NHK報道番組「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」 2011年4月22日放送 (動画)
宮崎川南町 4月20日ナレーション(ナ:) 口蹄疫の発生から1年を迎えた4月20日、宮崎県では、農家たちが、犠牲になった牛や豚に手を合わせていました。大切な家畜を失った悲しみと、経済的な痛手から、多くの農家は、まだ立ち直れていません。
2010年4月20日 宮崎県東国原知事の記者会見知事「家畜伝染病である口蹄疫の疑似患畜が県内で確認されました。」(ナ:) 口蹄疫で殺処分された家畜は、およそ30万頭、1300を超える農場から、牛や豚の姿が消えました。そして今、口蹄疫は韓国や中国など、東アジアで猛威を振るい続けています。いつまた、畜産王国、九州を襲ってもおかしくありません。
撮影:畜産農家 去年5月豚農家「次から次に感染して、かわいそうな豚がたくさん増えています。」(ナ:) 感染拡大を防ぐ手がかりはないか、私たちは当時の記録に注目しました。豚農家「エサはほとんど食べません。この子たちも、もうすぐ殺されます。」牛農家「(ワクチン接種を手伝いながら)かわいそー、あっ、あっ、あっ、・・・」(ナ:) 被害の一部始終を記録していた農家たち、その映像や日記から、感染が広がった背景に迫りました。・・明らかになってきたのが、農家たちの叫びが行政に届かず、対応が後手に回った実態でした。農家「いくら言ってもね、やっぱり、県にも国にも届かなかった。」
(タイトル表示)なぜ、SOSは届かなかったのか~口蹄疫・感染拡大の実態~(ナ:) なぜ、SOSは届かなかったのか。口蹄疫発生から1年、現場からの報告です。
ニュースキャスター(司会)「特報フロンティアです。宮崎を襲った口蹄疫の発生から1年です。大切な牛や豚を失った農家の方々の精神的な痛手は、計り知れないほど大きく、未だに半数以上の方が、農場の再開に踏み切れていません。そして、被害額の試算はおよそ2350億円と、地域の経済に重くのしかかっています。私たちは、この未曾有の被害をもたらした口蹄疫について、宮崎の365人の農家の方に、アンケートにご協力いただきました。それが、こちらです。中には、このような声がありました。和牛繁殖農家代40女性『まだまだ不安な気持ちがあります。毎日涙を流し、牛舎にいることができません。』、和牛繁殖農家代50女性『もし、わが家から病気が出たらという恐怖心が先にたって、農場再開に踏み出せずにいます。』、など、心に深い傷を残しています。こうした声と一緒に、行政の当時の対応に対する怒りの声もありました。養豚農家50代男性『幹線道路の消毒ポイントが少ない。』、酪農家60代男性『どこで発生したかわからず、役場に電話しても教えてくれず、不安だった。』、などです。さらに、当時のブログや日記などを通じて取材を続けていきますと、実は、口蹄疫発生後、かなり早い段階から、農家自らが感染拡大を防ぐために、町や県、さらには国に対して、さまざまなSOSを発信していたことが、分かってきました。それなのに、なぜ叫びは行政に届かなかったのでしょうか?」(ナ:) 口蹄疫で最も大きな被害を受けた宮崎県川南町、すべての家畜が犠牲となり,牛や豚の鳴き声が溢れていた畜産の町は、一変しました。彌永「この場所に埋めていただいたんです。まあ、天国の花畑っていう感じやろけんね。」(ナ:) 30年間、酪農を続けてきた彌永睦雄さんです。牛、39頭が感染し、殺処分されました。「かわいいよな。」殺処分の前日、彌永さんが撮影した映像です。牛は大切な収入源であるとともに、かけがえのない家族でした。彌永「こんだけ、牛と一緒にいない時間、が、一生で初めてやね、牛がかわいそう、牛に申し訳ない、ちゅう気持ちが一番、強かったわね。」(去年4月21日)(ナ:) 川南町で、口蹄疫が立て続けに発生した、去年4月末、彌永さんは、県に対し、消毒の徹底を訴えていました。口蹄疫ウイルスは、靴底や車のタイヤなどについて広がるほど感染力が強いことを、インターネットで知ったからです。・・感染した2つの農場から、彌永さんの農場は、2kmしか離れていませんでした。・・「こうして、車が通るからね、一般の。」・・しかも、彌永さんの農場は、発生地区から国道に通じる道路上にあるため、車がウイルスを運んで来る可能性がありました。しかし、県が消毒を行っていたのは、家畜のエサ等を運ぶ畜産関係の車だけでした。・・彌永さんは、一般の車も消毒するよう、県に繰り返し求めました。県の回答は、検討するというもので、直ちには動きませんでした。・・その頃、彌永さんが書いたブログです。「あれほど、一般車両の消毒をお願いしてたんだけど、昨日も電話でお願いしたんだけど、受け入れられなかった。」・・(4月26日)その後、日を追うごとに、感染は次々と周辺の農場に広がりました。・・発生から1週間で、およそ2000頭の牛が殺処分されました。彌永「もっと抑えられちょった可能性もあっちょとかよ。・・初期に徹底した消毒体制がとれちょけばね。それだけは今でも、思う。」(ナ:) NHKが被害を受けた農家を対象に行ったアンケート。半数近くの人が、行政の消毒体制に不満を感じていました。繰り返し、消毒の強化を訴えていた人も、少なくありませんでした。何故、県は農家たちのSOSに応えなかったのか。・・(宮崎県畜産課)・・・一般車両の消毒を求める声が高まる中、畜産課では対策を協議しました。しかし、実施は困難という結論に達しました。全ての車を消毒するには、交通量が多すぎるからです。国道を通る車は、1日、2万台以上。県は、1台当たり3秒以内で消毒しないと、渋滞が発生するとみていました。さらに県は、農家以外の人たちから協力を得るのは、難しいと考えていました。消毒液が車にかかっただけで、苦情を寄せる人がいたからです。県室長「今でこそね、口蹄疫、皆さん理解されていますんで、仮にあした(口蹄疫が)起きて、全車(消毒)対応ちゅうことになれば、多分スムーズに、あのー、協力してもらえるかもしれませんけども、初期から、あるいは、いきなりネ、あのー、一般関係車両まで、対応ということになれば、まあ、相当な混乱があったのではないか。」(ナ:) さらに、県の判断を後押ししたのは、防疫マニュアルでした。消毒の対象としていたのは畜産関係の車両だけ。一般車両は含まれていませんでした。マニュアルは11年前(2000年)に、宮崎県で発生した口蹄疫の経験をもとに作られました。しかし、当時のウイルスは非常に弱く、感染した農場は3つに止まりました。今回も、早期で終息すると、県は考えていたのです。県室長「これだけの、その、なんですか、口蹄疫を、まあ想定していなかったのは事実なんですね。たんたんと、その、殺処分して、まん延を防止すると、いうことで収まるんじゃないかという考え方と・・。」(ナ:) 口蹄疫の発生から8日、感染爆発につながる事態が起きます。県の畜産試験場で、豚が感染したのです。「1万6千(頭)ちょっとですものね。かなり、おりましたね。」そうした中、ひときわ危機感を強める農家がいました。町で、最大規模の養豚場を経営する、河野宣悦さんです。河野「それだけの、やっぱり、頭数、おりますんで、ウイルスの発散量ていうのは、ものすごいもんだろうな、うん。だから、やっぱり入れたくない。」(ナ:) 飼育頭数が多い上に、豚が放出するウイルスの量は、牛のおよそ3000倍、感染すれば、被害はたちまち周りの農場にも広がりかねません。河野さんは、JAを通じて発生農場の情報を集め、地図で確認していました。従業員に、その場所に近づかないよう指示するためです。しかし、感染は続発し、次第にすべてを把握しきれなくなっていきました。誤った情報まで飛び交う中、農家たちは町に対し、発生農場を明らかにするよう、繰り返し求めました。しかし、町は応じませんでした。(宮崎 川南町役場)(ナ:) なぜ、町は情報を教えなかったのか。農林水産課の押川課長は、発生農場を全て把握していました。しかし、詳細は伝えずに、農場がある場所の学区名だけを、知らせていました。当時、牛や豚が感染した農家の中には、周囲から加害者のように責められる人がいたからです。かつて別の県で、家畜伝染病が発生した際、農家が非難を苦に自殺したケースもありました。課長「色んな、誹謗中傷が、あるということでですね、家から一歩も出られなかったというとこが、非常に強かったもんですから、自殺者が出るような状態だけは、つくりたくないというのが、やはり本町(本庁?)の取り組みでもありました。」(ナ:) 発生農場の情報が入らない中、ついに、河野さんの農場でも、口蹄疫が発生します。河野さんの懸念は現実になります。豚の1例目の確認後、感染の疑いがある家畜の数は急増、町で最大規模の河野さんの農場が感染してしまった結果、3倍に増えました。一方、殺処分することができた家畜は、わずか3分の一。その後、殺処分は大幅に遅れだし、感染はさらに広がっていきました。発生農場に配慮する町の立場を理解しながらも、河野さんは、被害を拡大させないためには、正確な情報が欠かせないと考えています。河野「情報が伝わらずに、実害になってしまったら、もう何もなくなるわけですわ。感染拡大を防ぐという大前提のもとでは、(情報は)必要なんじゃあないかなあて気はしますね。」(スタジオにて)司会「スタジオには、家畜伝染病の感染防止対策に詳しい、東京農工大学教授の白井淳資さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。そして、発生当初から取材を続けてきました本木記者です。まず、本木さん、あの、畜産農家はSOSを出していたのに、県や町は応じなかった。これは、なかなか腑に落ちない対応ですねえ。」本木「そうですね。私たちも最初の1か月間は、やはり感染を広げてはいけないということで、農場での取材を控えて、主に電話で農家に話を伺ってたんですけども、その時に、農家の人たちは、見えないウイルスの侵入に怯えて、もっと徹底した対策をとらないと感染の拡大を止められないと、県や町に必死に訴えていました。しかし、実際の対応は、やはりVTRに見たように遅いものでしたので、自分たちがもう見捨てられているのではないかと漏らす農家さえいたんです。結局、発生から3週間以上たってから、川南町は発生した場所を大まかに記した地図を、農家にFAXするようになりました。また、県も道路に消毒マットを敷いて一般車両の消毒を始めたんですけども、しかし、それはいずれも感染が爆発的に広がった後だったんです。」司会「白井さん、初動の段階で、県や町という立場にある人たちがですね、SOSに応じなかったということ、白井さん自身はどのようにお考えですか?」白井「えーっとですね、まあ、県の立場ですけども、そのー、感染拡大を想定していなっかったと、責任者が言っているんですけども、それは口蹄疫自体の認識不足ということですね。それは、過去2000年のときにですね、宮崎で口蹄疫が発生したんですけども、あのー、その時に3軒だけで、あまりにも、そのー、なんというんですかね、小さな発生だけで収めてしまったという、その自信がですね、勘違いにつながったんだろう。」司会「その勘違い、認識不足と仰られたところ、その甘さの理由というのはなんだったんですか?」白井「甘さの理由というのが、その、あの、過去の例がですね、それがそのまま口蹄疫そのものだ、ということですね。」司会「あてはまると思うこと、それが認識の甘さですか。」白井「当てはまると思う、はい、認識の甘さということですね。」司会「一方で、ですね。町の人の話ですけども、自殺者が出てしまうのではないか、そのために情報を出せないということで、かなり葛藤があったことは事実だと思うんですが、こういった判断は正しかったんでしょうか?」白井「いや、正しくないと思います。とにかく口蹄疫というのは感染が、すごく拡大しやすい病気であるということ、その前提に立って、どこで発生しているのかということが、一番重要なことなので、あの、とにかく、その発生農家も被害者である、ということをですね、とにかくそういう前提に立ってですね、それで正確な情報を伝えていって、これ以上感染が広がらないようにする、という認識が、自治体も非常に必要だったんではないかと、私は思います。」司会「とにかく、初発、発生された農家の方は被害者であるという認識が前提である。そのあとで、正しい情報を知らしめる。」白井「それで、最初に、あの、出たところ、初発というわけではないと思う。初めに報告があっただけで、そこで言われた(報告された)だけですから、そこから病気が広がった訳ではないので、みんな被害者だという認識を持っていただきたいと思います。」司会「さて、最初の発生から2週間、地元の行政の対応が遅れたことで、感染は拡大し、さらに殺処分が追いつかない状況になっていました。そんな危機的な状況の中で、農家は今度は国に向けてSOSを発信していました。」(発生から2週間、宮崎 川南町 養豚農家)(ナ:) 最初の発生から2週間、口蹄疫に感染する家畜は急増し続けていました。感染するとウイルスを放出し続けるため、ただちに殺処分しなければなりません。しかし、作業はいっこうに進まず、農家たちは焦りをつのらせていました。養豚農家「毎日、毎日、かわいそうな豚が、たくさん増えています。早く、殺してもらいたい。そんな気持ちです。豚のためにも。」・・・このころ(5月4日~9日)、発生地域も少しずつ広がり始めていました。町を南北に隔てる平田川のすぐ南には、数千頭が飼育されている大きな養豚場が集まっていました。一つでも感染すれば、川の南側一帯に広がりかねません。(養豚農家 遠藤宣威さん「こんもりとした山の向こうが、・・・」)自分たちの町だけで、感染を食い止めたい。地元のJAで、当時、養豚の部会長を務めていた遠藤たけのりさんは、仲間と思い切った作戦を立てます。大型農場の家畜全てを、感染が及ぶ前に殺処分して、空白地帯をつくることで、感染に歯止めをかけようと考えました。しかし、このころ感染の疑いがある家畜が増え続け、殺処分は大幅に遅れていました。・・当時、遠藤さんが書いた日記です。打開策としてワクチン接種がしるされていました。海外では感染拡大を抑えるための、有効な手段の一つだとされていたからです。ワクチンを打つと口蹄疫に感染しにくくなります。ただ、完全に防ぐことはできません。感染を確実に断ち切るためには、殺処分しなくてはなりません。しかし、ワクチンはウイルスの増殖を抑えることができるため、殺処分までの時間稼ぎとして使えるのです。・・感染していない自分の家畜を犠牲にする。つらい決断に13人の農家が、国の補償を条件に同意しました。遠藤「なんにもね、感染していない。ただ、当時、我々が、あのー、防波堤になってね、みんなが生き残ればいいと。そういう思いしかなかったですね。うん、・・つらかったよ、つらかったですよ。やっぱりその時はつらかった。」(発生から3週間)(ナ:) 口蹄疫発生から3週間あまり、初めて宮崎県を訪れた赤松(農林水産)大臣に、遠藤さんたちは作戦を提案しました。しかし、・・大臣「まあ、予備的に、それを(家畜を)殺傷して、殺して、で補償金をください、という話でしょ? 病気でもないのに、殺傷して、殺処分して、しかも税金であるそれを、補償金として払っていくと、いうことはこれはもう、法的にそもそも認められませんから。」(ナ:) 遠藤さんは、日記(5月11日)に、国への強い苛立ちを綴っていました。「これだけお願いをしても届かないのか。」・・・なぜ国は、農家たちの提案を拒否したのか?・・・数日前、農水省は口蹄疫の地策を考える会議を開きました。・・集められたのは家畜の伝染病やウイルスに詳しい専門家たち。その時の発言を記録したメモを、私たちは入手しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー第12回 牛豚等疾病小委員会 メモ (1ページの映像)場所:本館4階 第2特別会議室日時:平成22年5月6日(木)11:00~13:00(〇〇調整官) ただいまより牛豚等疾病小委員会を始める。本日の会議は非公開とする。田原委員長に進行をお願いしたい。(〇〇委員長) それでは議事に入る。事務局より発生状況、防疫対策についてご説明いただき、ご意見ご検討をいただきたい。議事(1)宮崎県における口蹄疫の現状及び防疫対策についてご説明をお願いしたい。(〇〇補佐) (資料1を用いて説明。豚での発生が増加していること、小規模農場であれば、作業動線により近い房で初発している傾向が認められるが、大規模農場では必ずしもその傾向は認められないことに言及。)(〇〇調整官) 津田委員に、資料2-1(疫学チーム現地調査風景)と3-1(口蹄疫ウイルス日本分離株)についてご説明願いたい。(〇〇委員) 資料2-1は4月29日に行った現地調査の写真である。防疫措置が完了した1例目のみを調査した。この農場は他の農場から離れた場所にあり、農場に通じる道は大型車両が入れない狭い道であり、周りを杉林と竹林に囲まれている。初発は出入口付近の牛舎で発生しており、牛舎の構造も甘いため、色々なものが接触してもおかしくない。聞き取りによると、飼料は、自車で購入に行っていたとのことで、飼料配送車による汚染ではないと考える。この発生が初発なのか続発なのかを確認するためには、さらに細かく情報を集め、発症例を時系列に結んで整理する必要がある。 つづいて資料3-1であるが、今回の発生は1、2例目のウイルスはどちらも、変異が激しい領域であるVP1遺伝子の塩基配列が一致した。トポタイプはSEA(東南アジア)、遺伝子型はMya-98(ミャンマー98)であり、宮崎県で2000年に発生した際のタイプとは異なる。今回のウイルスは、2010年に香港で分離されているO型ウイルスに近縁であり、同じグループに現在、香港、韓国で分離されたウイルスが含まれる。 現在国内に備蓄されているワクチンは今回分離されたウイルスと近縁であり、中和試験の結果からも、国内備蓄ワクチンは今回の発生に使うことは可能と考える。 (ページ終わり)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーナ:) 会議では、家畜の殺処分の他、ワクチン接種についても話し合われていました。また、「国が備蓄しているワクチンは、今回のウイルスのタイプと近いため効果がある」と、専門家が報告していました。・・しかし、一方で、農水省の担当者から慎重な意見が出されました。「手当金については、もっとつめなければならない。」・・ワクチン接種をした後の補償をどうするか、もっと検討する時間が必要だというのが、発言の意図でした。・・この後、ワクチンについての議論は立ち消えになり、会議は終了しました。・・手当金について発言したのは、国の口蹄疫対策の指揮を執る動物衛生課の川島課長でした。課長「健康な家畜にワクチンを接種して、それを殺処分すると、いったことについて、そのー、手当て、支援金を支払う、といったような、そのー、枠組みは、あのー、残念ながら、ありませんでしたので、そのー、やっていくためには、そういうまあ仕組みが、あー、できていないといけない。」(「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(平成16年12月1日農林水産大臣公表)」の表紙の映像) (ナ:) 国が定めていた口蹄疫の防疫指針。・・感染が拡大した場合には、ワクチンを検討することになっています。しかし、接種したときの農家への補償については、何も決められていませんでした。課長「(ワクチンの)備蓄はですね、いざというときのために、そのー、していた訳ですけれども、実際にそういう使用をですね、そのー、するというような状況をですね、まあ、あー、想定をしていなかった、されていなかったんじゃあないかと。口蹄疫の、おー、まあ、世界的な発生状況等々を、えー、よく、うー、我々自身が、もっと分析をして、準備を、おー、万端にしておくべきだったと。(ナ:) 赤松大臣が農家たちの提案を拒否した翌週、恐れていた事態が起こります。 (5月11日~16日) 感染拡大の勢いがさらに増し、平田川の南にある大型農場も次々と感染、ついに周囲の町にも広がり始めました。そのとき感染の疑いがある家畜は、9万頭近くに達していました。危機感を強めた農家たちは、国に再びSOSを発信します。全国の生産者団体を通じて、山田副大臣に面会を取り付け、訴えました。「ウイルスが爆発的に増え、毎日数千頭の牛豚がバタバタ倒れています。感染は川南町の外へ広がり始めています。県外に広がるのは、時間の問題です。」農家たちから現地の惨状を報告された山田副大臣は、大きな衝撃を受けました。大臣「(現場の)生の状況を、直接お聞きしてみた。で、これはもう容易ならざる段階まできていると。このままでは、もう本当に、南九州というか、九州の畜産が、これじゃあだめになってしまう。去年5月21日(発生から1ヵ月)(ナ:) 数日後、国は県と抗議の末、ワクチン接種を行った上で殺処分する計画を発表しました。具体的な補償額は決まっていませんでした。・・知事「断腸の思いでありますが、ぜひともご理解とご協力をお願いしたいと思います。」・・ワクチンを打って殺処分の対象となったのは、発生地域とその周辺の12万頭、すべて健康な家畜でした。(畜産農家のワクチン接種の映像)・・「あーー、ああ、かわいそう。」感染拡大を食い止めようと、農家たちは国の決定に従いました。「いやだよ、あー、ああー」「国のためじゃが、国の、国のためじゃが」「いやだー、どうして、あん、あああー」(ナ:) ワクチンが接種され、しだいに感染拡大は収まっていきました。しかし、行政の対応が遅れ続けた結果、犠牲となった家畜は30万頭に膨れ上がったのです。遠藤「我々の意見をね、もっと少し早く、聞いていただければ、そんな、そんなにね、(口蹄疫に)かかる必要はなかったはずですよ。そうとうね、あのー、牛豚の命はね、救えたんですよ。政治家の判断は相当に大事なことだと思いますね。」山田「もっと早く(ワクチン接種を)やっていれば、もっと被害は、少なくてすんだろうけどね。まあ、当時、法律も不備だったし、まあ、後手に回った、というところは、否めないかも知れないね。(スタジオにて)司会「あのー、農家のですねー、いわば自己犠牲を伴うSOSも、なかなか国には届かなかったと。当時ですね、農家のみなさん、いらだちも激しかったんじゃあないでしょうか。」本木「そうですね。VTRに登場した農家の遠藤さんなんですけども、当時ですね、本来は陣頭指揮を執るべき国の姿がいっこうに見えてこないと、嘆いていたんです。口蹄疫は感染度が強くて、対応を誤りますと国中に感染が広がりますので、海外ではテロ対策並みに政府が先頭に立つことが少なくないんですね。しかし、宮崎では去年どうだったかと言いますと、国が現地対策本部を作ったのは発生からおよそ一か月後、まあ、ワクチンを決める直前だったわけです。まあ、確かに状況が刻々と変わる中で、現場から離れた場所で的確な判断をするのは難しいと思います。その意味で、発生直後から国は現地に入って対策本部をつくって、地元の意見を聞きながら対策を主導する、そうすべきだ、これが去年の経験を踏まえた宮崎の声なんです。司会「そういった声が上がっているということなんですが、白井さん、国のワクチンの決断のタイミングですけど、なんであんなに遅れてしまったんでしょうか。白井さん、どうお考えですか」白井「えーっと、VTRも出てきたんですけど、ワクチン使うつもりは全然なかったと思います。とにかくワクチンを使わずにですね、殺処分で対応する、というのが2000年にもそうであったし、そういうつもりでしてきたこと、それとワクチンを使う体制になってないですね。」司会「体制になってない?」白井「はい、ワクチンを接種した家畜に対する補償を決めていないのに、ワクチンを打って農家にどう説明するか。ワクチンを打って殺処分しますよ、補償はありませんよ、では話にならないと思います。」司会「なるほど、ただ、指針にあるのに、備蓄しているのに、使うことは想定していない、なかなかこの不可思議さというのは感じてしまうのですが、このワクチンについてなんですが、世界的には、どういう風に使われている、見られているものなんですか。」白井「えーっとですね、2001年のイギリスの口蹄疫の大発生まではですね、やはり殺処分ということが主流に、あのー、来たんですけども、2001年、645万頭殺処分ということがありましてですね、あのー、世界の主流としては、ワクチンを使って感染拡大を防止しよう、という流れになっていると思います。」司会「はい、どんな国でですか。」白井「そうですね、とにかく発生したらワクチンを使うと、いうのがオランダなんですけども。オランダは海抜が低いこともありますし、土地の面積も少ないということでですね、とにかくワクチンを使うと、発生したら、あの、2km圏内の家畜に全部、ワクチンを使ってですね、打って、それで、できるだけ殺処分する家畜の数を減らしていこうという取り組みがなされています。」司会「VTRでも、今の白井さんの話からもですね、法的な不備が指摘されていますけども、先ほど、先日ですね、家畜伝染病予防法の改正が日本であったんですけど、この不備についてはどのように、なっているんでしょうか。」本木「そうですね。先月の法改正によって、国が口蹄疫の蔓延を防ぐために、ワクチンを接種して、家畜の殺処分を行う場合に、家畜の評価に見合う金額を補償するという仕組みがようやく整いました。」司会「補償制度ができたと。」本木「はい、さらに、宮崎県も今月、防疫マニュアルも見直しまして、発生直後に、まず半径1kmの農場の家畜の検査をやることになったんです。これは何かと言いますと、去年、家畜に異常がないかという確認を、現地、農場に入らずに、電話で済ませてしまったんですね。その結果、初期の感染の広がりに気付かずに、さらにその後のワクチン接種の遅れにもつながったという、反省があるんです。それを踏まえまして、今後は初期の検査で、感染の同時多発的な広がりが見つかったような場合は、県が国に速やかにワクチン接種を要請すると、そういう形になります。」司会「発生から1年がたちました今、法律やマニュアルの改善は見られるわけなんですけども、口蹄疫被害による教訓は行政や地域の現場で、どう生かされているんでしょうか。」(ナ:) 口蹄疫で大きな被害を受けた川南町、今、町は畜産農家を対象にした研修会を始めています。この日は、ウイルスが何を媒介して農場に入る可能性があるのか、専門家が説明を行いました。狙いは、口蹄疫を正しく理解し、発生農場に対する偏見をなくすこと、そして地域が一体となった感染防止体制をつくることです。さらに町は、出席する度にポイントが加算されるカードが配布されました。ポイントが高くなれば表彰し、低ければ補助金を減らすなどの規定を設け、積極的な参加を農家に呼びかけていく考えです。役場「みなさん、同じようなレベルで、あの、防災意識をもっていただくためには、必ずやはり、そういう研修会に来ていただく。まあ、加害者・被害者という意識じゃなくって、みんなで、その(口蹄疫を)撲滅しようと。」(2011年4月20日)(ナ:) 口蹄疫の被害を受けた農家たちも動き始めています。発生から1年を迎えたこの日、国と県の担当者を地元に迎えて、再発防止に向けて話し合いました。担当者「どうすれば(復興の)背中を押せるのか」。遠藤「批判だけしても仕方がないわけですから、今後どうやって、やっぱり、今の(復興の)効率というのかな、これを高めていくか、ということだと思うんですよ。」今後も、行政との対話の機会を設けることで、農家の声が届きやすい環境を作りたいと考えています。彌永「現場の声、現場の意見、現場の要望、まあ、やっぱり、どんどん行政にも伝えていかにゃいかんじゃろうから。伝えるためにも、こういう組織づくり、連携作りも大事かなあ思うてね。」(スタジオにて)司会「はい、彌永さんなどにご意見をいただきましたけれども、こういった動き出した取り組みを、白井さんはどのようにご覧になりましたか?」白井「まあ、取り組みとしてはですね、非常に良いことだろうと思うんですけど、でも、僕から見ますとですね、なんか、あくまでもですね、なんか農家の人を集めて、研修をすると、農家側に立ってないような、僕が印象を受けています。」司会「行政側が、農家側に立っていない。」白井「行政側がですね、集まってもらってポイントを稼いで、それで参加者を募るんではなくてですね、もう少し農家の側に立ってですね、会場を大きくするとか、機会をたくさんやってですね、農家の方にそれを伝えていく姿勢が必要なんじゃないかと僕は思います。」司会「なかなかこう、集まってくださいと言っても、お忙しかったり、お年をめしていたり、難しい方もいらっしゃいますよね。」白井「はい、ですから、もう、その何回もやるし、会場もたくさんやるし、それから農家の人だけじゃあなくてですね、町の人も含めてですね、みんなで口蹄疫に対していこうと、いう姿勢が必要じゃあないかと思います。」司会「そうやって、まあ本当に実際的にですね、体制づくりをする、あの、作っていくためにはですね、成功例というものが欲しいなと思うんですが、実際に実現できる、している所はあるんでしょうか。」白井「同じ宮崎県内でも、えびの市がですね、市全体がですね、口蹄疫に対するということを、農協を中心にやりまして、それができるようになりました。それで、成功、ほんとうに成功している。」司会「それはキーポイントになっているのは、どういうことでしょうか。一言でいえば。」白井「それは、みんなで畜産を守ろう。とにかく、えびの市からこれ以上広げない。畜産農家を守っていこうと、いうことだったと思います。」司会「キーマンになっているのは、行政、もしくは、JA、どちらですか。」白井「JAですね。」司会「組織づくりをして、」白井「はい、それで、なんですけど、最終的にそういう取り組みを指揮するのは、行政の方ですね。はい。」司会「さあ、こうやって口蹄疫から1年見てきましたけれども、今、東アジアでは口蹄疫が蔓延している中で、この九州の畜産、いわば地域の宝物だと思うんですが、どのような姿勢で守っていくべきか、白井さんはどうお考えですか?白井「エーとですね、まず、水際ですね。どのくらい流行しているかということを、まず危険であるということを伝えると、水際で押さえると、同時にですね、やはり、九州全体でですね、畜産は本当に宝なわけですから、そこをですね、みんな、畜産農家、そうじゃない人、にかかわらずですね、あの、取り組んでいこうと。とにかく、みんなで、敵は口蹄疫なんだと、それで出た農家というのは、みんなと一緒になって守ってあげようと、被害者であると、そういう認識の下にですね。この大事な九州の畜産、いろんな、そのおいしい肉牛とか、みんな銘柄ありますんで、それを守っていこうと、いう姿勢が僕は大事だと、いうふに思います。」司会「まず、水際で、まず口蹄疫を対策して、皆さんの意識づくりも、併せてやっていく、ということですね。どうもありがとうございました。東京農工大学教授の白井淳資さんとともにお話ししました。今日は、この辺で失礼します。」
【文責/解説】三谷克之輔 口蹄疫発生時、宮崎県知事は「疑似患畜が確認された」と報告している。口蹄疫ウイルスの感染を遺伝子検査で確認しての重要会見なのに、感染している可能性がある家畜(疑似患畜)が確認されたとは、科学的にも日本語としてもおかしなことだ。患畜では補償金が少ないからこう言ったのだそうだが、それなら患畜の補償金を、早く変更しておくべきだった。科学より政治を優先してそのままにするおかしな世界が、日本の家畜衛生の伝統らしい。この報道番組は、口蹄疫発生確認から1年という節目に製作されたが、素朴な疑問である「ワクチン接種をして、なぜ殺処分するの?」という視点がない。この素朴な視点から、この報道で明らかにされた問題点については、次回から検証していくことにする。 それにしても、国の口蹄疫対策の指揮を執る動物衛生課の川島課長は、ワクチン接種が遅れた理由として、「ワクチンを接種して殺処分するための、手当金が準備されていなかった」と説明している。いつ、誰が、どこで、殺処分を前提にしたワクチン接種を決めたのか?この報道番組では、誰もそのことを指摘しない。2001年、イギリスの口蹄疫大惨事から、ワクチン接種で感染拡大を阻止するのが世界の流れとなったと紹介しながら、日本でなぜ、ワクチン接種をして殺処分したのか、根本の問題が問われていない。日本の専門家たちは、殺処分を前提にした日本の口蹄疫対策の問題点についてはタブーのように触れない。素朴な疑問を追求しないで、報道まで国の対策の問題点をタブー視してどうする! 農家は専門家の説明を理不尽とは思いつつ、そこにウソがあるとは思わないのであろう。なぜワクチンを早く打たなかったのかと問わないで、ワクチン接種後の殺処分は国のためにやむを得ないと断腸の思いで承認したのに、なぜその措置が遅れたのかを追求している。感染拡大中は行政の措置に苛立ったであろうが、今は復興に行政の力が必要だ。いつまでも行政の責任を追及する余裕もメリットもない。市民もおかしいと思いつつ、嘘の情報の中で、「ワクチンを打ったら汚染国になって大変なのだろう」と納得する。こうして、殺処分を前提にした日本の口蹄疫防疫指針は、見直しがされないまま生き続けている。 日本の関係者から口蹄疫対策について取材しても真実は明らかにされない。NHKの報道の使命は、世界の最新の口蹄疫対策と技術革新について取材し、その真実を国民に知らせることではなかろうか。
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初稿 2013年2月16日
動画追加 2020年7月7日
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