鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

十二支図鐔 藻柄子宗典 Soten Tsuba

2014-12-17 | 鍔の歴史
十二支図鐔 藻柄子入道宗典


十二支図鐔 藻柄子入道宗典

 象嵌というと鉄地に施すものという認識が強い。以前紹介した金家は、鉄地に同じ鉄地の高彫された像を嵌入するという奇抜な手法を試みた。作品の総体が、結果として鉄地高彫表現になるのであれば、何も難しい象嵌をすることもなかろう。鑑賞者は、その技術を見たいのではなく、完成された作品を見たいのである。ところが表現者にとっては、自らの技術の高さを知ってほしいと願うのは当然であり、金家は、何とわずか2ミリに満たない地面に高彫の塑像を象嵌したのであった。
江戸時代中期の彦根金工藻柄子宗典も凄いことをやっている。この鍔は赤銅魚子地に彫り出された十二支だが、どのような工法に見えるだろうか。高彫に色絵、あるいは高彫された塑像の象嵌、という認識が一般的だが、これら高彫部分の多くが、目貫のように裏から打ち出した高彫の像であり、彫り込んだ魚子地の地面に焼き付けているのである。即ち、高彫とその下の地の一部に空洞があるのだ。何でそんなことをするの?って思う。金をケチっているわけでもないだろうし、濃い金色を求めるのであれば厚手の金を被せれば良いはず。宗典が、自らの卓越した技術力を明示した作である。作品としても迫力があり、凄い。
 偶然だが、刀剣美術誌最新号(2014年12月号)に、本作が紹介されている。宗典の素晴らしさを説明しているのだが、この奇抜な技術には触れていない。このような、常を逸した宗典の凄い作品の本質を説明していないのは残念である。細部まで仔細に確認すれば、自ずとこの技術が秘めている意味合いが判ると思うのだが。