釜洗い図鐔 岩本昆寛
釜洗い図鐔 銘 岩本昆寛(花押)
釜洗い図と呼ばれている古くから有銘な鐔。岩本昆寛は鳥などに題を得た、洗練された美しさの追求も得意としたが、市井の人物に視線を投げかけた作品も多く、同時代の風俗を知る上での良き資料ともなっている。
この鐔も月が大きな意味を持っているようだ。舟で釜を洗う男がただ一人、ふと手をとめて月を見上げる。何年も故郷を離れて江戸に住み、家族を思い出す姿であろうか、頬かむりをした様子と、背をまるくした姿に寒々とした空気感が漂う。昆寛以前には奈良派の工が人物図を得意とし、さらに古くは金家が古典の図に倣って人物を描いたが、それはまさに古典的な意識、同時代に取材して描いた人物図もあるがそれは景色の一つ、安親から人間を描く意識が生まれたと推考され、長常も市井の人々に視点を置いたが風俗図としての面が強く、ようやく昆寛に至って心の内部の表現を試みたと言えようか。
題材は、川辺の舟で寝起きすることをやむなくされた人々。昆寛の活きた時代には飢饉などがあり、地方から江戸に出稼ぎに来たものの、満足な生活が得られない状況の人々が多かったようだ。そのような一人に視点をおいたものであろう。
鉄地を高彫にし、金銀素銅赤銅を象嵌し、細部にまで丁寧な鏨を加えている。鉄地は折り返し鍛錬して腐らかしを施したものであろうか、板目状の肌が現われており、空気の流れのような風合いを生み出している。竪丸形の空間を活かした構成も巧みで、朧なる夕月、裏面には帰雁を添景としている。昆寛の最高傑作のひとつである。
釜洗い図鐔 銘 岩本昆寛(花押)
釜洗い図と呼ばれている古くから有銘な鐔。岩本昆寛は鳥などに題を得た、洗練された美しさの追求も得意としたが、市井の人物に視線を投げかけた作品も多く、同時代の風俗を知る上での良き資料ともなっている。
この鐔も月が大きな意味を持っているようだ。舟で釜を洗う男がただ一人、ふと手をとめて月を見上げる。何年も故郷を離れて江戸に住み、家族を思い出す姿であろうか、頬かむりをした様子と、背をまるくした姿に寒々とした空気感が漂う。昆寛以前には奈良派の工が人物図を得意とし、さらに古くは金家が古典の図に倣って人物を描いたが、それはまさに古典的な意識、同時代に取材して描いた人物図もあるがそれは景色の一つ、安親から人間を描く意識が生まれたと推考され、長常も市井の人々に視点を置いたが風俗図としての面が強く、ようやく昆寛に至って心の内部の表現を試みたと言えようか。
題材は、川辺の舟で寝起きすることをやむなくされた人々。昆寛の活きた時代には飢饉などがあり、地方から江戸に出稼ぎに来たものの、満足な生活が得られない状況の人々が多かったようだ。そのような一人に視点をおいたものであろう。
鉄地を高彫にし、金銀素銅赤銅を象嵌し、細部にまで丁寧な鏨を加えている。鉄地は折り返し鍛錬して腐らかしを施したものであろうか、板目状の肌が現われており、空気の流れのような風合いを生み出している。竪丸形の空間を活かした構成も巧みで、朧なる夕月、裏面には帰雁を添景としている。昆寛の最高傑作のひとつである。