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本好き人の365日

五月の本棚 『りかさん』

2006-05-18 23:53:00 | 本と日常
生きていると、いろんなことがあって、悲しいこと、嬉しいこと、とても信じられないようなことにも直面しなくちゃならなくて、苦しくて、辛いことばかりだけれど、ちゃんとそれを受け止めて、自分の心の湖の深いところにそっと沈めて、生きていくこともできるんだと、この小説を読んで思いました。

今回は、梨木香歩さんの『りかさん』のご紹介です☆

この小説にはいくつかの人形たちが登場します。

まずは、主人公、小学生のようこが、おばあちゃんからもらう「りかさん」♪

本当は「リカちゃん人形」が欲しかったのに、この「りかさん」は黒髪の市松人形。

悲しい気持でベットに入ったようこを見つめて、「りかさん」は思います。

―ようこちゃん、つらいね。

「人形の本当の使命は生きている人間の、強すぎる気持をとんとんと整理してあげること…」

そう、この「りかさん」は立派な登場人物。
ようことおばあちゃんにしかその声は聞こえないみたいだけれど、しだいに様々なことをようこに教えてくれるようになります☆

自分ちの雛人形たちがすごくもめている…

「りかさん」と一緒に過ごすうちに、他の人形の声も聞こえるようになってきたようこ。

女雛は隣の男雛そっちのけで、「うるわしの、せのきみ」と言ってはネズミにかじられ取り替えられた昔の男雛をなつかしみ、三人官女も五人囃子(ばやし)もそれぞれに怒鳴りあっている。

その他にも、フランス生まれのビスクドール。
アメリカから親善大使としてやって来たブロンドの髪をした人形アビゲイル。

人形には昔の持ち主たちの思いや、様々な過去が蔦のようにしばりついていて、ようこと「りかさん」に訴えてきます。

「気持は、あんまり激しいと、濁(にご)って行く…」

「りかさん」は、特別な力があるわけでもなく、(ある意味特別だけど☆)ただ人形たちの声を聞いてあげて、その思いを受け止めてあげるだけ。

放っておく時もあるし、どこかに流れつくまでそっとしておく時もある。

その物事の捉え方には、どこか現実の人間関係に通じるものがあって、こういう考え方って素敵だなぁ~と思ってしまいました♪

梨木果歩さんの作品を読むと、いつも思うのですが、普通私たちが負の感情だと思ってしまいがちな、怒り、妬み、憎しみといった感情さえも、登場人物は自分の一部としてきちんと受け止めている。

確かにその瞬間は、泥のように濁ったものが感情を揺さぶるけれど、その体験により深みを増すというか、しだいに心の底に落ち着いて、自分の中に受け入れていく様子は、波がおさまり、澄んだ水が戻っていくみたい☆

人間って、嬉しいことも悲しいこともちゃんと受け止めて生きていけるんだ、それはとっても自然なことなんだ。

この小説の中には、残酷なシーンもあります。
太平洋戦争。
日米親善のために贈られて来た人形たちのたどった運命…

時に厳しく、辛いことにも目を背けない。

そうでありながら、最後には温かい気持にさせてくれる。
だから彼女の作品は好きです☆

この本には、成長したようこと、その後の「りかさん」の物語、『からくりからくさ』のさらに後日談になる、『ミケルの庭』も併録されています。

オススメとしては、『りかさん』『からくりからくさ』『ミケルの庭』と読むのがわかり易いと思いますけど、どの物語から読んでも、きっと楽しめると思います♪

幼い日、人形に話しかけた経験はありませんか?

そんなあなたに、この物語を読んでもらいたいです☆





梨木 果歩  著
新潮文庫




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