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老夫婦

2015-12-29 18:18:45 | 日記
「おまえ、もう少し小さい声で喋ってくれ」、隣のブースから老夫の声が聞こえる。携帯電話で女房に電話をしているようだ。一般病室は10余畳ほどの空間をカーテンで4ツに仕切り、それぞれのブースにはベッド、テレビ、冷蔵庫、洋箪笥に小さな机の付いたものが配置されている。カーテンは薄地だから、すべての声は筒抜けである。「え?ん?ん?」、老夫の声が変わった。「小さな声で・・・」と言われた女房が、急に声をおとして、今度は話が聞こえなくなったのだろう。夫の指示に怒った女房が故意にヒソヒソ声を作ったとも考えられる。
4人の入院患者はすべて老人であって、看護婦も大声になる。耳の遠い患者に馴れているからだろう。「××さん、呼ばれましたよ。行きましょう」、××老は週に3度透析の必要があり、1度は4時間かかるらしいが、これもカーテン越しに耳に入る。大変だなぁと思う。退院したとしても、また月・水・金と透析通いをしなければならないのだ。いや、私を含め、老人はみんな大変なのだ。

ふと女性病棟を想像してみる。入院中の老妻を老夫が見舞いに来るだろうか。男性の病室と較べれば、その数はうんと少ないと思う。第一に、夫はすでに他界している場合がある。第二に、私のように、家にいても体が悪く、見舞いに来られないケースで、結局は女房棟へ通うのは患者の娘さんや孫、あるいは息子の嫁さんあたりが中心になるのではないか。
老人病棟は現在の日本の縮図である。
老人大国ニッポンの、いちばんの具体例である。××さんが透析を終えて帰って来た。ベッドの横で待っていた老妻に、「終わった、終わった、もう帰っていいよ」と言った。