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のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

マルコの夢

2009年03月02日 21時58分31秒 | 読書歴
9.マルコの夢/栗田有起
■ストーリ
 パリ、日本。幻のマルコをめぐる奇妙な冒険譚。
 姉の依頼でフランスへ渡った一馬は三ツ星レストラン
 「ル・コント・ブルー」で働くことになる。オーナーからの依頼で、
 幻のマルコ買いつけのために日本に戻る一馬。
 はたして一馬はマルコにたどりつけるのか。

■感想 ☆☆*
 栗田作品特有の不思議な世界。
 「三ツ星レストラン」という現実世界に「マルコ」とか
 「巨大キノコ」とか「壊れた眼鏡しかかけない職人」とか
 「キノコの番人」といった奇妙な設定を見事にあてはめて
 独特の世界を作り出してくれる。

 栗田作品の登場人物に共通するのが、自分の仕事に対する誇りであり、
 仕事に対峙する姿勢の礼儀正しさだと思う。
 今回の作品でも、仕事に対する「職人」の想い、意気込み、決意が
 存分に語られていてすがすがしい。ただ、他の栗田作品に比べると、
 中編だからこその物足りなさを感じさせられた。

野球の国のアリス

2009年03月02日 21時57分41秒 | 読書歴
8.野球の国のアリス/北村薫
■ストーリ
 少年野球のチームでエースピッチャーとして活躍する小学生の女の子、
 アリスは、ある日大変だ、大変だと走っていく顔見知りの新聞記者
 宇佐木さんの後を追いかけたことから、「鏡の国」に迷い込んでしまう。
 そこではあらゆるものが左右対称で反対。野球の勝負も
 「勝ち抜き戦」ならぬ「負け抜き戦」、つまり負けたチームが
 進んでいき、最後に全国一弱いチームを決める、という催しが
 大人気だったのだ。「こんなのはおかしい!」と憤慨するアリスは、
 最弱チームに入り、試合に勝ってみせようとする。

■感想 ☆☆☆☆
 小中学生を対象としたジュブナイル小説らしいが、
 そういったことを意識することなく、楽しめた。
 「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」をモチーフに、
 次々と入り乱れる登場人物たちが繰り広げるファンタジー。
 「現実ではありえない」話をファンタジックに綴ってはいるが、
 その内容は「現実に起こっていること」だと感じた。
 誰もが「おかしい」と思っているのに、全体の流れに逆らえないまま、
 「制度」として認定されてしまうことがあること、とか、
 「制度」として認定されてしまうと、その制度を廃止するのには
 制定する以上に多大な労力を必要とすること、とか、
 それでもあきらめないこと、正々堂々と「おかしい」と
 表明することの重要さ、とか
 少しずつ発信する「おかしい」という声が世の中を変えることも
 あること、など、心に残る言葉がたくさん練りこまれている。

 ところどころに話し言葉も取り入れ、全体的に柔らかい雰囲気、
 読みやすさだった点のみ、「若者対象」を感じさせられるが、
 内容はいつもの北村さん節に満ちたものだった。

九月の恋と出会うまで/松尾由美

2009年02月22日 23時54分49秒 | 読書歴
7.九月の恋と出会うまで/松尾由美
■ストーリ
 旅行代理店に勤める北村志織、27歳。彼氏なし。
 気に入っていたアパートを趣味でやっている写真の現像の臭いが
 もとで追い出される。自称芸術家しか住むことができないアパートに
 引っ越せた志織は快適なアパート生活を楽しんでいた。
 しかし、ある日、壁にあいているエアコン用の穴から男性の声が
 聞こえてくる。「もしもし、そこにいますか?」
 一年後の未来から話しかけているという不思議な男の声は
 半信半疑の志織にお願いしたいことがあると言うのだった。
 奇妙な仕事を引き受けた志織は・・・。
 「男はみんな奇跡を起こしたいと思っている。
  好きになった女の人のために」少し奇妙なSFラブストーリー。
■感想 ☆☆☆
 松尾さんらしさ全開のラブストーリー。少し奇妙で、SF要素を
 盛り込んだ展開で王道のラブストーリーを繰り広げる。
 大筋は本当に王道のラブストーリーなのだが、SF要素のおかげで
 そこまで気恥しい気持ちにならずに読み終えることができた。

 中盤はシラノに関する謎にページが費やされる。
 1年後から語りかけてくるシラノとはだれなのか。
 奇妙な依頼をし続けるシラノの目的は何なのか。
 その謎は中盤で半分、解明される。シラノの奇妙な依頼の目的には
 すっきりとした解答が出る。そして、その解答が出た途端に
 主人公はシラノと連絡が取れなくなってしまう。

 そして終盤、シラノへの恋心を自覚したヒロインは、シラノの正体を
 調べ始める。はたしてヒロインはシラノと再会できるのか。
 声しか知らないシラノに恋をしていくヒロインの戸惑いがリアルで、
 健全で、非常に好感をもてた。
 恋になれていない、恋から遠ざかっていた女性が久々に恋に遭遇すると、
 こんな感じなんだろうな、と素直に思えた。

 最後は王道のハッピーエンドで満足。
 少しベタでそんなにひねりも驚きもないストーリ展開のため、
 この先、読み返すことはないだろうな、とも思うけれど、
 幸せ気分はもらえました。

モノレールねこ/加納朋子

2009年02月22日 02時13分43秒 | 読書歴
2008年読了
110.モノレールねこ/加納朋子
■ストーリ
 デブねこの赤い首輪にはさんだ手紙がつなぐ、ぼくとタカキの
 友情を描いた「モノレールねこ」。夫を待つ時間に取り組んだ
 白いパズルの中に、主人公が犬の気配を感じ始める「パズルの中の犬」。
 家族をいっぺんに失った中学生の私と、ダメ叔父さんの二人暮らしを
 暖かく綴る「マイ・フーリッシュ・アンクル」。
 死んだ婚約者が今もそばにいると信じているミノさんと偽装結婚を
 したヒロインを描く「シンデレラのお城」。
 ロクデナシのクソオヤジに苦しめられてきた俺が新しい家族を持つ
 「ポトスの樹」。会社で、学校で、悩みを抱えた家族の姿を見守る
 ザリガニの最期を追う「バルタン最期の日」。
 儚いけれど、揺るぎない「家族」という絆を描く8編。
■感想 ☆☆☆*
 どれもこれも加納さんらしい暖かくて優しい物語でした。
 大人のための童話のような雰囲気。
 どのお話の登場人物もかっこよさとは無縁。弱くて、甘えんぼで、
 ちょっぴり困ったさん。悪い人ではないけれど、不器用な人たちばかり。
 けれども、人として守らなければいけない一線をちゃんと知っているし、
 自分の幸せをちゃんと守れる。だから、要所要所できちんと
 自分と、自分にとって大切な人たちの幸せをつかみ取ることができる。
 話の筋は甘いかもしれないけれど、疲れているときは
 これぐらい甘いものがちょうどいい。そう思わせてくれるお話たち。
 8編の中では「シンデレラのお城」と「ポトスの樹」が心に残った。
 特に大人の恋をほろ苦く描いた「シンデレラのお城」は
 この短編集の中では少し雰囲気が異なり、切ないラストが印象的。

船上にて/若竹七海

2009年02月22日 02時08分03秒 | 読書歴
2008年読了
109.船上にて/若竹七海
■ストーリ
 「ナポレオン3歳の時の頭蓋骨」がなくなり、ダイヤモンドの原石も
 盗まれた。意外な盲点をつく表題作「船上にて」。
 屋上から突き落とされたOLのダイイングメッセージの皮肉を描いた
 「優しい水」。5人が順繰りに出した手紙の謎に迫る「かさねことのは」
 など8編を収録。
■感想 ☆☆*
 若竹さんらしい悪意に満ち溢れた短編集。どの作品も結末に救いがなく、
 人間ってさ・・・という気持ちにさせてくれる。私は、若竹作品の魅力を
 人間に対するブラックテイストあふれる皮肉交じりの視点だと
 思っている。そういった意味で、葉山昌のシリーズは大好きなのだが、
 短編集のどれもがブラックテイスト溢れる結末でたたみかけられるのは
 少し辛いかな、と感じた。
 長編の端々にちらりと見える人間の悪意ぐらいが私にはちょうど
 いいようだ。もしくは、同じテイストの結末ばかりで、少し飽きて
 しまったのかもしれない。短編集であれば、色々な仕掛けが楽しめた
 ほうがいいような気がした。その点、表題作の「船上にて」は
 異なるテイストで純粋に結末まで楽しめた。

ズッコケ中年三人組Age41/那須雅幹

2009年02月22日 02時05分12秒 | 読書歴
2008年読了
108.ズッコケ中年三人組Age41/那須雅幹
■ストーリ
 ズッコケ三人組のマドンナ北里真智子が29年前と同じく
 突然あらわれた。政界・財界に多くの顧客をもつ美しい
 カリスマ占い師となっての登場だ。国際的なスパイ組織に
 追われていた真智子を救った三人組の心はあの頃と同様にふるえた。
■感想 ☆☆*
 久々のズッコケ三人組シリーズ中年版。
 懐かしのヒロイン、北里さんの再登場が嬉しい。
 おそらく男性にウケがよく、同性の友人は少ないであろう北里さんは、
 実に彼女らしいその後をたどっており、小学生時代に私が彼女に対して
 抱いた「うさんくささ」も健在だ。ただ、同性だからこそ感じる
 うさんくささは、私にとって絶対に手に入れることのできないからこそ
 憧れる性質でもある。周囲の男性を手玉に取れる女性というのは
 ある意味、とても魅力的でかっこいいことなのではないか、とも
 思ってしまうのだ。そういった意味で、オトナになったからと言って、
 変に「イイ人」になってしまっていっていない彼女が私には嬉しかった。

 ただ、それゆえにズッコケ中年三人組は、今回もうまくだまされた
 だけで終わった感じでちょっぴり哀れ。読後の爽快感は味わえない。
 男女関係なく、人は大人になったからといって
 本質的には何も変わらないのだ。

オランダ水牛の謎/松尾由美

2009年02月22日 02時00分55秒 | 読書歴
2008年読了
107.安楽椅子探偵アーチー オランダ水牛の謎/松尾由美
■ストーリ
 上海生まれの、口をきく、正真正銘の「安楽椅子探偵」アーチーと、
 小学校6年生の及川衛との交流を描く、シリーズ第2弾。
 名推理を働かせるアーチーと衛少年が今回挑むのは、エラリー・
 クイーンよろしく「国名シリーズ」の謎。本格味溢れる謎解きが
 加わった心安らぐ連作集。
■感想 ☆☆*
 「安楽椅子探偵」と「国名シリーズ」というミステリ好きなら
 心躍るキーワードがふたつ並ぶ連作短編集。加えてこのシリーズは
 小学生が主人公とあって血なまぐさい事件とは無縁。「日常の謎」
 というキーワードも加わります。
 正真正銘、安楽椅子の探偵、アーチーは今回も皮肉やで知識豊富、
 もったいぶった推理は健在です。衛は小学五年生から小学六年生になり、
 思春期の入り口にたち、ほのかな初恋感情も芽生えます。
 基本的には、肩の凝らないミステリで、あっさりとした日常の謎が
 楽しめますが、私自身はミステリよりも衛の成長を楽しみました。
 少し頼りないけれど、素直で年齢以上の思慮深さを感じさせる衛は
 きっと素敵な男性になるんだろうな、と微笑ましく見守りました。
 ・・・あっさりしすぎているため、読み終わって3か月ほど経った今、
 ミステリ部分に関する記憶は、ややうろ覚えです。
 またいつか純粋に楽しめそうな予感。

1973年のピンポール/村上春樹

2009年02月11日 10時30分54秒 | 読書歴
6.1973年のピンポール/村上春樹
■ストーリ
 僕たちの終章はピンボールで始まった。雨の匂い、
 古いスタン・ゲッツ、そしてピンボール。青春の彷徨は、いま、
 終わりの時を迎える。さようなら、3(スリー)フリッパーの
 スペースシップ。さようなら、ジェイズ・バー。双子の姉妹と
 「僕」の日々。女の温もりに沈む「鼠」の渇き。やがて来る
 ひとつの季節の終り。1973年9月に始まり、11月に終わる
 「僕」と「鼠」の話。

■感想 ☆☆*
 デビュー作「風の歌を聴け」の続編。三部作の第二部、らしい。
 「僕」の物語と鼠の物語がパラレル(平行)に進行していく。
 「僕」は大学を卒業し、翻訳で生計を立てているが、
 ふとしたことから双子の女の子と共同生活を始めることになる。
 ある日、「僕」の心はピンボールに囚われる。
 1970年、ジェイズ・バーで「鼠」が好んでプレイし、
 その後「僕」も夢中になったスリーフリッパーのピンボール台
 「スペースシップ」。そのピンボールを探し始めた僕は、ついに
 倉庫にたどりつき・・・と文章にすると、どういう話だよ・・・
 という気持ちになるが、実際に読んでいる際も読み終えた後も
 「どこにこの話は行きつくんだろう」と思っていた。
 まさに「パラレル」。話は既成概念の枠を超えて自由に広がり始める。

 色々な挿話がちりばめられ、そのいくつかは収束しないまま、
 作品の終わりを迎える。読みやすい文章と奇妙なストーリ展開は
 1作目から変わらず、作者に煙に巻かれているような気さえする。
 それでも、私にとってその奇妙さこそがこの作品の魅力であり、
 癖になっているのだと思う。「僕」はエッセイから垣間見える
 村上さんと見事に重なる。彼の仕事に対するスタンスや取り組み方が
 かっこよくて、そこに私は惹かれている部分も大きいのだと思う。

風の歌を聴け/村上春樹

2009年02月11日 10時24分19秒 | 読書歴
5.風の歌を聴け/村上春樹
■ストーリ
 20代最後の年を迎えた「僕」は、アメリカの作家デレク・
 ハートフィールドについて考え、文章を書くことはひどく
 苦痛であると感じながら、1970年の夏休みの物語を語りはじめる。
 海辺の街に帰省した「僕」は友人の「鼠」とビールを飲み、
 介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。
 ふたりそれぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめているうちに、
 「僕」の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。

■感想 ☆☆☆
 図書館で見つけた村上春樹全集1巻。春樹さんデビュー作である。
 群像新人賞を受賞したものの、賛否両論おおいに別れて、
 物議をかもしだしたらしい。私の春樹さんに関する記憶は
 中学生の頃にベストセラーとなった「ノルウェイの森」からなので、
 この辺りのことは全く知らない。ただ、1年前の私はアンチ春樹派
 だったので、物議を醸し出したことは納得できる気がする。

 読んでも内容が頭に入らない。ストーリが理解できない。
 クライマックスが存在しない。そういった理由から、私は彼の
 作品を面白いとは思えなかった。
 その状況は、今もあまり変わっていない。
 実に分かりやすく読みやすい文章なのに、読みやすいからこそ、
 頭の中をさらさらと文章が流れていく。分かりやすく、しかし
 真意が掴みにくい文章。きっと、私はこの物語を読んではいるけれど、
 理解はできていない。そういった気持ちにさせられる寓話の数々。

 それでも、読み終わって「好きだな」と思えるようになったのは、
 作品から伝わってくるのが「人への優しい思い」「愛情」
 だからかもしれない。
 怠惰で物憂げな主人公たちは熱くなることなどなく、クールに
 過ごして見せている。人との会話も常にはぐらかしたような対応
 しかしない。色々なことに対して虚無感や無力感を抱いている。
 「生きる」ことに特別な意味はない。
 「書く」ことで、本当のことなど何も伝わらない。
 モノローグで伝わってくるこういった思い。
 その中で意図的に挟みこまれる主人公たちとは対照的なまでに
 騒々しいラジオのDJがリスナーに語りかける場面。
 「実にいろんな人がそれぞれに生きてたんだ。」
「そんな風に感じたのは初めてだった。」
 「急に涙が出てきた。泣いたのは本当に久しぶりだった。」
 「君に同情して泣いたわけじゃないんだ。」
 「僕は・君たちが・好きだ。」

 結局のところ、この作品を読みこめたのかどうか、理解できて
 いるのかどうか、私は未だにまったく自信がない。
 ただ、そういったことは別にして、この作品に流れる空気、
 彼の紡ぐ文章がただ好きなのだと思う。

山ん中の獅見朋成雄/舞城王太郎

2009年02月11日 10時19分44秒 | 読書歴
4.山ん中の獅見朋成雄/舞城王太郎
■ストーリ
 僕の首の後ろにも、他人よりもちょっと濃いめの産毛が生まれた
 ときから生えていて、これが物心ついたころから僕の抱えた爆弾
 だったのだけれど、十三歳になってすぐのある晩、自分の鎖骨を
 こすっていて、そこにいつもとは違う感触を感じてうつむいて、
 首元に赤くて長くてコリコリと固い明らかな鬣の発芽を確かめた
 とき、それまでは祖父と父と同じように背中に負ぶっているつもり
 だった爆弾が、気づけば僕だけ胸の上にも置かれていたと知って
 ショックで、その上さらにその導火線にとうとう火が点けられたのを
 実感して、僕は絶望した。
 福井県・西暁の中学生、獅見朋成雄から立ち上がる神話的世界。

■感想 ☆☆☆*
 相も変わらず、疾走感あふれる文章にめまいを感じる。
 文章作法から言うとありえない文章の長さで切れ目なく続く
 主人公の独白は、長い文章なのに冗長ではなく、いっそリズミカルだ。
 めまいを感じながらも読み続けていると、徐々に目がそらせなくなる。
 なんともいえない魅力にあふれた世界が待ち受けている。
  突き抜けた世界観と凝音まみれの独特の描写。
 それらが舞城ワールドを作り上げ、読者を引き込む。作りこまれた
 世界ならではの「物語っぽさ」「ウソ臭さ」に満ちているにも関わらず、
 そして、登場人物たちはみな、奇妙で癖がある人たちばかりにも
 関わらず、実に人間臭くアイデンティティの確立や人間の原罪について、
 思い悩んでいる。その姿が妙なリアリティを醸し出す。
  先祖代代、背中に鬣を持つ少年は、その獣のような鬣(たてがみ)を
 気に病み、人間と動物の違いについて考え続ける。そして、獣の
 象徴である鬣(たてがみ)を剃ったことをきっかけに、
 吹っ切れたように人を殺し続ける。罪の意識もないまま、人を殺し、
 食事として殺した人の肉を食す。
 人間は、何をもって、自分を「自分」と認識するのか。
 自分たち人間と動物を区分けするものは何なのか。
 私たちの自我は何に支えられているのか。
 様々なことを考えさせられるが、理屈抜きにして、その文体を、
 その躍動を楽しめる作品でもある。
  後半は少々、グロさを感じさせる怒涛の展開だが、それでもなぜか
 読後感はさわやか。主人公は色々あって自分を見失いかけたけれど、
 結局のところ、友達を見捨てず、友達と一緒に自分たちのいた
 世界へ戻っていく。元の世界に戻ったけれど、主人公は、確実に
 今までの自分とは異なるのだろう。自分のコンプレックスとしっかり
 向き合って、自分の背中にある鬣とも折り合いをつけて、それでも
 「変わらない人」と「変わらない場所」に戻ってきた主人公だから、
 さわやかな気持ちで読み終えられたのだと思う。