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夢七雑録

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成人式

2010-01-30 21:51:02 | ショートショート

 昔は今と違って、そりゃ陽気なもんだった。娘っこはすっかり着飾って、正月三日より華やかな位だったし、ついこの間まで悪童だったのがスリーピース着込んで三々五々と出かけていく。どこやらの公会堂で誰やらのお話を聞いて、インタビュウでもされようものなら「20才になって、まずやりたいのは選挙権の行使です」とか、「20才に早くなりたいと思っていたけれど、成ってみたら、この先、年を取りたくないわね」とか、のたもうたりする。まぁ、昔は平和だったんだねぇ。

 確かにひ弱な奴が多かったよ。何しろ、大学の入学式にまで親がついていくんだから。甘えん坊ですぐ参いっちゃうし、我慢なんてこれっぽっちも出来やしない。家庭を持ったところで「子供が子供を抱いていらア」なんて言われたもんさ。それだけ良き時代だったんだな。闘争心をむき出しにする必要なんて無かったんだ。先行きに何の希望も無くたってTVやマンガみて一日ぶらぶら過ごせるんなら、それがユートピアってものじゃないか。

 近頃の若い者は昔に比べりゃ、確かにしっかりしてる。成人式を迎えるずっと前からもう一人前だよ。こっちが付け入る隙なんてありゃしない。だからって、成人式を迎えた途端、親から子供を引き離すことは無いじゃないか。親熊が子熊を置き去りにるのとは訳が違うんだ。子供が独立したって親は親だ。時には孫連れて会いに来たり、年とったら面倒みようという気持ちがあったっていいじゃないか。それがどうだい、近頃の奴は。20歳になったらサッサと遠くに行ってしまう。もう会えないような遠くへだよ。

 あの子も小さい頃は可愛かったなあ。「遊ぼう、遊ぼう」って離れなかったものな。それが学校に行くようになってからだよ。相手にされなくなったのは。今じゃこっちのこと、どう思っているのか、分かりゃしない。ああ、明日の成人式には行かないよ。でもスペースポートには行く積もりだ。他の親たちも大勢行くのだろうよ。でも、あの子の母親は寝込んじまったからなあ。この地球が人間で一杯なのは分かってるよ。コロニーの建設に人手が足りないっていうのも知ってるさ。だからって、成人式を終えた若者を強制的に遠い星に移住させるなんて、政府のやり方は良くないよ。でも、明日はサヨナラって言われても、涙は流さん積もりだ。

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物語はこのように始まり、そして、多分、その続きは読者の想像に委ねられるのでしょう。働き手を失った惑星の物語として、或いは、新天地を求めて旅立った若者の物語として。

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