バランス

2013年05月03日 | 日記
発声というのは不思議なものです。「全身をバランスよく使って気持ちよく声を出す」というのは我が教室のHPのキャッチコピーですが、「バランスよく」というのは本当に難しいのです。正確には、一旦バランスが崩れると修正するのが難しい、というべきでしょうか。
レッスンをしていると時々、途中で急に声が出なくなるという現象が生じることがあります。発声はその時の体の状態次第で問題点が異なってくるので、今日は少し口の奥の開きが足りないな、とか、腰の筋肉がもう少し使えるといいな、とか、足の骨にあまり響いていないな、などと感じると、「もう少し口の奥を開けて下さい」、「もう少し腰を後ろに押し広げるようにして下さい」、「もう少し重心を落として下さい」などと言いながら誘導するのですが、その指示に気を取られ過ぎて他の様々な部位とのバランスが崩れると、パタッと声が出なくなったり、急に声がひっくり返ったりすることがあるのです。あれっ、と思って一生懸命になるとますますバランスが崩れ、どうにも修正できなくなります。
こういう時はとりあえず一旦休止します。頭に血が上っているので、少しクールダウン。神経が過敏になっていると筋肉が思うようにコントロールできないので、リラックスして呼吸を深くし、神経をなだめます。そして、声を出さないでやるエクササイズをします。口の中に手を突っ込んで軟口蓋をマッサージしたり、仰向けに寝て背筋を使う練習をしたり、マウスピースを吹いたり、ハンカチを使って上あごを上げたり。そうしてリセットしてから再チャレンジ。これで大体うまくいきますが、たまにどうしてもダメな時があります。そういう時は無理をせず、発音や滑舌など少し違うことをやって気分を変えてレッスンを終えます。すると不思議、大抵の場合、次に来られた時にはちゃんとリセットできています。
人間、何事もバランスが大事ですね。一生懸命になるとついバランスを崩してしまうのです。「いい加減」とか「適当」というのはネガティヴなイメージのつきまとう言葉ですが、言葉の本来の意味でいい加減かつ適当に練習することが、バランス感覚を失わないためにはとても大切です。忙しい時や疲れている時には練習をしない、という判断も必要です。心身のコントロールが難しい時に練習したりするのは百害あって一利なし。社会生活の中では自分のペースを守るのが難しいこともありますが、そんな時は何もしないのが声のケアにとって一番大事です。そして、そういう判断自体にバランス感覚が必要です。うちの生徒さんには意識の高い立派な方が多いのですが、こと発声に関してはその生真面目さが裏目に出てバランス失調症に陥ることも。かく言う私自身、もともと極端に走りやすい性格です。自戒を込めて「バランス」を座右の銘としたいと思います。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿