私的図書館

本好き人の365日

八月の本棚 2 『夏休み』

2006-08-21 21:22:00 | 本と日常
今回は中村航さんの作品を紹介します☆

タイトルは*(キラキラ)*『夏休み』*(キラキラ)*
2003年の作品です。

アン・M・リンドバーグは、その著書『海からの贈物』で、「人間は一人で過ごす時間を持たなければならない」と書きました(特に女性は)。

今では、一人でいることは何かいけないことのように言われているが、それは自分の内面の本質を見出す作業であり、自分の中の中心となるものを確かめる行為なのだ、と。

私もそれにはすごく賛成!

自分一人になってみて、初めて相手の大切さに気付く時ってありますよね?

その相手が恋人でも、友達でも、妻や夫でも、子供や親でもかまいません。
もしかしたら、自分の趣味だとか、仕事だとか、お茶の入れ方なのかも知れない。

そういう自分にとって大切なものを、普段の生活の中で忙しさに紛れ込んでしまって気付かないでいるものを、じっくりと自分の中で見つけ出す時間。

この本は、なんだかそんな時に読むのにピッタリな感じがします♪

登場人物は、工業製品のマニュアル作りを主な仕事にしているマモルと、その結婚相手で特許事務所に勤めるユキ。

そしてユキの友人である舞子さんとその結婚相手である吉田くん。

ある日突然、一枚の書き置きを残して吉田くんが家出してしまったため、相談した三人はこう決めます。

「家出には家出。質問には質問。花束には花束よ」

え~~~!?

集まったところがビアホールだったのがいけなかったのか、家出には家出で対抗するといいだす女性陣。

いろいろあって女性二人は箱根の温泉街に家出してしまい、これまたいろいろあって後を追うことになったマモルと吉田くん。

とにかく謝るしかないと吉田くんに諭すマモルに、スルリスルリとかわすユキと舞子の二人が面白い♪

なんだかすっかり度胸の据わった女性陣に比べ、結婚相手の友人の彼氏同士という微妙な関係の男性陣。

箱根までのドライブ中かける曲に対するかだわり。

カメラを分解するのが趣味だという吉田くんのカメラ分解講座。

同居しているユキの「ママ」が入れてくれる美味しいお茶の入れ方や、正しいスリッパの選び方など。

生活の中に見え隠れするそれぞれの人生に対する生き方が、作品に涼しい風が吹き込むような清涼感を与えていて、読んでいて楽しい楽しい♪

特にユキの性格が良くって(面白いという意味で☆)、マモルと付き合っている時に別の人からプロポーズされた時の話なんて、思わずニンマリしてしまいます☆

もうマモルと一緒に暮らしているのに、プロポーズされたこともニュースとしてマモルに報告しているのに、二人の意思はホントはもう決まっているのに、「でもその人とのことは、ちゃんと考えてみる」と言って実家に帰るユキ。
悩んでいるわけじゃなくて、”ちゃんと考える”ということのために。

そして「ママ」に訊くのです。

「どっちの人がいいと思う?」

女性陣が突きつける、吉田くんへの果たし状!

勝負の方法はTVゲーム?

炎の玉を吐く恐竜に、逃げ回るピンクのお姫様!
赤い帽子の少年に連続攻撃を決めるヒゲ面の太った男!!

小説の中でこんなにもゲームの描写が面白いとは思いませんでした*(びっくり2)*

しかも、やってる大人は大真面目なんですから☆

同居する義理の息子に「最強の動物はなんだと思いますか?」と質問されて(なんて質問!)、「最強…最強…」とこれまた真剣に考えるママも可笑しい(^^)

登場人物やストーリーだけじゃなくて、会話や文章もすごく魅力的です♪

吉田くんの家出の真相は?

離婚をかけた果し合いの勝負の結果は?

恋愛小説とも違う、感動にふるえる作品でもない、サスペンスでも、人情ものでもない。

でも読み終わった後、いいもの読んだなぁ~と思える小説♪

結婚や人間関係、一人一人の人間をとっても肯定的にとらえることの出来る物語です☆

夏休みの最後に、ちょっと素敵な物語を楽しんでみませんか?











中村 航  著
河出文庫