5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

迷子の警察音楽隊

2011-05-14 22:55:22 | 映画・テレビ
このところ、毎週1枚づつ、ワンコインでDVDのレンタルを続けている。

今週は、2007年のイスラエル映画、『迷子の警察音楽隊』(英題:The Band's Visit)。東京国際映画祭(第20回)の最優秀作品賞、ヨーロッパ映画賞(第20回)の主演男優賞(サッソン・ガーベイ)などを受賞した佳作だ。

イスラエルにやってきたエジプト人8人のアレクサンドリア警察儀礼音楽隊。ペタク・チクヴァのアラブ文化センターに招かれた音楽隊だが、ヘブライ語を聞き間違えてしまい、砂漠の田舎町に連れて来られる。ディナという飲み屋の女将やその仲間のユダヤ人に誘われて過ごす音楽隊員たちの一夜のエピソードが続き、朝が来れば、静かに本来の目的地を目指して出発するという、ロードムービー。抑えた表現に終始するが、これがまた自然でなかなか良い。

監督は1973年生まれのエラン・コリリン。彼のメッセージが英語の公式HPに載っている。

『1980年代、私が子供の頃は、毎週金曜日の午後になると、イスラエル唯一のチャンネルでTV放映されるエジプト映画を見るのが家族のたのしみだった。オマー・シャリフ、パテン・ハママ、レル・イマムなどが演ずる主人公たちの恋の痛み、旋回するストーリーなどに息を呑んでTV画面を見つめたものだ。

建国されて以来、半分はエジプトと戦争状態にあり、のこる半分は冷戦状態にあったイスラエルの家庭でのことなのだから、考えればまるでおかしなことである。

映画のあとには、全員がイラクやエジプトといったアラブ世界から来たユダヤ人の演奏家というイスラエル放送協会(IBA)楽団の伝統音楽プログラムが続いて、敵国の映画を見る後ろめたさを少し軽減させることになる仕掛けであった。

こうしたアラブ映画がイスラエルから消えて久しい。民間に開放されたTVは、今では57チャンネルが見られる。IBA楽団は無くなり、POPソングや30秒CMが溢れる。MTVやBBCが茶の間に侵入するのだから、古臭い伝統音楽など誰も見向きもしない。

新しい空港を作ったがアラビア語を併記するのは忘れてしまった。美麗な店舗にも人口の半数ちかい人々の母語が入り込む余地はない。

「なぜ平和にならないのか」と問う映画は少なからずあったが、「そもなぜ平和が必要なのか」と問う映画はほとんど無かったのではなかろうか。社会の経済性を声高に語れば語るほど、この問いの意味は希薄化する。

日が暮れれば、若年世代はマクドナルドの巨大サインの下に集まる。彼らにとっては心の慰めなのだろう。確かなのは、イスラエルはその経済発展の途中でなにかを失くしたらしいということ。それは、「一夜だけの純愛」、「商売の技」、「人と人とのつながり」そして「両手が掴めるパイの大きさについて語れる会話の魔法」である。』

イスラエルはユダヤ人ばかりの国家だとおもったのだが、このコメントからすればノン・ジューのアラブ系イスラエル人がそれこそ沢山いるというのがわかる。中には国を負われたパレスチナ系もいるのだろうから、ことは複雑にならざるを得ない。

ムバラクの退陣後、イスラエルやアメリカとのスタンスの取り方に変化を見せ始めたエジプトのことがマスコミの報道におおく現れるようになってきている。遠くて近いエジプトとイスラエル、『迷子の警察音楽隊』の様に、国境を越えた「心温まるエピソード」が再び映画化できるチャンスは今後もあるのだろうか。





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