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松木新左衛門始末聞書1 商売、住宅構え

(松木新左衛門始末聞書、本文)

「遠州濱松軍記」を読み終えて、次に何を読もうかと考えた。浜松を中心にした武張った軍記の後だから、今度は駿府の商家の話が良いだろうと思い、「松木新左衛門始末聞書」という文書を選んだ。

この聞書は駿河古文書会が原典シリーズ第二輯として復刻刊行されたもので、県立図書館に所蔵されているものを借りてきた。解読文が付いていないけれども、比較的読みやすいから、問題なく読めると思う。

さて、松木家は戦国時代に甲州から駿府へ移住して来て、商売の基礎を築いていった、駿府における商家の名門である。第五代新左衛門宗周に至って、絹布、木綿、米穀、材木、醤油の醸造まで行った。元禄十年、江戸寛永寺の造営工事を紀伊国屋文左衛門と共同で請負い、巨利を収めたといわれる。

この聞書はその第五代新左衛門宗周からの聞き書きのようである。往時の商売の様子、商家の暮らしぶりなど、知れるのではと思い、興味津々である。さっそく、解読を始めよう。

     商売の事
一 駿府両替町壱丁目に松木新左衛門とて、往古より絹布、晒、麻等の問屋をして、東西の商人来たりて、ここにて取り捌いて帰りしよし。冨祐の商人にて有りしなり。

※ 冨祐(ふゆう)- 富裕。財産が多くあって、生活が豊かなこと。

     住宅構えの事
一 居宅は両替町壱丁目、惣小間数は百拾間、但し折り廻しなり。北側西の角にて、間口弐拾九間半、これ住宅なり。外に扣家、同側東角に七間半、同側の北に呉服町の境より屋敷五間、ここは裏門なり。隠居屋として南側の東の角に拾壱間半、同所の南に上石町の境より屋敷四間半、これに隠居の裏門有り。間口合わせて五拾八間半。

※ 折り廻し - 道、建物などがかぎの手に折れ曲がっていること。
※ 扣家(ひかえや)- 控家。ふだん住んでいる家のほかに、必要に備えて用意してある家。



(破風と狐格子/島田市天徳寺)

丁役は十一軒役なり。内弐軒は手前丁頭を勤むるゆえ、丁役を除く。小棟作の杮屋根破風狐格子あり。二階は腕木の持出しにて、切日縁に高欄付きで、格子戸を立て、惣窓子は漆喰の塗り込め土蔵三棟、四間梁に弐拾五間ずつ。
※ 丁(町)役(ちょうやく)- 江戸時代、大坂の町人に賦課された町内の費用。
※ 丁(町)頭(まちがしら)- 町年寄・名主などの町役人の総称。
※ 杮屋根(こけらやね)- 木材の薄板を用いて葺いた屋根。文化財建築に多く見られる。
※ 破風(はふ)- 切妻造や入母屋造の屋根の両端の三角部分。
※ 狐格子(きつねごうし)- 入母屋破風の妻のところに格子を入れ、内側に板を張ったもの。妻飾りの一種。
※ 腕木(うでき)- 垂木・庇などを支えるために、柱または梁などから横に突き出させた横木。
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