『クエストブック・魂の宝箱と12の呪文』は、1990年に社会思想社より発表された(パズル)ゲームブックです。著者はゲームブックの第一人者の一人であるイアン・リビングストン。
同様のシリーズに、スティーブジャクソンの『魔術師タンタロン12の難題』があります(知名度としてはこちらの方が上でしょうか)。これらは、両方ともゲームブックブームの末期に発表されていますので、ゲームブックに詳しい方でも実際に遊んだことのある方は少ないかもしれません。
内容の方は、イラストを見ながら謎をとくパズルブック。大きさも絵本ほどのサイズで、海外などでは子供向けに割とメジャーなジャンルなのでしょうか。ウォーリーを探せとか、迷路が一面に書かれたパズルブックとか、イラストを見ながら犯人を当てる推理物とか、ああいった種類のものです。ただしファイティングファンタジーの作者が送り出した作品ですから、ただのパズルブックには終わりません。子供でも十分遊べるとは思いますが、世界観もファイティングファンタジーと共有しており、難易度もかなりの高難易度で、ゲームブックの読者であった層でも十分に楽しめるように作られています。
舞台は、アマリリア王国。アマリリアにはデーモン軍団が押し寄せておりアマリリア軍との戦いが行われていた。大魔術師サラザールは、そのデーモンを封じ込める呪文を12の宝に託して王国の中に隠した。読者はサラザールの依頼を受けて、12個の宝を探すこととなる・・・。構成は、見開きの左側に物語、右側に大きなイラストが置かれています。各ページごとに文章にはタイトルが付けられ、12個の宝物のイラストも示されています。宝物には1~12までの番号が振ってあり、イラストの中から宝箱を探し出して、見つかったページ最初の語句を順番につなげてゆくと、ひとつの文章が現れてきます。これがデーモンを退ける呪文で、この呪文を探す事が目的となります。
要は、だまし絵というか、隠し絵ですね。上のようなファンタジー風の美麗なイラストの中に巧妙に宝物が隠されていて、それを探すゲームです。ただしその謎が一筋縄ではいかないもので、いろいろな角度から眺めたり、時にはページを折ったり、鏡を立てたりしないとわからないように巧妙に隠されています。そもそも冒険の目的すら、文中でははっきりとは示されておらず、解答もこの本には入っていません。あまりにわかりにくいので、訳者の安田均氏がイントロ部分で、解き方の解説をしているほどで、それがないと何をすればよいのかいまいちわからないまま、解答のない世界をさまよい続けることとなります。
宝箱の隠され方もかなり抽象的で、解釈によっては幾通りもの解答が考えられ(しかもフェイクも入っている)、正式な解答が明かされていないため、現在でもネット上で謎解きがされてるような感じになってます。正式な解答を示さず、はっきりとした遊び方も明示されてないというのは、読者に遊び方を委ねているというようにもとれます(安田氏も野暮を承知の上と断った上で、遊び方のヒントを出しています)。実際のところあまり謎解き中心には考えず、ファンタジー世界をきままに楽しむという方が、ほんとうの遊び方なのかも知れません。
宝物のひとつ王冠。
黄金の聖杯。
タイタンの旗印。どこかで見たことがある?
スティーブジャクソンの『魔術師タンタロン12の難題』の方は、ロープにつながれたとらわれの囚人を助け出せるのはレバーの右か左か・・・というような感じのパズルブックになっています。こちらはゲームブックブーム最中の1987年に先に出版されており、知名度だけではなくゲーム性としても、こちらが上のようです。魂の宝箱と12の呪文の方は、ゲーム性としては幾分淡白な感じです。火吹き山の魔法使いで迷路を挿入したり、バルサスの要塞やソーサリーなどで魔法を導入するなど、新しいルール作りやパズルのようなゲーム性を得意としたジャクソンと、物語や世界観を重視したリビングストンの作風の違いが、ここでも現れているように思います。
高難易度で解答も含まれてないなど、クールで読者を突き放したかのような作りが、あの頃のPCのPRGなどをおもわせます。同時にそれが神秘性を生んでいるような気もします。また日本製のものだと、このような味わい深いイラストや奥深いファンタジー性もなかなか難しいかなと思います。
参考:Wiki ファイティングファンタジーの項、タイタン放浪記