天使の歌声

2014年01月26日 | 日記
昨日、私がかつて在籍した熊大博士課程の今年度修了予定者による公開発表会があったので、隣県から5年に亘って研究のため熊本に通われたIさんの発表を聴きに行きました。少年合唱の指導者であるIさんは「ドイツ音楽史における少年合唱の意義と役割」という題目で発表をされ、大変興味深く聴かせて頂きました。
日本での少年合唱ブームは、「天使の歌声」と評されたウィーン少年合唱団の初来日時に巻き起こった「ウィーン・ショック」がその嚆矢であったとのこと。我が師匠W先生の師であったグロスマン教授もウィーン少年合唱団の発声指導者で、発声の神様と呼ばれた方だったそうです。
発表の内容とは別に、「天使の歌声」の発声、つまり少年たちの裏声発声が当時の日本人に与えたカルチャーショックはいかばかりだったか、という思いが去来しました。かつて日本の音大に招聘されたヨーロッパ人声楽家たちが日本の伝統音楽に接し、口を揃えてその発声を「terrible」と評した、というのは語り草になっていますが、裏声発声の伝統を持たない日本人は喉を振り絞るようにして高音域を出すのが常で、それをドイツ人教師たちは「Knoedelstimme」(団子声=喉に団子が詰まったような声)と名付けて嫌った、という話を音大時代によく聞かされたものです。
私は小学生の頃、歌う時に「軽く」歌えばラクで「一生懸命」歌えば苦しい、という法則を発見し、家で一人ひそかに歌う時は「軽く」、学校でちゃんと歌わないといけない時は「一生懸命」歌う、という使い分けをしていました。或る時学校の休み時間にうっかり「軽く」歌っていたら友達から「りかちゃん、歌うまーい!」と感心され、それを聞きつけた先生が「もう一度歌ってごらん」とおっしゃったので、これはマズイと思って「一生懸命」歌い直し(笑)、先生が「なーんだ」と期待はずれの顔をされて去って行かれたことがありました(爆)。
今思えば、「軽く」歌うというのは喉の力を抜いて声帯の縁だけを振動させる、いわゆる裏声発声だったわけですが、学校では「大きな声で元気よく歌いなさい」と言われていたので、喉に力を入れて歌わないといけないのだと思い込んでいたのです。
変声した後の男性の声楽発声は、声帯の使い方としては基本的に喋り声と同じ、つまり地声ですが、一点ホあたりから少し頭声を混ぜて芯のあるファルセットに切り替え、高音域に行くに従って頭声の割合を増していきます。女性の声楽発声は基本的にすべて頭声(裏声)で、音域的に響きにくい低音部で地声とのミックスにします。その変わり目をパッサージョ(転換点)と言いますが、ここをスムーズに切り替えるためにも呼気を垂直に強く上げ、全身の筋肉を協働させないといけません。
女性の歌声は基本的に全部頭声(裏声)。子どもの声は音域的に大人の女性と同じですから、子どもには「歌う時は裏声」という訓練を徹底させる必要があります。日本語の場合、喋り声と歌声は声の出し方が違うのだという基本認識が肝心ですね。

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2 コメント

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Unknown (s)
2014-01-26 23:30:13
子どもの声が、女性の声と同じ高さなら、確かに裏声にする必要を感じないでしょうね。先生がお書きになられているとおり、元気の良い声はちからをいれた声と思っているのは、子ども達の合唱を聴いていると良く分かります。
以前、録音した子ども達の合唱を聴いて、愕然としたことを思い出します。
小さい時から、裏声の練習って必要。実感です。
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Unknown (吉田)
2014-01-27 18:25:57
sさん、コメント有難うございます。
就学以前の子どもはまだ声帯が小さ過ぎて地声で出せる音域がすごく狭いので、がなりたてると救い難い喉声になります。子どもにこそ裏声発声が必要だと思いますね。
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