goo

塵摘問答 26 市、琵琶、文字

(大代河原草原のススキ)

大代川に溜った土砂が草原化して、ススキが穂を出した。ススキの季節感を写したのだが、草原化した河原はやがて天井川に変じてしまうのではないかと心配である。かつては定期的に川浚いの予算がついて、土砂を取り除いてくれたが、昨今ではそれも望めないのであろうか。

朝一番で、地区のお宮の掃除。ほぼ年一回の奉仕。

塵摘問答の解読を続けよう。

(市)
一 男問いて云わく、市は誰人の所立てにて候や。

老僧答えて云わく、それ市は震旦の都を真似んたるが、四方の門より貢ぎ物を運び、その前、上下の出入、数を知らず満ち/\たり。夜昼、普段、かくの如く有るなり。

日本には、人王四十五代の御門、聖武天皇の御時、天平しょうれき七年に、南都の玄僧正の、震旦の都をかたどりて、三輪の市を始められてよりこの方、市は所々に候。こゝをもつて回文を使わねども、面々の里のために市に出で候なり。
※ 天平しょうれき七年 - 天平七年(735)。「しょうれき」の意味不明。
※ 玄(げんぼう)- 奈良時代の法相宗の僧。大和の阿刀氏出身。716年入唐、735年帰朝。皇太夫人藤原宮子の病を快癒させ栄進、権勢をふるったことで藤原広嗣の乱の因となった。のち筑紫観世音寺に左遷。
※ 回文(かいぶん)- 複数の人に順に回して知らせるようにした手紙や通知。回状。まわしぶみ。


(琵琶)
一 男問いて云わく、琵琶は誰人の始め給い候や。

老僧答えて云わく、それ琵琶は天竺の阿須倫王の代の、キンと云う者が創りたるなり。姿は大日如来汎地をかたどるなり。また天竺、震旦、我が朝を映すなり。
※ 阿須倫王(あしゅりんおう)- 阿修羅王のこと。インド神話で、不思議な力を備えていた神々の称。仏教では、仏法を守護する天竜八部衆の一。
※ 汎地(はんち)- 広く行き渡った地。


日本に渡ることは人王六十代の御門、延喜の王の御時、広まりて候。詳しくは琵琶の音儀に見えたり。
※ 延喜の王 - 第六十代醍醐天皇。「延喜帝」と呼ばれる。


(文字)
一 男問いて云わく、文字は誰人の始め給い候や。

老僧答えて云わく、文字は梵天王の四十八字を口に唱えて、この娑婆世界に広め給う。また八万四千の文字(もんじ)大聖文殊の所立てにて候。また紙は震旦の蔡倫が作る。硯は子路という者が作り候。墨はくんきゅうが作るなり。筆はもうてんが作るなり。
※ 梵天王(ぼんてんおう)- 色界の初禅天の王。本来はバラモン教で根本原理を人格化した最高神であったが、仏教に取り入れられて正法護持の神とされる。
※ 大聖文殊(だいしょうもんじゅ)- 文殊菩薩の正式名は「大聖文殊師利菩薩」という。
※ 蔡倫(さいりん)- 中国、後漢の宦官。桂陽(湖南省)の人。字(あざな)は敬仲。樹皮や布くずなどから初めて紙を作り、105年、和帝に献上したという。その紙は蔡侯紙とよばれた。
※ 子路(しろ)- 中国春秋時代、魯の学者。孔門十哲の一人。姓は仲、名は由、子路は字(あざな)。勇を好み、孔子に献身的に師事した。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )