代の人にも十分楽しめる作品だと思います。
ということで、80年代ゲーム史周辺を扱った3作品でした。ここを見ている方には、すべてお勧めの一冊と言える作品だと思います。
参考:Wiki ゲームサイド、アーケードゲーマーふぶきの項、ゲームの神様(遠藤氏公式ブログ)