私的図書館

本好き人の365日

十一月の本棚 2

2003-11-29 01:06:00 | 日々の出来事
シンデレラと三国志、金瓶梅にラスト・エンペラーを足したらどうなるか?

今回は、そんなムチャクチャな紹介のされ方を、抜群の面白さで見事に体現した作品。

第一回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。

酒見賢一の『後宮小説』をご紹介します☆

「後宮」とは、時の皇帝の后達が住む宮殿のこと。そこでは、女官なども入れれば、少なくとも数百人単位の女性達が暮らしている、まさに女の園。
彼女達の目的はただ一つ、誰よりも皇帝の寵愛をその身に受けること。

…この小説の紹介は非常にやりにくいです(笑)

だって、書き出しからしてこうですもん。

「腹上死であった、と記載されている。」(笑)

中国の架空の王朝を舞台に繰り広げられる一大奇想小説。
全体に流れるユーモアと、作者独特の人間賛歌が、時に残酷で、情け容赦のない運命を、実に巧みに、変に救済することもなく取りいれているところが魅力的です。



主人公の十四才の少女「銀河」は、”三食昼寝付き”に引かれて宮廷の”宮女狩り”に応募します。
宮女とは、皇帝のお妃候補のこと。
新しい皇帝が即位すると、国中の美人、才女はもちろん、皇帝の趣味に合いそうな女性なら、童女といわず、人妻といわず、かき集められるのですが、銀河もその一人。

長い道中を経て、都にやってきた銀河は、後宮に入るために、他の候補生達と共に、研修を積まなければなりません。

見ると聞くとでは大違い。
物見遊山気分の銀河は、後宮のしきたりや、身分の違う人々に驚っきぱなし。
宮女の意味も知らずにやって来た銀河にとっては、後宮教育の場となる学校での授業内容にもおおあわて。

後宮での礼儀作法や、基礎学問、そして後宮の存在意義でもある房中術の伝授。
房中術とは男女の営みのこと。
これが只者ではないんです。
書くは、書くは。これだけ、どうどうと書かれると、変にいやらしく感じないのだから不思議。

大学では、中国哲学を専攻していたという作者。
「後宮ニ哲学アリ」
なんていって、遊ぶこと遊ぶこと。その筆の縦横無人さぶりには、面白いやら、関心するやら、とにかく、いかにもそれらしく聞こえるのだから可笑しくって♪

どうかすると、陰のイメージで見られがちな性の話題を、これほど正面から笑い飛ばした小説も珍しい。

真理はどこから生まれてくるかという問いに、銀河達の先生、角先生は答えます。

「それは子宮さ」

女の腹からすべての真理は生まれるのだ。それが、答えだ。

作者がどこまで本気でそう考えているのか、ウソとわかっていても引き込まれてしまうこの魅力。
この小説がファンタジー小説というところの本質は、まさにここにあると思います。

さらに贅沢なことに、反乱軍が都に攻めて来て、後宮を守るために、銀河達が戦うシーンまで用意されているのだから、にくい!

はたして銀河は皇帝陛下と(無事)結ばれることができるのか?

反乱軍に包囲された後宮の運命は?

とぼけた語りが全体を明るくいろどり、気持ち良く、こちらを騙してくれますよ(笑)

酒見賢一さんはこの他でも、中国を舞台にした小説を書かれていて、そちらもお薦めです。
でも、まずはこの小説から。

紹介文に偽りナシの面白さ!
アニメ化もされているので、よろしければ、そちらの方でもお楽しみ下さい♪



酒見 賢一  著
新潮社