アバター Avatarは、2009年に公開されたアメリカとイギリスの合作映画。監督は、超大作映画ならおまかせのタイタニックの巨匠ジェームズ・キャメロン監督。
本作は、3D映像による劇場公開が話題となり、世界興行収入が歴代1位となる27億8800万ドル(約2518億円)を記録。アカデミー賞では9部門、ゴールデングローブ賞では4部門がノミネートされた超大作映画です。表題となっているアバター(avatar)とは、インターネットコミュニティで用いられる、自分の分身となるキャラクターのことを指すのが一般的ですが、元々の語源はサンスクリット語のアヴァターラ(avataara अवतार)で、インド神話や仏教説話の(神や仏の)化身を指す言葉のよう。映画では、MORPGやMMORPGのプレイヤーのように主人公が原住民の種族に憑依して、やがて原住民たちから神の化身として認められる過程を描いていますので、両方の意味を持たせてあるのだと思います。
物語は、アルファ・ケンタウリ系惑星ポリフェマス最大の衛星パンドラを舞台としている。貴重な資源である希少鉱物を求めて人類がこの星にやってきており、主人公である元海兵隊員のジェイク・サリーは、ある任務のためにこの星を訪れる。この星には、ナヴィという先住民族が住んでおり、彼らの村や彼らが守る神聖な場所である魂の木の下に資源が眠っているため、彼らに立ち退きを交渉する相手役として選ばれたためだ。ジェイクは、人工的に作られたナヴィ族の体に神経を接続させて憑依をするアバターとなって、この星の大地に降り立つ・・・。
ということで、公開当時3Dの技術が話題となった映画でした。2010年に3Dテレビ、2011年にニンテンドー3DSと、この頃は3Dが大流行で時代のキーワードみたいになっていました。3Dの映画自体は、そう目新しいものではなく、1952年から54年頃にかけても流行したそうです。第2次立体映画ブームだった80年代には、ジョーズ3D、13日の金曜日3Dなんてのも。赤と青のセロファン眼鏡(アナグリフ眼鏡)をかけて、目が疲れてしまうという経験は多くの人が体験しているのでは。ゲームに関しても、84年のトミー 3D立体グラフィックゲーム、87年ファミコン3Dシステム、セガ3Dグラス、95年バーチャルボーイ(VIRTUAL BOY)と、周期的に現れては消える流行でした。この映画の新しかったのは、3D技術を立体的に飛び出させるのではなく、奥行きを表現するために用いたこと。この映画の映像は、すべてがその目的のために構築されているという気がします。
ジェームズ・キャメロンと言えば、80年代に自身が脚本も書いたターミネーター(84)の大ヒットで一躍有名になり、スペースホラーだった第一作目を180°異なるコンセプトでアクション大作に仕上げたエイリアン2(86)でその地位を不動のものにしました。その後、アビス(89)とかトゥルーライズ(94)とか微妙な時期があったものの、 アバターに抜かれるまで映画史上最高の世界興行収入を記録した97年のタイタニックで、映画史に残る大監督にまで上り詰めました。80年代的には、キャメロン監督のデビュー作殺人魚フライングキラー(81)の前作ピラニア(78)を撮ったジョー・ダンテ監督とどっこいどっこいの知名度(ハウリング 、グレムリン、世にも不思議なアメージング・ストーリー、インナースペースなどジョー・ダンテ監督の方が活躍していた)だったのですが、えらいとこまで上り詰めました。
80年代を知るものからすると、嘘みたいな活躍ぶり。ロジャー・コーマンの下でB級映画を撮ってたのに、リアルアメリカンドリームの体現者、監督すごろくの勝者、監督わらしべ長者みたいな感じの人です。
ストーリーはさておき、もうひとつ話題となったのが、徹底的にロケを排除し最先端のCG技術で作られたその映像や世界観。全く見たことの無い、異世界を体験させてくれるというだけでも、この映画の価値はあると思うのですが、同時にそのイマジネーションには幾つかの疑問点も言われていました。有名なのが、YESなどのジャケットアートで有名な英国人画家のロジャーディーン氏の描く世界観に影響を受けているのではないかという話。これは、実際に裁判にまでなり、ロジャー氏側が敗訴しているようです。スペースハリアーの世界観もロジャー氏の世界観を参考にしているということですから、それだけ氏の世界観が素晴らしいということの裏返しのようでもあります。
個人的には、セガがセガサターン用に開発したパンツァードラグーン(95)に似ていると思いました。どのような作品も過去の作品よりインスパイアーを受けてイマジネーションを膨らませていて、全くのゼロから世界観が作られるということはありえないわけですから、キャメロン監督はともかくCGクリエーターたちには影響を与えているのではと思います。
もうひとつ言われたのが、もののけ姫やナウシカなどジブリ作品からの影響。異文化の交流、自然との調和というテーマからは同じような位置にあると思います。他には、白人とインディアンとの交流を描いたダンス・ウィズ・ウルブズ(90)、東洋と西洋の交流をテーマにしたラストサムライ(03)などからの影響が言われている。衛星パンドラの森林との共鳴や原住民ナヴィとの交流の場面などは、もののけ姫をかなり連想させます。クリオネみたいな森の精霊が登場し、森全体に生命が宿る八百万の神みたいな世界観なんですね。キャメロン監督自身が、宮崎監督の映画から影響を受けていると発言しているそうなので、いろんなところからイマジネーションを持ってきて世界が構築されているのでしょう。この映画、ストーリー的にはアメリカ映画らしく勧善懲悪で最後はすっきりと決着を見ますが、対してもののけ姫の方では、アシタカはサンとは一緒に暮らさないし、腕にかけられた呪いも解けないままで何も解決しません。ただ、そのように余韻を持たせた方が、物語に深みは出たのかなという気はします。
そうは言っても、この作品の場合ストーリーはこの世界観を見せるためだけにあり、破綻しておらず爽快であれば問題ないという気もします。本来ならば、劇場で3Dの上映を見た後、ショッピングモールなどによって食事やお買い物をするというのが正しい本作の見方であって、映画とは非日常を味わうための週末のイベントのひとつであると考えるなら、そういった意味でやはり映画はこうでなくてはという気もします。もうひとつ、アバターというタイトルや宇宙海兵隊という設定からは、QuakeやHALF-LIFE、Unrealなどの異星人と戦うMMOFPS(ファーストパーソンシューティング)の影響も感じられますが、そもそもこれらの世界観自体が、キャメロン監督のエイリアン2から多くの着想を得ているので、そういったゲーム世界の実写映画化として楽しむのもありかもしれません。
ということで、個人的評価は星★★★★。映像だけ、世界観だけなら★★★★★でも良いと思います。古今の映画、ゲームからの影響が一杯に詰まり、新しいのだか古いのだかよくわからない3Dというギミックもありと、楽しさ満載の娯楽超大作と呼ぶのにふさわしい映画アバター Avatarでした。
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