頭部共鳴の話

2013年06月19日 | 日記
人体の中で「声の共鳴箱」の役割をしているのは副鼻腔です。副鼻腔とは上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞の4つの総称で、この中で一番大きいのは蝶形骨洞です。
蝶形骨洞は目と鼻の後ろ側を占める大きな蝶々の形の空洞で、頭部共鳴とは端的に言えば「呼気を高速で垂直に吹き上げて蝶形骨洞に送り込むこと」です。つまり、声楽発声に関しては、呼気はいついかなる時も真上へ飛ばさなくてはいけません。
しかるに篩骨共鳴とは何か。篩骨は蝶形骨の前に位置する小さな骨で、蜂の巣状なので重さは3gぐらいしかないそうです。この蜂の巣状というところがミソで、だからよく響くわけですね。「マスケラに響かせる」という言い方がありますが、それは篩骨に響かせることを意味していると思われます。
ところで、声は緊張しているところに集まる性質を持っているそうです。日本人は(ほとんど無意識ですが)下あごが緊張しているので、下あごに声が集まります。しかし下あごに集まった声はあまり響かないのです。そこで、下あごの緊張を解き、目をカッと見開くような感じで篩骨のあたりを緊張させます。難しければ、指で目頭をつまんで前へ引っ張って緊張を作るとわかりやすいでしょう。そうしておいて息を垂直に蝶形骨洞に向けて飛ばします。そうすると、蝶形骨に接する9つの骨のうち前方の篩骨に声が集まってきます。
篩骨が十分に共鳴すると声に芯ができ、前方によく飛びます。曲のクライマックスで篩骨共鳴を使うと効果的なので、発声の中でこの共鳴を会得してもらおうとして「両目の間を緊張させて響きを集めて下さい」という言い方をしていたのですが、どうもこれは誤解を生みやすい表現だったようで、息を直接篩骨に当てようとして呼気が前へ流れてしまい、噎せたり喉声になったりする方が続出してしまいました。そうではなく、両目の間に緊張を作っておいて、呼気はあくまでも真上へ飛ばすのです。呼気は真上へ抜くが声は篩骨に当てる。そうすると明るく張りのある篩骨共鳴が得られます。今日レッスンに来られたIさんは、私の説明が不十分だったため、篩骨に響かせることは「息は真上へ」ということと矛盾するのではないかと思っていらしたそうですが、その誤解が解消したとたん、軽やかで且つ密度の高い、とても美しい響きになりました。
「声は前へ前へ響かせなさい」という指導をされる先生が多いそうですが、それはおそらくこの篩骨共鳴のことをおっしゃっているのでしょう。しかし、うっかりすると「呼気は常に上へ」という大原則を見失って喉声になってしまいます。間違って受け取られないよう、教える側も説明する時にはよく気をつけないといけませんね。

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