7月はなんだかめまぐるしくて、ばたばたしているうちにもう終わりに近づいています。
そんなとき、紫蘇ジュースのようなさわやかさで届いた本。 松村由利子さんの『少年少女のための文学全集があったころ』。 私は松村さんのようにたくさんの本を読んできてはいないけれど、どの頁を開いても物語との親密さがあふれていて、うらやましいようなほほえましいような、とても温かい気持ちになります。
子供のころにこんなにたくさんの本に出会っていたら、世界は広く、近くなっただろうなぁと思います。
この本を読んでいて、そうそう、私も思った!というところもあって。たとえば、訳が古くて、「お父さんがうどんを作ってくれました」っていうスイスの物語を読んだとき、うどんじゃないやろ、と思ったけれど訳された当時は「うどん」って書かないとパスタとかが通じなかったんだろうなぁと笑ったことを思い出しました。この本で紹介されているのは『アンの娘リラ』に登場するシュークリームが「軽焼饅頭(かるやきまんじゅう)」と1959年の最初の村岡花子が訳していたこと。私も『アンの娘リラ』は読んだけれど、違和感がなかったから、すでにシュークリームに変えられてたんだろうなぁ。 そういう知らない面白さも書かれていて、ほんとうに楽しい。
1954年に訳された『ひとまねこざる』のおさるのジョージが動物園を抜け出したとき、「しょくどう」のおなべから食べたのは「うどん」だったのが、1989年の改訂版からは「れすとらん」の「すぱげってぃー」になっているそうです。
私は大人になってから童話を読み始め、子供を育てながらいっしょに読み、作り、という出会い方でしたが、それでも訳が時代おくれで笑ったり、海外の子どもが友達とけんかしたときのセリフがおもしろかったり、楽しんできたことを思い出しました。
「誰の心にも、自分だけの特別な辞書がしまわれているのだと思う。「薄謝」に代表される、さまざまな言葉を大好きな本から吸収してきたことは、私の財産である。」
こんなふうに、松村さんの思いがところどころにさりげなく置かれていて、自分がどんなふうに言葉と出会いってきたかということを考えさせられました。
まだまだ読み始めたばかりですが、いまから読み終わるのが寂しいくらい楽しいおすすめの1冊です。