鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

雷文図鍔 平安城象嵌 Heianjo-zogan Tsuba

2015-10-03 | 鍔の歴史
雷文図鍔 平安城象嵌


雷文図鍔 平安城象嵌

 過去にも紹介したと思うが、どうしても忘れることのできないのがこの鍔である。室町時代の、肉厚の土手耳を持つ甲冑師風の構造の鍔に、線象嵌による雷文を平地に、耳には菊花のような文様を施している。この簡潔ながら風趣に富んだ作は、文様が何であるかを追求することがいかにも無意味であることを感じさせる。鍔に文様が施されることが始まり、次第にその文様が複雑さを増してゆくという、時代の様子を良く示している作である。耳への装飾という点でも、頗る面白い。しかも鉄味が良く、後代の写し物ではない時代観が最大の魅力となっている。□

雷文図鍔 中根 Nakane Tsuba

2015-10-02 | 鍔の歴史
雷文図鍔 中根


雷文図鍔 中根

 耳に雷文を廻らせるという装飾のみの鍔がある。肥後金工の中根が得意としたようで、無銘の作を良く見かける。何らかの意味が備わっているのであろうと思うのだが、あまり追求しない方が良いのかもしれない。装飾はこれだけ。簡潔であり、すっきりとしていて面白いし、肥後拵などには合いそうである。因みに肥後拵は、揃金具で装飾するというより、全く異なった図柄や作者の金具を用い、全体でまとまりのある肥後の雰囲気を醸し出すというところに面白味がある。もちろん肥後拵だけでなく他の地域の金具でも同様に、特に揃金具とせず総体の美観を創出するために雰囲気の良い金具を集め、自らの感性に合致した拵とする楽しみもある。装剣小道具は元来拵として完成されていたものであるため、単なる金具のコレクションとするだけでなく、拵製作を通じて楽しむことをお薦めしたい。

雨龍図鍔 仙台清定 Kiyosada Tsuba

2015-10-01 | 鍔の歴史
雨龍図鍔 仙台清定


雨龍図鍔 仙台清定

 金の平象嵌や線象嵌による繊細で緻密な文様表現を得意としたのが仙台清定。平象嵌が地面よりわずかに高いという特徴がある。この鍔と縁頭が典型的作品。地面は石目地処理。線描写が赤銅の黒地にすっきりと起っている。端部への装飾という点では、縁も同様の効果を示している。このような線描写になる文様を得意としたことから、単純な金の小縁ではなく、幅のある明らかな装飾を加えたのであろう。鍔の耳は岩石状の石目地処理。幅のある耳際に雷文のような紗綾形文を加えて龍神の存在を明確にしている。