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いつでも君のこと好きだったよ

久しぶりの短歌の日 大口玲子『桜の木にのぼる人』

2015-11-28 23:40:05 | 日記

 読みたい歌集や歌書がたくさんあって、少しずつ読み進めています。

 

 歌集を読んで、ノートに好きな歌を写して、それからブログに書いたりするので、のろのろですが、たまには書きたいなぁと思います。

 

 きょうは大口玲子さんの第5歌集『桜の木にのぼる人』。

 

 小さい息子さんとの日々を丁寧に掬いとって詠われているのですが、息子さんとの時間がとてもはかなく、切なく描かれる歌がときどき差しこまれ、子供時代のいきいきとした時間というのは同じくらいにはかない時間なのだなぁと思いました。

 

 ・ひよこ豆とキャベツ煮てまるきパン添へて極力小さき弁当つくる

 ・かじかなく沢辺にほたる追ひながら子はいくたびも視界から消ゆ

 ・はつ夏の虹も蛍もはかなくてわれより先に子が見つけたり

 ・噴水に向かひてふたり歩むときも息子は息子の帆を張りてゆく

 ・キャンドルの小さきほのほを見つめつつ南瓜のスープすする息子よ

 ・蠟燭に息ふきかけて消したれば息子の顔は見えなくなりぬ

 

 東日本大震災後に福島を離れて宮崎で暮らし始めたことが、子供時代の「はかなさ」に加えて命を脅かされる不安が大きくあるために、いっそう際立ってはかなく思えてくるのかもしれません。

 

 ・いくたびも「影響なし」と聞く春の命に関はる嘘はいけない

 ・無用な被曝避けてくらせと言ひくれしたつたひとりと振り返るなり

 ・樹皮削られ水かけられて除染といふ苦しみののちのりんご<国光>

 ・福島より来たりて宮崎の土を指し「これはさはつてもいいの」と訊けり

 

 さらに、日常の中に影を落とす社会の動きにもはっきりと声をあげています。

 

 ・木立ダリア見上げては過ぐる道の朝「徴兵制」を言ふ低き声

 ・殺すことなかれ殺さるることなかれ影踏んでひとり遊ぶ息子よ

 ・福島で生きる母親に強さありその強さに国は凭れかかるなよ

 ・暴力を根こそぎにする怪力のあらばそれはまた暴力ならむ

 

 子供の歌では

 ・「顔が寒い顔が寒い」と繰り返しいまだこの世の慣れぬ息子は     大口玲子

 ・ふうせんがおもい ふうせんがおもいと泣いてゐる子供はしだいに母に遅れて  花山多佳子

 ・かぜがおもい、風が重いと言いながら青い傘さす子ども歩めり     吉川宏志

 という、幼い子供のつたない言葉がかえって切迫感を呼ぶ歌は、花山さんや吉川さんにもありますが、花山・吉川作品は「子供」から少し離れた場所から見ているのに比べて、目の前のわが子の強い訴えが自分に向けられているような、一体となって「この世に慣れぬ」感じが浮かび上がってきます。


 子供の歌のなかで一番好きなのは

 ・子に呼ばれ望遠鏡をのぞきみれば月面ひろくみづみづとあり


 です。子供の見ているものから教えられる新しい世界。 忘れていたもの。 新聞やテレビから溢れてくる情報は、まるで世界は終わりに近づいているんじゃないかと不安ばかりかき立てられ、自分もなにかしないといけないような焦燥感を覚えるのですが、子供のもつ新しいものとの出会いを喜ぶ力に気づくとき、大切なものを大切に生きて行くことが一番だということを思います。


 最後に、魅力的な冬の相聞の歌を。


 ・会ひたさをわが言はざればさらに遠き岬へと行く冬の約束

 ・きみが束ねくれたる麦の穂のひかり卓上にあり冬はすぎゆく




 


 

コメント
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