大木昌の雑記帳

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恋人要らない,結婚したくない(1)―恋愛はコスパ悪い―

2015-10-16 06:21:07 | 社会
恋人要らない,結婚したくない(1)―恋愛はコスパ悪い―

最近の調査によれば,未婚の男女の間で恋愛と結婚にたいする関心が弱くなっているようです。

マスメディでは,特に恋愛に対する若者の心情を,「コスパ悪い」と表現します。つまりコスト(手間暇かけること)をかける割にパフォーマンス
(得られること)が悪い,効率が悪い,という意味です。

では実態はどうなっているのでしょうか。

平成27年度の総理府の「結婚・家族形成に関する意識調査」によれば,20~30代の未婚者で今恋人がいない人に対して「今,恋人がほし
いですか?」の問いに,全体の約40%がNOと答えています。

単純に比較はできませんが4年前に「恋人が欲しくない」と答えた人は31.6%でしたから,今回より6ポイントも低かったのです。

全体としてみると,男女ともに“草食化”からさらに“絶食化”へと進んでいると言えるかもしれませんが,もう少し詳しく見る必要がありそうです。

年代別でみると男女とも30代よりも20代の方が「恋人が欲しくない」率が高く、男性20代は39.7%、女性20代は41.1%に上りました。
20代では,恋愛よりも自分自身の生活の方が大切なようです。

男女別でみると、女性が39.1%と男性の36.2%を上回っています。わずかではありますが,女性の方が恋愛にたいする欲求は少ないようです。

収入別では、男女とも収入がない層は約半数が「欲しくない」と答えましたが、収入が高くなるほど恋人が欲しい率が高まり、男性は年収400万円
以上で79.7%、女性は200万円以上で70.7%が「欲しい」と回答しています。

こうしてみると,特に男性の場合,恋人を欲しいと思うかどうかは収入によって大きく左右されることも確かなようです。

ただし,こうした条件を考慮してもなお,恋愛に積極で気ではない独身男女が予想外に多いことに驚きます。

「恋人が欲しくない」とした人の理由(複数回答)は、多い順に「恋愛が面倒」が最多で46.2%、次いで「自分の趣味に力を入れたい」(45.
1%),「仕事や勉強に力を入れたい」(32.9%),「恋愛に興味がない」(28%)でした(『毎日新聞』2015年6月16日)(注1)

つまり,恋愛には時間がかかるし,喜びや落胆など感情がかき乱されたり,イライラしたり,とにかく面倒だ,それより,自分の好きなことをして
いたほうが気が楽だし,楽しい,ということのようです。

しかし,後に述べるように,これが本心かどうかははなはだ疑問です。

それにしても,「恋愛に興味がない」と答えた若者が28%もいるのは驚きです。もし本心だとしたら,「取りつく島がない」という感じです。

上に引用した「恋愛に関心がない」、恋愛に消極的どころか、5人に1人が「片思いすらしたことがない」との調査もあります。

結婚情報サービス大手「オーネット」が2015年1月に公表した新成人(20才)600人を対象にした調査はさらに驚くべき状態を示しています。

20歳になったばかりの若者のうち,交際経験が「ゼロ」が47・8%(男50%、女45・7%)でしたが,これは理解できます。

しかし,「片思いを含む恋愛経験」がゼロ、つまり人を好きになったことがない人が、19%(男16・7%、女21・3%)もいるという結果には
少し驚きます。2009年のこの割合は16・3%でしたから、増加傾向にあることは確かです。

恋愛に消極的な男性を「草食系男子」と呼ぶようになったのは2006年ころからです。この言葉を世に広めたマーケティングライター、牛窪恵さん
によれば,「『草食系男子』の取材を始めたのは06年ごろですが、当時から『恋愛に関心がない』との20代女性も多かった。恋愛離れは男女共
通の現象と言えます」と言っています。

牛窪さんによれば,2006年当時20代後半の人たち,いわゆる「ゆとり世代」と呼ばれる男女を中心に、結婚に至らない恋愛は無駄だ、と考える
人が多い」と見ています。

その背景を牛窪さんは次のように分析しています。

まず,彼らの親はおおむね1960年代生まれで,入社数年後にバブル崩壊、その後の不況に遭遇した。「ゆとり世代は、親からの教育も周囲の
空気も『無駄なことをせず、効率的に』だった。だからとにかく先の見えないことやリスクを避ける意識が強い」と分析する。その結果、不確定な
恋愛に時間やお金をかけるのは「コスト・パフォーマンス」(コスパ)が悪い、だから結婚に至らない

恋愛はしたがらないし、恋愛意欲も弱い,という流れのようです。

こうした傾向が,「ゆとり世代」の特有のものなのかどうか,さらに検証が必要だと思います。

それでも,少子化の問題を担当した新聞社のある記者のコメントは示唆的です。

彼の知人でゆとり世代の少し上、現在29歳の会社員男性は、顔立ちも服装もシュッとしていてモテそうだが「カノジョ? いや、いたことないです」。

中学・高校と男子校で、大学も会社も男が圧倒的に多い。「だから周囲に交際歴がない人

が多いし、焦りもない。正直、風俗店には行きますが、恋愛はいらないし、好きになる女性もいないなあ。だって2年、3年と付き合って別れたりし
たらすごく『損』じゃないですか」。結婚願望はあるから、いずれ「婚活」をする、という。

この友人は,恋愛を「損か得か」「効率的かどうか」という視点で見ています。

若者に「恋愛に関心がない」というのは本心かどうか疑問を呈する人もいます。

少子化対策の一環として恋愛行動の研究を始め、「恋愛学」の授業を開く早稲田大学の森川友義教授も,「僕は自分をだますウソだと思う」と指摘
しています。

森川氏によればその心理は,達成したい目標があるのにできない。ストレスになる。この矛盾を埋めるために自分を正当化する言い訳を考える、と
いうものです。

好きな人がいる、交際したいという欲求はあるが、実現できない。だから「恋愛に興味がない、めんどくさい」と自分を納得させる言い訳をする。

なくなったのは恋愛への関心ではなく、口説いて恋愛する能力、男女間のコミュニケーション能力と、恋愛にかける時間、金、労力です。

さらにその背景として森川氏は、近年のスマートフォンなど、「便利で面白い機器の普及」があると見ています。国の「出生動向基本調査」では、
性交渉未経験率(18〜34歳、未婚者)は90年代から低下傾向でしたが、2005年に男性31・9%、女性36・3%で底を打ち、10年に男性で
4ポイント以上も上昇しています。

「そうした機器に1日何時間もかじりついていれば、口説きの能力なんて磨かれないし、恋愛に必要な時間もお金も投資しなくなるのは当然。
恋愛やセックスに関心がない人が増えている、とは思いません」と言い切ります(『毎日新聞』2015年2月4日,夕刊)。

森川氏の分析に私も「ほぼ」同感です。

「ほぼ」,と書いたのは,若者(特に男性)の性欲自身が低下しているのではないか,という状況を示唆する現象やデータがあるからです。

私が大学で教え始めた昭和50年代(1980年代)後半ころ,男子学生はちょっと不潔でどことなくギラギラして,いかにも「男くささ」を感じました。

しかし,2000年代中ごろから,男子学生も,眉をきれいに剃って形を整えたり,髪型にも気を使い,すね毛を剃り,着ている服も小綺麗でカラ
フルになり,全体にとてもきれいになってきた印象をもっています。

どことなく,若い男性の脱セックス,中性化という印象を受けました。

データとしては,若い男性の「セックス離れ」が進んでいることが、一般社団法人日本家族計画協会がまとめた「男女の生活と意識に関する
調査」に現れています。

2014年9月の調査によれば,性交経験率が5割を超える年齢は男性で「20歳」、女性「19歳」でした。女性は10年、12年と比べ変化がなか
ったのに対し,男性は1歳高くなって。

また、性交初経験についてみると,7割を超えるのは男性が「24歳」で、それまでの21歳より3歳高くなりました。女性の「22歳」と比べても
性行動が消極的
になってきていることがうかがえます。

また、セックスについて、「あまり、まったく関心がない」と「嫌悪している」を合わせた男性の割合が18・3%で過去最高に。特に若年層ほど
関心が低く、16〜19歳で34・0%,20〜24歳で21・1%,25〜29歳で21・6%--となり、45〜49歳(10・2%)も上回って
います。

若い男性のこうした傾向は2010年の調査で初めて明らかになりました。これ以降、「無関心」または「嫌悪している」割合が年々高くなり、今回
は2008年に比べほぼ倍増しています。

「草食男子」だった10代が20代半ばになっても草食のままになっているケースが珍しくなくなってきたのかもしれない。

なお、女性の場合、08年に比べすべての年齢層でセックスへの無関心・嫌悪の傾向が広がったようです。専門家はこうした現状を,「男性は
『草食化』どころか『絶食』傾向」とコメントをしています(『毎日新聞 2015年2月5日』。

全般的にセックスへの関心が低下している中で,なぜ若い男性のそれが突出して低下してきているのか,はっきりとした理由は分かりません。

いずれにしても,セックスへの関心が弱まれば,恋愛への関心も弱くなることは当然で,「恋人要らない」という方向に進んでしまいます。

労働環境や将来への不安などの社会的なプレッシャーが,とりわけ若い男性に重くのしかかっていることは十分ありそうです。

これ以外にも,私は少子化がかなり重要な原因になっているのではないかと思います。以下は,推測の域を出ませんが,私の考えを書いて
おきます。

少子化は少なくとも二つの方向で,「恋人要らない」「恋愛はコスパ悪い」と考える若者(とりわけ男性)に影響を与えていると思います。

一つは,子どもの数が少なくなった分,親の期待は高まります。ところが,子どもの方は,親の期待に応える自信がないと,プレッシャーだけ
が強くなってしまいます。

二つは,これと関連して,親の期待が高まることと並行して,子どもは大事に,そして甘やかされて育ってきているのではないでしょうか?

こうした環境の下で,若者たちは傷つくことにとても臆病になっているのではないかと思います。

以前,ある学生は,好きになった女性に携帯電話のメールで告白し,その女性からやはり携帯電話で断られた,と,あまりショックを受けなか
ったように
話していました。

他の学生に聞くと,携帯のメールだと相手の悲しい顔を見ることもなく簡単に断ることができる,と言います。

他方,告白した男性も,直接に告白して断られた時のことを考えると,携帯メールで告白したほうが,たとえ断られてもショックは小さいと感じる
ようです。

「恋人要らない」とする背後には,時間もお金もエネルギーも使って相手に働きかけ,それでもうまくゆかない場合を考えれば,それだけショック
は大きいし傷つくし,その努力は全くの無駄であり「損」なことになってしまいます。

そして結論として,恋愛は「コスパ悪い」ということになってしまいます。

しかし,何もかも無駄のない「コスパ良い」人生なんてあり得ないし,「恋愛」なんてもともと「コスパ悪い」から胸がときめいたり感動したり落胆
したり,つまりは「人生の味わい」なのだと思うのですが,どうでしょうか?

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