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富士山の永久凍土と黒いコケ

(自宅から見た今夜の名月)

女房が今夜が中秋の名月だというので、夜、外へ出て写真を撮ってきた。どういうレンズのいたずらか、月光から虹色の帯光が写りこんでいる。あとでネットで見ると中秋の名月は昨夜であった。だから、今夜の名月は「十六夜(いざよい)の月」である。十六夜と書いて「いざよい」と読む。「いざよう」は「躊躇(ちゅうちょ)する、ためらう」の意味で、「いざよいの月」とは「出ることをためらい、遅れて出てくる月」という意味である。いかにも月をめで、月の出を待つ風流な日本人的な命名である。この後、たちまち(十七夜)、いまち(十八夜)、ねまち(十九夜)、ふけまち(二十夜)と命名されていく。意味は説明するまでも無いだろう。
(5日の朝のカーラジオで「おとといが中秋の名月、昨夜が満月」だと言っていた。どういうこと?)

話変って、昨日の講演の続きである。

富士山の山頂に永久凍土があるということを最初に発見したのは、「芙蓉の人」(新田次郎の小説)のモデル、野中到氏であった。富士山に測候所設置を主張し、自ら単独で富士山頂に滞在し気象観測を強行したとき、小屋を建てるにあたって、「コンクリートのように固い土」にツルハシも利かずに苦労をしたという話が残っている。それが永久凍土であった。気象庁関係者の間では「夏の地下の氷」と呼ばれていた。

富士山の永久凍土が本格的に調査されたのは、1975年、名古屋大学の藤井理行氏らのグループによる。翌年富士山頂付近に永久凍土があることが内外に発表された。シベリアやアラスカでは多く見られたが、日本には永久凍土は存在しないと言うのがそれまでの常識であった。現在では富士山以外に、大雪山、北アルプスの一部にも存在することが判っている。

永久凍土とは「少なくとも連続した2回の冬と、その間の1回の夏を合わせた期間より長期にわたって、0℃以下の凍結状態を保持する土壌または岩石のこと」をいう。

1990年夏、南極で越冬を終えた若手研究者が富士山頂の剣ヶ峰で南極大陸で見られるコケとよく似たヤノウエノアカゴケを発見した。


(黒色化したヤノウエノアカゴケ)

地球上に普通に見られるコケであるが、南極のような極寒の地で、しかも地中から窒素分を吸収できない不毛の地では、単独では生育できず、ほとんどの場合はノストック属のラン藻類と共存している。コケの中で守られてラン藻類が増殖し、ラン藻類は空気中の窒素を固定化して、その窒素をいただいてコケが育つ。しかし、ラン藻類がコケの表面を覆うと黒色に変化して、光合成や呼吸が出来なくなってコケも枯死してしまう。しかし、新しい若いコケが枯死したコケから養分をもらい廻りに育っていく。このような共存が繰り返されて、極寒の地にコケがカーペット状に勢力を広げていく。

このヤノウエノアカゴケの部分的に黒色化したものを、富士山頂に見つけたのである。現在に至るまで、南極以外に黒色化したヤノウエノアカゴケが発見されたのは富士山頂だけである。ところが、近年、温暖化のためであろうか、富士山頂でこのコケは見られなくなってしまった。
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