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七月の本棚 3 『封神演義』 孔子さまの陰謀編

2005-07-24 13:51:00 | 日々の出来事
『封神演義』の三回目です♪

中国の歴史的事件、「商周革命」を下敷きに、仙人や英雄たちが活躍する物語『封神演義』。

『西遊記』や『三国志演義』と肩を並べて、「中国三大怪奇小説」とまで言われるこの小説が、なぜに日本では紹介されてこなかったのか?

今回は、本書の―まえがき―に書かれている、そこのところの事情を説明しましょう。
そこには、アノ、『論語』で有名な孔子さまの隠された陰謀があると言うのです☆

中国の民衆の間では、古くから講談や演劇で多くの物語、歴史的事件が取り上げられてきました。
この『封神演義』もまた、「商周演義」「封神榜」(榜とはここでは名簿のこと)などと呼ばれ、古来民衆に広く親しまれて来たのです。

日本でいうと、「義経」とか「忠臣蔵」みたいなものですね。

確かに歴史的な事実には違いないのですが、時代が進むにつれ、演じられる舞台での脚本は書き直され、派手な演出と観衆の要望がどんどん加えられていき、しだいにドラマとしての色合いが強くなっていきました。
こうして物語色の強い「歴史物語」が誕生していったわけですが、これは逆にいうと、それだけ人気があったということでしょう*(星)**(キラキラ)*

日本でも「義経」は北海道に逃げて中国に渡り、チンギス=ハーンになったとか、いろいろな説が流れたりしていますね。
それを証拠付ける神社や祠が、北海道の各地にあったりもして*(音符)*

『封神演義』でも、主人公、太公望をはじめ、崑崙山の仙人や道士たちが、現実の世界でも廟(びょう)の中に祀られ、民衆の守護神になっていたりします。
「太子爺公」の名で知られる廟の主人は、この物語で活躍する人造人間の「ナタク」のことです♪

さらに中国の占星術「紫微斗数」(しびとすう)も、実はこの物語に由来しているんだそうです。

同じような現象として、「三国志」の英雄関羽も、中国各地でお金儲けの神様として祀られていますね☆

これほど社会に根付き、民衆の間に浸透している物語が、なぜいままで日本で紹介されてこなかったのか?

訳者の安能務さんは、「それは孔子さまとその弟子による文化マフィアの陰謀だ!」と主張してらっしゃいます(笑)

早くから中国の支配者層に支持され、政府の認める正統派として長く君臨してきた儒教。

その創設者、孔子さまが「理想の国家」として目指したのが、この『封神演義』で太公望たちが助ける、「周王朝」なのです。

なかでも「聖人君主」として孔子さまが夢にまで見て教えを乞うたのが、文王の子で、すなわち武王の弟である、「周公(周公旦)」でした。(もちろん『封神演義』にも登場します☆)

ところが、『封神演義』の主人公は太公望です。
しかも、太公望は、「口舌を弄して民を惑わすは、無用の民なり」といって、周公がかばう賢人を切り捨ててしまいます。

さらに孔子さまの機嫌を損ねたことに、儒教なんて都合のいいところ(親に孝行しなさいよ)だけは利用していても、本音ではまだまだ道教の教えの強い民衆が、神仙思想と道教的感覚で『封神演義』をどんどん脚色している。

孔子さまにとって「理想の国家」の成り立ちを語る物語が、仙人だとか宝貝(秘密兵器)の出てくるわけのわからん「歴史的物語」になっていることが気にくわない。

こうして、ここに儒教一派による、徹底的な太公望隠し、『封神演義』抹殺が行われることになるのです*(びっくり2)*

まずは、すでに記録されてしまっている「史記」を除くすべての文章から太公望の名前が消され、歴史に太公望の功績を語る者はいなくなります。

『封神演義』にも、出版元にゴリ押しし、「これは荒唐無稽なくだらない小説です」という奇妙な「序文」をくっつけさせる。

さらにあらゆる辞書から『封神演義』の名前は締め出され、「三大怪奇小説」の座からも追放されてしまうのです*(汗)*

「辞書は時に特定の学派の宣伝の場と化す」

と英国の歴史哲学者は言ったそうですが、現在でもTVや新聞などでその兆候は見られますね。(特に野球の解説や自社の起こした不祥事の記事などで)

こうして、あらゆるメディアから締め出され、「くだらない小説」の烙印を押された『封神演義』は、中国が純真な儒教国家だと信じて疑わない、まっ正直な外国の人々の興味の対象からはずされてしまいます。

なにもそんな「くだらない」ものをわざわざ翻訳して自国に紹介しなくてもいいだろう、ということなってしまったのです。

これが安能務さんの唱える「文化マフィア」説*(音符)*

なかなか面白い主張でしょ?

ところが『封神演義』は生き残ります!
「政府の公式見解」なんてものをはなっから信じない中国の民衆は、(だって自分たちに都合よく改ざんするに決まっているから)相変わらず物語を楽しみ、えらい王さまが太公望に頭を下げ、貴族や役人たちがやっつけられる場面に喝采を送るのです。

こうして、外国では知られていない隠された民衆の傑作として、『封神演義』は語り継がれてきました。

その主張はともかく(笑)
こうして日本に紹介して下さった安能務さんには感謝です☆

だってほんとに面白いんだもの*(音符)*

「飛刀」「降魔杵」「番天印」といった宝貝(パオペイ)がミサイルのように飛び交い。
「落宝金銭」がパトリオットミサイルのようにそれを打ち落とす!
「照妖鑑」がX線透視器なら、「陰陽鏡」は殺人光線照射器。
「万里起雲烟」がロケット弾で、「吸魂烟」は神経ガス。
「火風輪」がジェット推進器なら、「黄巾力士」は万能ロボット!

とても昔々に考えられた物語だとは思えないこの着想と想像力*(びっくり2)*

しかもしっかり歴史的大河ドラマも忘れちゃいません*(ハート3つ)*

―歴史とは現実に何が起こったかではない。何が起きたか、と人々が信じることだ―

中国の歴史的「事実」を下敷きに、あらゆゆ要素と想像力を駆使した抱腹絶倒、空前絶後の娯楽教養小説!

お子さんには刺激が強すぎるので、ぜひ大人になってからお読み下さい。

ながながと書いてしまってすみません。
それでもこの小説大好きなので♪

もし、本屋の片隅で見かけたら、ぜひ手にとってご覧下さい。
あなたの想像力に挑戦する、新たな世界が目の前に広がりますよ☆







安能 務  訳
講談社文庫







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